行政法第5位 (6/10)
(最判平10.7.16=平10重判3=判例六法・行政法総論III行政上の一般的制度3番)
【論点】
一、酒税法9条1項、10条11号は、憲法22条1項に違反するか?(反しない)
二、酒類販売業免許の申請に係る小売販売地域が事務所や商店の集中する昼間人口の多い地区において、既に酒類販売業免許等取扱要領(「酒類の販売業免許等の取扱について」国税庁長官通達の別冊)の定める基準人口比率を著しく上回る数の販売場に免許が付与されている場合、右取扱要領に従ってされた酒税法10条11号に該当することを理由とする免許の拒否処分は、適法か?(適法である)
 
【判旨】
一、 酒税法が酒類販売業につき免許制を採用したのは、納税義務者である酒類製造者に酒類の販売代金を確実に回収させ、最終的な担税者である消費者に対する税負担の円滑な転嫁を実現することを目的として、これを阻害するおそれのある酒類販売業者の酒類の流通過程への参入を抑制し、酒税の適正かつ確実な賦課徴収という重要な公共の利益を図ろうとしたものと解される。このような酒類販売業免許制の採用後、社会経済の状況や税制度の変化に伴い、酒税の国税収入全体に占める割合等が相対的に低下してきているが、本件処分当時(平成四年七月二日)においても、なお酒税の収入総額が多額であって、販売代金に占める酒税比率も高率であること、酒税の賦課徴収に関する仕組み自体がその合理性を失うに至っているとはいえないことなどからすると、酒税の徴収のため酒類販売業免許制を存置させていたことが、立法府の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので著しく不合理であるとまで断定することはできない(最高裁平成六年(行ツ)第七六号同一〇年三月二六日第一小法廷判決・裁判集民事一八七号登載予定参照)。また、本件処分の理由とされた酒税法一〇条一一号は、酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるため免許を与えることが適当でないと認められる場合に酒類販売業の免許を与えないことができる旨定めるところ、その趣旨は、免許の申請者が参入することにより申請に係る小売販売地域における酒類の需給の均衡が破れて供給過剰となった場合には、酒類販売業者の経営の基礎が危うくなり、その結果、酒類製造者による酒類販売代金の回収に困難を来し、酒税の適正かつ確実な徴収に支障を生ずるおそれがあることから、新規の参入を調整することによって、供給過剰となる事態を避けようとしたものと解され、右規定は、前記立法目的を達成するための手段として、合理性を有するものということができる。そうすると、酒税法九条一項、一〇条一一号の規定が、憲法二二条一項に違反するものということはできない。以上は、当裁判所大法廷判決(最高裁昭和四三年(行ツ)第一二〇号同五〇年四月三〇日判決・民集二九巻四号五七二頁、最高裁昭和五五年(行ツ)第一五号同六〇年三月二七日判決・民集三九巻二号二四七頁)の趣旨に徴して明らかである(最高裁昭和六三年(行ツ)第五六号平成四年一二月一五日第三小法廷判決・民集四六巻九号二八二九頁参照)。
二、 平成元年取扱要領は、昭和三八年取扱要領における問題点を是正することを目的として改正されたものであり、実態に合わせて算出された基準人口比率によって酒類の需給の均衡を図ることとしたほか、前記ただし書条項を全面的に削除し、逆に、所定の基準人口に適合しない場合であっても、免許を付与し得る道を開いたものと解され、恣意を排するとともに、柔軟な運用の余地も持たせたものとみることができる。そして、酒類の消費量は、何よりも当該販売地域に居住する人口の大小によって左右されるものと考えられるから、これを基準として需給の均衡を図ることは、世帯数等を基準とするよりも合理的な認定方法ということができる。したがって、平成元年取扱要領における酒税法一〇条一一号該当性の認定基準は、当該申請に係る参入によって当該小売販売地域における酒類の供給が過剰となる事態を生じさせるか否かを客観的かつ公正に認定するものであって、合理性を有しているということができるので、これに適合した処分は原則として適法というべきである。もっとも、酒税法一〇条一一号の規定は、前記のとおり、立法目的を達成するための手段として合理性を認め得るとはいえ、申請者の人的、物的、資金的要素に欠陥があって経営の基礎が薄弱と認められる場合にその参入を排除しようとする同条一〇号の規定と比べれば、手段として間接的なものであることは否定し難いところであるから、酒類販売業の免許制が職業選択の自由に対する重大な制約であることにかんがみると、同条一一号の規定を拡大的に運用することは許されるべきではない。したがって、平成元年取扱要領についても、その原則的規定を機械的に適用さえすれば足りるものではなく、事案に応じて、各種例外的取扱いの採用をも積極的に考慮し、弾力的にこれを運用するよう努めるべきである。上告人の申請に係る小売販売地域が事務所や商店の集中する昼間人口の多い地区であることは公知の事実であるから、例外的取扱いの採否が問題とされるべきであるが、他方、既に基準人口比率四五を著しく上回る数の販売場に免許が付与されていることも考慮すると、平成元年取扱要領に従ってされた本件処分に違法はないとした原審の判断は、正当として是認することができる。

【判例のポイント】
1.酒税法九条一項、一〇条一一号の規定は、憲法二二条一項に違反しない。
2.小売販売地域が事務所や商店の集中する昼間人口の多い地区であることは公知の事実であるから、例外的取扱いの採否が問題とされるべきであるが、他方、既に基準人口比率四五を著しく上回る数の販売場に免許が付与されていることも考慮すると、平成元年取扱要領に従ってされた本件処分に違法はない

【ワンポイントレッスン】
1.本件は、最高裁が酒類販売免許制につき、敬譲的審査基準を用い、合憲とした4つ目の判例である(平10重判憲法6も参照)。ここでは、消極目的規制・積極目的規制二分論を採用しておらず、積極目的規制と同じ基準を用いている。
2.最高裁が、例外的取扱いの採否が問題とされるべきであるとしながらも、例外的取扱い(免許)をしなかったか、については理由がない。

【試験対策上の注意点】
 酒類販売免許制が合憲であることについては、憲法で出る可能性がある。また、国 I 論文論文試験では、二分論の応用として出る可能性がある。他の論文試験では、二分論が書ければ充分である(加点事由)。判旨の二は、行政法の択一試験プロパーの問題である(共通)。

(渡辺)


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