行政法第1位 (6/8)
(最判平10.12.18=平10重判7=判例六法・地方自治法242条の2第11番)
【論点】
一、監査委員が適法な住民監査請求を不適法であるとして却下した場合、当該請求をした住民は、直ちに住民訴訟を提起することができるか? また、同一の財務会計上の行為又は怠る事実を対象として再度の住民監査請求をすることも許されるか?(いずれも肯定)
二、監査委員が適法な住民監査請求を不適法であるとして却下した場合、住民訴訟の出訴期間は、どうなるか?(地方自治法242条の2第2項1号に準じ、却下の通知があった日から30日以内と解する)
 
【判旨】
一、 監査委員が適法な住民監査請求を不適法であるとして却下した場合、当該請求をした住民は、適法な住民監査請求を経たものとして、直ちに住民訴訟を提起することができるのみならず、当該請求の対象とされた財務会計上の行為又は怠る事実と同一の財務会計上の行為又は怠る事実を対象として再度の住民監査請求をすることも許されるものと解すべきである。住民監査請求の制度は、住民訴訟の前置手続として、まず監査委員に住民の請求に係る財務会計上の行為又は怠る事実について監査の機会を与え、当該行為又は怠る事実の違法、不当を当該普通地方公共団体の自治的、内部的処理によって予防、是正させることを目的とするものであると解される。そして、監査委員が適法な住民監査請求により監査の機会を与えられたにもかかわらずこれを却下し監査を行わなかったため、当該行為又は怠る事実の違法、不当を当該普通地方公共団体の自治的、内部的処理によって予防、是正する機会を失した場合には、当該請求をした住民に再度の住民監査請求を認めることにより、監査委員に重ねて監査の機会を与えるのが、右に述べた住民監査請求の制度の目的に適合すると考えられる。また、監査委員が住民監査請求を不適法であるとして却下した場合、当該請求をした住民が、却下の理由に応じて必要な補正を加えるなどして、当該請求に係る財務会計上の行為又は怠る事実と同一の行為又は怠る事実を対象とする再度の住民監査請求に及ぶことは、請求を却下された者として当然の所為ということができる。そうであるとすれば、当初の住民監査請求が適法なものであるため直ちに住民訴訟を提起することができるとしても、当該請求をした住民が住民訴訟を提起せずに再度の住民監査請求に及んだ場合に、右請求が当初の請求とその対象を同じくすることを理由に不適法であるとするのは、出訴期間等の点で当該住民から住民訴訟を提起する機会を不当に奪うことにもなって、著しく妥当性を欠くというべきである。
二、 監査委員が適法な住民監査請求を不適法であるとして却下した場合、当該請求をした住民が提起する住民訴訟の出訴期間は、法二四二条の二第二項一号に準じ、却下の通知があった日から三〇日以内と解するのが相当である。同項一号ないし四号の規定は、住民監査請求の対象となる財務会計上の行為又は怠る事実について、いつまでも争い得る状態にしておくことは、法的安定性の見地からみて好ましくないため、これを早期に確定させようとの趣旨から、住民監査請求をした住民において、当該請求に係る行為又は怠る事実について住民訴訟を提起するか否かの判断を、その提起が法的に可能となった時点から三〇日以内の期間にさせる趣旨のものである。そして、監査委員が適法な住民監査請求を不適法であると認めてその旨を書面により請求人に通知した場合には、当該請求に対する監査委員の監査は行われていないものの、当該請求に対する監査委員の判断結果が確定的に示されている点において、監査委員が請求に理由がないと認めてその旨を書面により請求人に通知した場合と異なるところがない。そうすると、当該請求をした住民は、却下の通知を受けた時点において、当該請求に係る行為又は怠る事実について住民訴訟を提起することが法的に可能な状態になったものとして、同項一号にいう監査委員の監査の結果に不服がある場合に準じて、却下の通知を受けた日から三〇日以内に住民訴訟を提起しなければならないと解するのが、住民訴訟の出訴期間を規定した同項の趣旨に沿うものというべきである。

【判例のポイント】
1. 監査委員が適法な住民監査請求を不適法であるとして却下した場合、当該請求をした住民は、(i)適法な住民監査請求を経たものとして、直ちに住民訴訟を提起することができるのみならず、(ii)当該請求の対象とされた財務会計上の行為又は怠る事実と同一の財務会計上の行為又は怠る事実を対象として再度の住民監査請求をすることも許される。
2. 監査委員が適法な住民監査請求を不適法であるとして却下した場合、当該請求をした住民が提起する住民訴訟の出訴期間は、法二四二条の二第二項一号に準じ、却下の通知があった日から三〇日以内と解するのが相当である。

【ワンポイントレッスン】
1.住民訴訟においては、住民監査請求前置主義が採られている。本件では、監査委員が適法な住民監査請求を不適法であるとして却下した場合、住民監査請求をした住民の手続上の地位の保護をどう図るかが問題となった。最高裁は、住民監査請求をした住民は、(i)直ちに住民訴訟を提起することができるのみならず、(ii)再度の住民監査請求をすることも許される、と判示して、住民の保護を図った。
2.そして、最高裁は、監査委員が適法な住民監査請求を不適法であるとして却下した場合、住民監査請求をした住民が(i)住民訴訟を提起することを選択した場合、当該請求をした住民が提起する住民訴訟の出訴期間は、地方自治法242条の2第2項1号に準じ、却下の通知があった日から30日以内と解するのが相当である、とした。

【試験対策上の注意点】
 地方自治法242条と242条の2は、必ず条文に目を通し、最高裁の判例を全部チェックしておこう。論文試験は、地上が危ない。

(渡辺)


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