憲法人権第1位 (4/3)
(最大判平10.9.2=平10重判・憲法7=判例六法・憲法14条35番)

 平成6年に行われた参議院選挙区選出議員の定数配分規定の変更により、いわゆる「逆転現象」(選挙人の多い選挙区の定数が選挙人の少ない選挙区の定数よりも少ない状態)は解消されたものの、最大「1対4.81」の、選挙区間における議員一人当たりの人口較差が残った。定数配分規定の合憲性が争われたのが、本事例である。

【論点】
◎1.参議院選挙における一票の較差(選挙権の平等、憲法14条)
△2.同一の選挙区内の複数の選挙人が提起した選挙の効力に関する訴訟が、類似必要的共同訴訟に該当するか(民事訴訟法40条)

【判旨】
「憲法一四条一項の定める法の下の平等の原則は、国会の両議院の議員を選挙する国民固有の権利につき、単に選挙人の資格における差別を禁止する(憲法四四条ただし書)にとどまらず、選挙権の内容の平等、換言すれば、議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等、すなわち投票価値の平等をも要求するものと解するのが相当である。
 しかしながら、憲法は、国会の両議院の議員の選挙について、およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(四三条、四七条)、どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるのかの決定を国会の広い裁量にゆだねているのであるから、憲法は、右の投票価値の平等を選挙制度の仕組みの決定における唯一、絶対の基準としているものではなく、投票価値の平等は、原則として、国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものと解さなければならない。
 それゆえ、国会の具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り、それによって右の投票価値の平等が損なわれることになっても、やむを得ないものと解すべきである。」

「参議院議員の選挙制度の仕組みは、憲法が二院制を採用した趣旨から、ひとしく全国民を代表する議員であるという枠の中にあっても、参議院議員の選出方法を衆議院議員のそれとは異ならせることによってその代表の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとする意図の下に、参議院議員を全国選出議員ないし比例代表選出議員と地方選出議員ないし選挙区選出議員とに分け、後者については、都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と実体を有し政治的に一つのまとまりを有する単位としてとらえ得ることに照らし、これを構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しようとしたものであると解することができる…右のような選挙制度の仕組みの下では、投票価値の平等の要求は、人口比例主義を最も重要かつ基本的な基準とする選挙制度の場合と比較して、一定の譲歩を免れないと解さざるを得ない。」

「議員定数配分規定の制定若しくは改正の結果、又はその後に人口の異動が生じた結果、各選挙区間における議員一人当たりの選挙人数又は人口の較差が生じ、あるいは、右較差が拡大するなどして、当初における議員定数の配分の基準及び方法と現実の配分の状況との間にそごを来したとしても、その一事では直ちに憲法違反の問題が生ずるものではなく、当該選挙制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態を生じさせる議員定数配分規定の制定又は改正をしたこと、あるいは、その後の人口異動が右のような不平等状態を生じさせ、かつ、それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する何らの措置も講じないことが、複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量的権限に係るものであることを考慮してもその許される限界を超えると判断される場合に、初めて議員定数の配分の定めが憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。」

 本件改正の結果、「国勢調査による人口に基づく選挙区間における議員一人当たりの人口の較差は、最大一対六・四八から最大一対四・八一に縮小し、いわゆる逆転現象は消滅することとなった。その後、本件定数配分規定の下において、人口を基準とする右較差は、平成七年一〇月実施の国勢調査結果によれば最大一対四・七九に縮小し、また、選挙人数を基準とする右較差も、本件改正当時における最大一対四・九九から本件選挙当時における最大一対四・九七に縮小している…右の較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は、当該選挙制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度に達しているとはいえず、本件改正をもって、その立法裁量権の限界を超えるものとはいえないというべきである。そして、右のとおり、本件改正後の本件定数配分規定の下における議員一人当たりの人口の較差及び選挙人数の較差は、いずれも、本件改正当時に比べて縮小しているというのであるから、本件選挙当時において本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない。」

 上告人河原正和及び同土釜惟次の各上告について「上告人河原正和及び同土釜惟次は、上告の理由を記載した書面を提出せず、また、同一の選挙区内の複数の選挙人の提起した選挙の効力に関する訴訟がいわゆる類似必要的共同訴訟に該当すると解することもできないから、右上告人らの各上告は却下を免れない。」

【判例のポイント】
1.憲法14条は、「投票価値の平等」をも要求する。
2.選挙制度の決定は国会の広い裁量に委ねられる。
3.国会の裁量権の範囲内で、投票価値の平等も制限される。
4.参議院は、都道府県代表的な性格を持ち、人口比例主義は後退する。
5.最初から不平等な議員定数配分規定を制定した、又は、事後的な不平等状態を相当期間放置したことが、国会の立法裁量の限界を超えたとき、初めて違憲となる。
6.以上の点につき、従来の判例を踏襲。
7. 「1対4.81」の一票の較差は、憲法14条に違反しない。
8.同一の選挙区内の複数の選挙人の提起した選挙の効力に関する訴訟は、「類似必要的共同訴訟」に該当しない。

【ワンポイントレッスン】
1.一票の較差
 憲法は「2院制」を採用しており(42条)、両議院は「全国民の代表」(43条)であるが、全く同じ性格を与えてしまっては、せっかく二つもある意味がない。そこで、判例は
 衆議院=全国民代表
 参議院=全国民代表+地域代表
という、意味付けをしている。
 学説では、衆議院については、一票の較差「1対2」が合憲ライン、とするのが多数説であるが、参議院については、「1対2」〜「1対5」まで争いがある(芦部・憲法P137)。
 確かに、二院制の趣旨より、参議院については立法裁量が広く解されるが、事実上「田舎は一人4票、都会は一人1票」という異常な状況は、果たして、やむを得ない合理性が認められるだろうか?
 やはり、参議院についても、「1対2」以内になるべく近づくよう、選挙制度を改革していくべきである。

2.選挙権の平等違反の違憲審査基準
 論文試験のある受験生は、以下の芦部説を押さえておこう(芦部・憲法P125)。
 厳格審査基準
  立法目的=やむにやまれぬ公共的利益(必要不可欠な公益)
  立法目的達成手段=是非とも必要な最小限度

なお、佐藤説は、厳格な合理性の基準(LRAの基準)だが、芦部説と大差はない。
 厳格な合理性の基準(LRAの基準)
  立法目的=重要
  立法目的達成手段=必要最小限度

3.選挙無効訴訟(公職選挙法208条)は、住民訴訟(地方自治法242条の2)とともに民衆訴訟(行政事件訴訟法5条)の一種である点に注意すること。

【試験対策上の注意点】
1.一票の較差は、公務員試験における頻出分野である。判例の結論と、理由付けをしっかり押さえて欲しい。
2.典型論点なので、論文試験のある人は、論文用の問題集の解答例を参考に、答案をあらかじめ用意しておくこと。

(沖田)


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