国際法インサイト第5回 注釈
1 「領域国は、事前の同意・許可のない外国の民間航空機による領空侵入に対しては、遭難・過失に基づく場合は強制着陸・航路変更の命令を発し、故意に基づく場合は機長の処罰を科しうるだけであり、原則として武力の使用は禁止される。」「他方、明らかに軍用機と識別できる外国航空機の領空侵入については事情は異なる。領域国が、侵入機による武力攻撃に対しては自衛権行使で対抗できるのは当然として、偵察・空中撮影などもスパイ行為と認定して、撃墜し乗員を処罰する場合もある。しかし、侵入機の本国は、撃墜に抗議したり領域国の刑法の適用についての適法性を争ったりもしていない(1960年、旧ソ連によるU2型米国偵察機撃墜事件)」山本草二『国際法(新版)』(有斐閣)pp.213,466. 同様の立場として奥脇・小寺編『国際法キーワード』(有斐閣)p.113(訳者注)
2 防空圏(防空識別圏)…「国内法に基づいて領海に隣接する広汎な公海の上空に設定し、なるべく早期に国籍識別、位置決定、管制を行えるように、この空域に来入する外国航空機に対して経路・目的地・速度に関する情報の提供を要求するもの。1950年以来、米、加、仏、日等10ヶ国が設定。これに従わずに領域国に向かって飛行する外国航空機に対しては、公海上で軍用機による進路妨害・着陸要求等の実力行使を定める国(カナダ)もある。しかし、少なくともこのような強制措置を伴う管轄権の拡大は、上空飛行の自由を侵害し、国際法に違反する(自衛権行使の要件を充たさず、また国際慣習法規としても成立していない)」山本草二『国際法(新版)』(有斐閣)p.467.「国家管轄権の域外適用の一例とも考えられるが、公空(公海とEEZの上空のこと)における飛行の自由に反する」筒井若水編『国際法辞典』p.309(訳者注)
3 3ILC国家責任条約案32条の違法性阻却事由。「国家の行為を行う者が自己または保護を委託された者の生命を救助するために、国際義務に反する手段しかとりえない場合をいう。不可抗力や偶発事態と異なり、行為者の側に国際義務に違反しない行動を選択する余地がある。しかし、国際義務を遵守するならば、自己または保護を委託された他者が切迫した危難に必然的に遭遇するため、その義務の遵守をほとんど希にしか期待し得ない。このような理由から、遭難は違法性が阻却される事由とされる。例えば、国家の航空機または船舶が遭難に直面して許可なく他国領域に着陸または入港する場合に、この抗弁が認められる。生命が危難に直面している場合の国境侵犯についても同様である。」杉原高嶺他『現代国際法講義(第2版)』(有斐閣)pp.333-338.しかし、「6つの違法性阻却事由のうち自衛、対抗措置を除く4つのカテゴリーについては、違法性が阻却されても責任が阻却されるとは限らない(補償が必要となる場合もありうる)(条約案35条)」『国際法辞典』p.155(訳者注)
4 See 1981-88 (II) Cumulative Digest of United States Practice in International Law 1751.
5 在テヘラン米国外交・領事官事件,1980 I.C.J. Reports 3, 19 I.L.M. 553 (1980)
6 11 U.S. 116 (1812).田畑茂二郎他『判例国際法』(東信堂)p.80, 山本草二他編『国際法判例百選』(別冊ジュリスト156号、有斐閣)p.52-53. (訳者注)
7 1833 U.N.T.S. 3, 21 I.L.M. 1261 (1982)
8 国連海洋法条約32条【軍艦及び非商業目的のために運航するその他の政府船舶に与えられる免除】「この前のA及び前二条の規定による例外を除くほか、この条約のいかなる規定も、軍艦及び非商業的目的のために運航するその他の政府船舶に与えられる免除に影響を及ぼすものではない」。
ちなみに川崎恭治教授は次のようにいう。「この規定は、それ自体としては免除の内容に言及してはいないが、沿岸国の領海(および内水)における外国軍艦及び非商業用政府船舶に対する免除を認める慣習国際法の存在を前提にしていると解される。もっともこの免除はあくまで沿岸国の司法管轄権と執行管轄権からの免除であり、立法管轄権からの免除ではない。従ってこれらの船舶は、沿岸国の関連国内法令を遵守しなければならず、遵守しない場合には、退去を要求されたり、その結果生じた損害につき旗国の国際責任が追及されたりする可能性がある(30・31条)」『国際法判例百選』p.53(訳者注)
9 See Contemporary Practice of the United States, 62 AJIL 756 (1968).