<問題>
国際連合総会が、「核兵器の威嚇又は使用は、国際法の下で、いかなる状況においても許容されるか」について勧告的意見を求めたのに対し、国際司法裁判所は、「核兵器の威嚇又は使用は、武力紛争に適用される国際法の原則、特に人道法の原則及び規則に一般的には違反するであろう。しかしながら、……国家の生存そのものが危うくされるような自衛の極限的状況において、核兵器の威嚇又は使用が合法であるか違法であるかについては、裁判所は確定的に結論を下すことができない」と回答した。現在の国際社会における法の機能を念頭に置いて、この勧告的意見を論評せよ。
<コメント>
核兵器使用の勧告的意見に関する問題は、平成10年の外務
I 種試験でも出題されており、安藤先生の学部試験でも出題されている。また、奥脇先生も関心分野で、筆者も過去の講義で論評されておられたのを聞いたことがある。
セミナーでは、国 I 上位合格講座の最終回のレジュメ、ワークブックなら156〜157ページ、国
I 国際法特別講座のワークブックでは、282ページ以下で解説した通り。
問題文の総会の請求の仕方と勧告的意見本文の結論部分との対応関係について、「国際社会の法の機能を念頭に置いて」問題意識とされるのは奥脇先生と思われる。旧外Tの引き続きの受験生にとっては楽勝だったろう。但し、問題のレベルは一級であり、出題の仕方も一流のセンスがある。
問題文の結論部分を導き出す前提として、ICJは、総会からの一般的・抽象的諮問について、まず核兵器の使用を禁止する条約・慣習法が存在しないかを検討し、存在しないとした。次に、国連憲章との関係を探り、自衛権の要件に反する使用は違法であるとした。さらに、国際人道法との関係を検討し、問題文にあるような結論に至った。
論評せよ、とはこの勧告的意見の問題点を評価せよということである。
まず、一般的には違反するという「国際法の原則、特に人道法の原則及び規則」とは、いかなる法源か、裁判基準(ICJ規程38条)においては何に該当するか。この「国際法の原則」を山本草二はdの「法則決定補助手段」であると位置づける。次に、第一文の評価について、絶対的違法説の反対意見があること、反対に核兵器のどのような性質が人道法のどのような原則に違反するか具体的な説明不足であることを指摘するヒギンズ判事の反対意見があることについて言及する。
さらに、第二文の意味について評価する。これが、法の欠缺による裁判不能の宣言であることを何人かの判事が宣言していること。具体的事件性を前提とせず、核兵器の使用を規律する国際法がない状況のもとで、一般的・抽象的な諮問を行った場合に、裁判所という法原理機関が直面した限界であることを指摘するとよい。そのほかに、自衛の極限状況の意味、挙証責任の転換、裁判所が宣言した核軍縮交渉誠実達成完了義務にまで言及できれば完璧である。何よりも、法定立機関としての総会と司法機関としてのICJのキャッチボールで、核兵器に関する法の欠缺が明示された点を強調することがポイントとなる。(杉原)
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