最新判例番外編 都庁・特別区「法律事情」特集
II.衆議院選挙で小選挙区・比例代表への重複立候補を政党所属者等に制限することの合憲性(最大判平11.11.10)

【判例のポイント】
1.選挙制度の策定は、国会の裁量による。
2.政党本位の選挙を目指すため、重複立候補制を採用したこと自体は、憲法前文・43条1項・14条1項・15条3項・44条に違反しない。
3.重複立候補できる者が一定の要件を満たす政党等に所属する者に限定されていることには、相応の合理性が認められ、不当に立候補の自由や選挙権の行使を制限するとはいえない。
4.行うことができる選挙運動の規模が候補者の数に応じて拡大されるという制度は、衆議院名簿届出政党等の間に取扱い上の差異を設けるものではあるが、合理的理由に基づくものであり、憲法15条1項3項・44条・14条1項・47条・43条1項に違反しない。
5.比例代表選挙が直接選挙に当たらないということはできず、憲法43条1項・15条1項3項に違反しない。

【判旨】
「選挙制度の仕組みを具体的に決定することは国会の広い裁量にゆだねられているところ、同時に行われる二つの選挙に同一の候補者が重複して立候補することを認めるか否かは、右の仕組みの一つとして、国会が裁量により決定することができる事項であるといわざるを得ない。
 改正公選法八七条は重複立候補を原則として禁止しているが、これは憲法から必然的に導き出される原理ではなく、立法政策としてそのような選択がされているものであり、改正公選法八六条の二第四項が政党本位の選挙を目指すという観点からこれに例外を設けたこともまた、憲法の要請に反するとはいえない
 重複して立候補することを認める制度においては、一の選挙において当選人とされなかった者が他の選挙において当選人とされることがあることは、当然の帰結である。
 したがって、重複立候補制を採用したこと自体が憲法前文、四三条一項、一四条一項、一五条三項、四四条に違反するとはいえない
 もっとも、衆議院議員選挙において重複立候補をすることができる者は、改正公選法八六条一項一号、二号所定の要件を充足する政党その他の政治団体に所属する者に限られており、これに所属しない者は重複立候補をすることができないものとされているところ、被選挙権又は立候補の自由が選挙権の自由な行使と表裏の関係にある重要な基本的人権であることにかんがみれば、合理的な理由なく立候補の自由を制限することは、憲法の要請に反するといわなければならない。
 しかしながら、右のような候補者届出政党の要件は、国民の政治的意思を集約するための組織を有し、継続的に相当な活動を行い、国民の支持を受けていると認められる政党等が、小選挙区選挙において政策を掲げて争うにふさわしいものであるとの認識の下に、第八次選挙制度審議会の答申にあるとおり、選挙制度を政策本位、政党本位のものとするために設けられたものと解されるのであり、政党の果たしている国政上の重要な役割にかんがみれば、選挙制度を政策本位、政党本位のものとすることは、国会の裁量の範囲に属することが明らかであるといわなければならない。
 したがって、同じく政策本位、政党本位の選挙制度というべき比例代表選挙と小選挙区選挙とに重複して立候補することができる者が候補者届出政党の要件と衆議院名簿届出政党等の要件の両方を充足する政党等に所属する者に限定されていることには、相応の合理性が認められるのであって、不当に立候補の自由や選挙権の行使を制限するとはいえず、これが国会の裁量権の限界を超えるものとは解されない
 そして、行うことができる選挙運動の規模が候補者の数に応じて拡大されるという制度は、衆議院名簿届出政党等の間に取扱い上の差異を設けるものではあるが、選挙運動をいかなる者にいかなる態様で認めるかは、選挙制度の仕組みの一部を成すものとして、国会がその裁量により決定することができるものというべきである。
 一般に名簿登載者の数が多くなるほど選挙運動の必要性が増大するという面があることは否定することができないところであり、重複立候補者の数を名簿登載者の数の制限の計算上除外することにも合理性が認められるから、前記のような選挙運動上の差異を生ずることは、合理的理由に基づくものであって、これをもって国会の裁量の範囲を超えるとはいえない
 これが選挙権の十全な行使を侵害するものでないことも、また明らかである。
 したがって、右のような差異を設けたことが憲法一五条一項、三項、四四条、一四条一項、四七条、四三条一項に違反するとはいえない
 また、政党等にあらかじめ候補者の氏名及び当選人となるべき順位を定めた名簿を届け出させた上、選挙人が政党等を選択して投票し、各政党等の得票数の多寡に応じて当該名簿の順位に従って当選人を決定する方式は、投票の結果すなわち選挙人の総意により当選人が決定される点において、選挙人が候補者個人を直接選択して投票する方式と異なるところはない。
 複数の重複立候補者の比例代表選挙における当選人となるべき順位が名簿において同一のものとされた場合には、その者の間では当選人となるべき順位が小選挙区選挙の結果を待たないと確定しないことになるが、結局のところ当選人となるべき順位は投票の結果によって決定されるのであるから、このことをもって比例代表選挙が直接選挙に当たらないということはできず、憲法四三条一項、一五条一項、三項に違反するとはいえない。」

(沖田)


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