【論点】
酒販免許制の合憲性(職業選択の自由・営業の自由、憲法22条1項)
【判旨】
「酒税法が酒類販売業につき免許制を採用したのは、納税義務者である酒類製造者に酒類の販売代金を確実に回収させ、最終的な担税者である消費者に対する税負担の円滑な転嫁を実現することを目的として、これを阻害するおそれのある酒類販売業者の酒類の流通過程への参入を抑制し、酒税の適正かつ確実な賦課徴収という重要な公共の利益を図ろうとしたものと解される。
このような酒類販売業免許制の採用後、社会経済の状況や税制度の変化に伴い、酒税の国税収入全体に占める割合等が相対的に低下してきているが、本件処分当時(平成四年七月二日)においても、なお酒税の収入総額が多額であって、販売代金に占める酒税比率も高率であること、酒税の賦課徴収に関する仕組み自体がその合理性を失うに至っているとはいえないことなどからすると、酒税の徴収のため酒類販売業免許制を存置させていたことが、立法府の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので著しく不合理であるとまで断定することはできない。
また、本件処分の理由とされた酒税法一〇条一一号は、酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるため免許を与えることが適当でないと認められる場合に酒類販売業の免許を与えないことができる旨定めるところ、その趣旨は、免許の申請者が参入することにより申請に係る小売販売地域における酒類の需給の均衡が破れて供給過剰となった場合には、酒類販売業者の経営の基礎が危うくなり、その結果、酒類製造者による酒類販売代金の回収に困難を来し、酒税の適正かつ確実な徴収に支障を生ずるおそれがあることから、新規の参入を調整することによって、供給過剰となる事態を避けようとしたものと解され、右規定は、前記立法目的を達成するための手段として、合理性を有するものということができる。
そうすると、酒税法九条一項、一〇条一一号の規定が、憲法二二条一項に違反するものということはできない。」
【判例のポイント】
1.酒類販売業免許制の立法目的は、酒税の適正かつ確実な賦課徴収という重要な公共の利益を図ることにある。
2.酒税の徴収のため酒類販売業免許制を存置させていたことが、立法府の政策的・技術的な裁量の範囲を逸脱するもので著しく不合理であるとまで断定することはできない。
3.酒税法10条11号は、立法目的を達成するための手段として、合理性を有する。
4.酒税法9条1項・10条11号の規定は、憲法22条1項に違反しない。
【ワンポイントレッスン】
1.目的二分論との関係
職業選択の自由に対する違憲審査基準として、最高裁は、小売市場距離制限事件・薬局距離制限事件
(憲法百選T92・93=判例六法・憲法22条8・9番)を契機に
@積極目的規制→明白の原則
(目的が正当であれば、規制が著しく不合理であることの明白である場合に限って違憲とする)
A消極目的規制→厳格な合理性の基準
(目的は重要なものでなければならず、同じ目的を達成できるより緩やかな規制手段の有無を立法事実に基づいて審査する)
という、いわゆる「目的二分論」を採用した、と一般的に理解されている。
しかし、本判決は、最判平4.12.15(=憲法百選
I 95=判例六法・憲法22条6番)と同じく「立法府の政策的・技術的な裁量の範囲を逸脱するもので著しく不合理か」という、ナゾ?の審査基準を用いている。「明白の原則」に近いニュアンスが感じられるが、従来の「目的二分論」といかなる関係に立つかは、議論の対象となっている。この論点については、憲法百選
I 95の解説が詳しいが、受験対策上は、深入りする必要はない(解説参照)。
2.酒販免許制の合憲性
本判決は、立法裁量をかなり広く認める審査基準を用いて「合憲」としたが、学説上は、「違憲」説がやや優勢である。
佐藤幸治教授は「狭義の職業選択の自由に対する新規参入規制が問題になっている以上、LRAの基準が妥当すると解すべきではないか」とする(重判・解説)。
私見だが、ガンガン自由に競争させた方が、業界が活性化して売上も伸び、税収も増加するであろう。今時、新規参入規制はナンセンスであり、違憲説が説得力を持つ(免許制は事前規制であり、自由競争の弊害は事後的規制で除去できる)。
なお、酒販免許制は、「行政改革・規制緩和」の重要議題になっており、将来的には、廃止されることも予想される。
【試験対策上の注意点】
1.択一対策として、「合憲」とする判例の結論と、理由づけ(違憲審査基準)の独特の言い回しを押さえておこう。
2.国 I 論文・憲法での出題もありえる。判例を批判→LRAの基準に照らし違憲、という流れが書き易い。