憲法統治第1位 (4/12)
(最大判平10.11.17=平10重判・憲法8=判例六法・憲法15条5番)

 「秘書」の選挙違反を理由に当選無効・立候補禁止の制裁が科される、いわゆる「拡大連座制」(公職選挙法251条の2第1項五号・2項)の合憲性が争われたのが、本事例である。

【参考】*便宜上、条文を一部省略
公職選挙法251条の2第1項
 次の各号に掲げる者が…の罪を犯し刑に処せられたときは、当該公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者であつた者の当選は無効とし、かつ、これらの者は…五年間、当該選挙に係る選挙区において行われる当該公職に係る選挙において公職の候補者となり、又は公職の候補者であることができない。
 五 公職の候補者等の秘書(公職の候補者等に使用される者で当該公職の候補者等の政治活動を補佐するものをいう。)で当該公職の候補者等又は第一号若しくは第三号に掲げる者と意思を通じて選挙運動をしたもの
同第2項
 公職の候補者等の秘書という名称を使用する者又はこれに類似する名称を使用する者について、当該公職の候補者等がこれらの名称の使用を承諾し又は容認している場合には、当該名称を使用する者は、前項の規定の適用については、公職の候補者等の秘書と推定する。

【論点】
 拡大連座制の合憲性(憲法15条1項:立候補の自由、同31条:適正手続)

【判旨】
「公職選挙法二五一条の二第一項五号の規定は、いわゆる連座の対象者を総括主宰者、出納責任者、地域主宰者及び公職の候補者の親族に限りその効果を当選無効としていた従来の連座制では選挙犯罪を十分に抑制することができなかったという我が国における選挙の実態にかんがみ、連座の対象者として公職の候補者等の秘書を加え、連座の効果に立候補の禁止を加えて、連座の範囲及び効果を拡大し、秘書が所定の悪質な選挙犯罪を犯した場合に、当該候補者等の当選無効等の効果を発生させることにより、選挙の公明、適正を実現するという目的で設けられたものと解される。
 このように、右規定は、民主主義の根幹をなす公職選挙の公明かつ適正を確保するという極めて重要な法益を実現するために設けられたものであって、その立法趣旨は合理的である。
 また、同号所定の秘書は、公職の候補者等に使用される者で当該公職の候補者等の政治活動を補佐するものをいうと明確に定義されており、右規定は、公職の候補者等と右のような一定の関係を有する者が公職の候補者等又は総括主宰者等と意思を通じて選挙運動をし所定の選挙犯罪を犯して禁錮以上の刑に処せられたときに限って連座の効果を生じさせることとしており、立候補禁止の期間及びその対象となる選挙の範囲も限定し、さらに、同条四項において、選挙犯罪がいわゆるおとり行為又は寝返り行為によってされた場合には立候補の禁止及び衆議院(比例代表選出)議員の選挙における当選無効につき免責することとしているのであるから、このような規制は、これを全体としてみれば、前記立法目的を達成するための手段として必要かつ合理的なものというべきである。
 秘書又はこれに類似する名称を使用する者を同条一項五号所定の秘書と推定する同条二項の規定が設けられているが、右規定の適用のためには、右名称を使用することを公職の候補者等が承諾又は容認していることが要件とされている上、当該候補者等は、同条一項五号所定の秘書の定義に該当しないことを立証して、その適用を排除することができるのであるから、同条二項も、前記判断を左右するものではない。
 したがって、同条一項五号及び同条二項の規定は、憲法一五条一項、三一条に違反しない
 所論は、公職選挙法二五一条の二第一項五号所定の秘書に当たるというためには、その者が、単に当該候補者等の政治活動を補佐するというだけでは足りず、その重要部分を補佐しており、かつ、右補佐の対象が選挙運動とは区別される政治活動であることを要するなどと主張するが、前記の立法趣旨及び同号の規定の文言に徴し、同号所定の秘書を所論のように限定的に解すべき理由はなく、また、同号を違憲としないためにこのような限定解釈を要するものではない
 同号所定の秘書の定義が漠然としていて、検察官によるし意的な訴訟の提起を可能とするものということはできず、この点に関する所論違憲の主張は、その前提を欠くものといわざるを得ない。」

【判例のポイント】
1.選挙の公明・適正を実現するという、立法目的は合理的である。
2.秘書の選挙違反を理由に処罰する当該規制は、手段として必要かつ合理的である。
3.公職選挙法251条の2第1項5号・2項は、憲法15条1項・31条に違反しない。
4.公職選挙法251条の2第1項5号の秘書を「選挙活動から区別される政治活動の重要部分を担う者」と限定解釈すべき理由はない。
5.公職選挙法251条の2第1項5号の秘書の定義は、漠然不明確とはいえない。

【ワンポイントレッスン】
1.拡大連座制
 拡大連座制では、「秘書」の違法行為を理由に「立候補者」の当選が無効となり、5年間その選挙区での立候補が禁止される点が問題となる。
 しかし、「秘書が勝手にやっただけ、わしゃ知らん」と開き直られてしまったら、選挙違反をなくすことは、現実問題として難しい。
 「選挙の公正」は、まさに民主主義の根幹に関わるものであり、その重要性に鑑みれば、判例の結論は、妥当といえる。
 
2.被選挙権(立候補の自由)の違憲審査基準
 吉田教授は、判旨は「立法目的および目的達成手段の合理性といういわゆる厳格な合理性審査基準(LRAの基準)を用いて、その合憲判断を導いている」と評価する(「重判」解説)。
 「厳格な合理性の基準」(LRAの基準)か、「厳格審査基準」の、どちらかを使うべきである。
 しかし、論文試験で、本事例が出たら、「立候補の自由 VS 選挙の公正」で悩みを見せて、最後に「立法目的は合理的、目的達成手段は必要かつ合理的であり、憲法15条に違反しない(判例同旨)。」と、あっさり処理してしまうのが、楽である。
 以下、芦部教授の定義を紹介しておく。
[厳格な合理性の基準]
 立法目的=重要なもの
 立法目的達成手段=立法目的と実質的な関連性を有すること
[厳格審査基準]
 立法目的=必要不可欠なやむにやまれぬ利益
 立法目的達成手段=立法目的達成のため必要最小限度のもの

3.明確性の理論
 国民の権利・利益を侵害する法律の規制文言は、国民の予測可能性を確保し、公権力の恣意を抑制するため、明確でなければならない(明確性の理論、憲法31条参照)。
 上告人は、当該規定の「秘書」の定義が漠然としている、と主張したが、排斥された。

【試験対策上の注意点】
1.択一対策として、「拡大連座制は合憲」という結論を、まず押さえよう。国 I など難易度の高い試験を受ける人は、理由などの細かい部分にも目を通すと、万全である。
2.論文試験については、ワンポイントレッスンを参照。

(沖田)


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