行政法第3位 (6/9)
(最判平10.4.10=平10重判5=判例六法・行政事件訴訟法9条34番)
【論点】
 再入国不許可処分を受けた者が本邦から出国した場合には、右不許可処分の取消しを求める訴えの利益は失われるか?(失われる)
【判旨】
一、 再入国の許可申請に対する不許可処分を受けた者が再入国の許可を受けないまま本邦から出国した場合には、右不許可処分の取消しを求める訴えの利益は失われるものと解するのが相当である。その理由は、次のとおりである。
二、 本邦に在留する外国人が再入国の許可を受けないまま本邦から出国した場合には、同人がそれまで有していた在留資格は消滅するところ、出入国管理及び難民認定法二六条一項に基づく再入国の許可は、本邦に在留する外国人に対し、新たな在留資格を付与するものではなく、同人が有していた在留資格を出国にもかかわらず存続させ、右在留資格のままで本邦に再び入国することを認める処分であると解される。そうすると、再入国の許可申請に対する不許可処分を受けた者が再入国の許可を受けないまま本邦から出国した場合には、同人がそれまで有していた在留資格が消滅することにより、右不許可処分が取り消されても、同人に対して右在留資格のままで再入国することを認める余地はなくなるから、同人は、右不許可処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を失うに至るものと解すべきである。そして、右の理は、右不許可処分を受けた者が日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定の実施に伴う出入国管理特別法(以下「出入国管理特別法」という。)一条の許可を受けて本邦に永住していた場合であっても、異なるところがないというべきである。

【判例のポイント】
1.再入国の許可申請に対する不許可処分を受けた者が再入国の許可を受けないまま本邦から出国した場合には、右不許可処分の取消しを求める訴えの利益は失われる。
2.「出入国管理特別法」一条の許可を受けて本邦に永住していた場合であっても、再入国の許可申請に対する不許可処分を受けた者が再入国の許可を受けないまま本邦から出国した場合には、同人がそれまで有していた在留資格が消滅することにより、右不許可処分が取り消されても、同人に対して右在留資格のままで再入国することを認める余地はなくなるから、同人は、右不許可処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を失うに至る。

【ワンポイントレッスン】
1.不許可処分などの申請拒否処分についての取消訴訟で、判決で拒否処分が取消された場合、被告行政庁は、判決の趣旨に従って、申請に対する審査をやり直し、改めて処分をしなければならない(行政事件訴訟法33条2項)。しかし、そこで基礎とされる法令または事実関係は、やり直された審理の時点のものである。
2.本件の再入国許可処分では、在留資格が前提となるが、最高裁は、再入国許可を得ずに出国した時点で、在留資格を失い、その結果、再入国許可処分の取消を求める訴えの利益を失うとしている。
3.しかし、最高裁のように解すると、再入国不許可処分を受けた外国人は、事実上、旅行を断念して判決を待つか、在留資格を放棄して出国をするかの二者択一を迫られる子のになるので、訴えの利益を認める説もある(重判解説)。
4.なお、最高裁は、国家賠償請求についても、 法務大臣が、日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定の実施に伴う出入国管理特別法1条の規定に基づく許可を受けて本邦で永住することができる地位を有していた者に対し、外国人登録法(昭和62年法律第102号による改正前のもの)14条1項に基づく指紋の押なつを拒否していることを理由としてした再入国不許可処分は、当時の社会情勢や指紋押なつ制度の維持による在留外国人及びその出入国の公正な管理の必要性など判示の諸事情に加えて、再入国の許否の判断に関する法務大臣の裁量権の範囲がその性質上広範なものとされている趣旨にもかんがみると、右不許可処分が右の者に与えた不利益の大きさ等を考慮してもなお、違法であるとまでいうことはできない、とし原告の主張を退けている。

【試験対策上の注意点】
 訴えの利益についても、最高裁の判例を全部チェックしておこう。論文試験では、単独で出されることは、少ない。

(渡辺)


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