【論点】
◎許可抗告制度と裁判を受ける権利(憲法32条)
○許可抗告制度と適正手続(憲法31条)
【決定要旨】
「民訴法三三七条に規定する許可抗告制度は、法令解釈の統一を図ることを目的として、高等裁判所の決定及び命令のうち一定のものに対し、右裁判に最高裁判所の判例と相反する判断がある場合その他の法令の解釈に関する重要な事項が含まれる場合に、高等裁判所の許可決定により、最高裁判所に特に抗告をすることができることとしたものである。
論旨は、その一部において、同法三三七条が抗告許可申立ての対象とされる裁判に法令の解釈に関する重要な事項が含まれるか否かの判断を高等裁判所にさせることとしているのは、憲法三二条に違反し、ひいては三一条にも違反すると主張する。
しかしながら、下級裁判所のした裁判に対して最高裁判所に抗告をすることを許すか否かは、審級制度の問題であって、憲法が八一条の規定するところを除いてはこれをすべて立法の適宜に定めるところにゆだねていると解すべきことは、当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和二二年(れ)第四三号同二三年三月一〇日大法廷判決・刑集二巻三号一七五頁、最高裁昭和二四年(ク)第一五号同年七月二二日大法廷決定・裁判集民事二号四六七頁、最高裁昭和二七年(テ)第六号同二九年一〇月一三日大法廷判決・民集八巻一〇号一八四六頁)。
その趣旨に徴すると、民訴法三三七条が憲法三一条、三二条に違反するものでないことは明らかである。右論旨は採用することができない。」
【判例のポイント】
1.下級裁判所の裁判につき最高裁判所への抗告を許すかは、審級制度の問題であり、憲法は、81条(違憲審査)の規定するところを除いて、立法政策にゆだねている。
2.民事訴訟法337条(許可抗告)は、憲法31・32条に違反しない。
【ワンポイントレッスン】
1.高等裁判所の決定・命令に対する最高裁への抗告
特別抗告→憲法問題
許可抗告→最高裁判例違反、法令解釈に関する重要事項
の2種類がある。
憲法問題について、原則として抗告が認められるのは、違憲審査につき最高裁を終審裁判所と定める、憲法81条の要請による。
憲法問題以外については、高等裁判所自身による「許可」があった場合に、例外的に抗告が認められる。つまり、「天下の最高裁様の御審判を受けたい」と熱望しても、高等裁判所に「ダメ」と言われたら、終わりである。
2.審級制度と裁判を受ける権利(憲法32条)
最高裁は、審級制度は、憲法81条の要請を除き、合理的範囲内である限り、立法政策の問題である、との立場をとる。
学説も、憲法32条は審級制度について法律が憲法81条の範囲内で政策的に定めることを想定し、かかる制約のもとで裁判を受ける権利を保障したため、審級制度上の考慮から法律で上告が制限されても、裁判を受ける権利の侵害にはならない、とするのが通説的見解である(重判・解説)。
なお、近年、憲法32条が審級制度の内容に対し憲法上の制約を課している、と主張する学説もあるが、受験対策上は深入りする必要はない。
3.許可抗告制度と裁判を受ける権利(憲法32条)
確かに、理想としては、希望者全員に抗告を認めたほうが、裁判を受ける権利が存分に保障される。
しかし、たった15名の最高裁・裁判官の処理能力には物理的限界があり、また、裁判所は国民の血税で運営されているから訴訟経済も重要である。最高裁が、いちいちザコみたいな事件に関わっていたら、真に取り組むべき憲法上の人権問題が、お座なりになってしまう。
許可抗告制度を合憲とした、本決定は妥当である。
4.許可抗告制度と適正手続(憲法31条)
許可抗告制度においては、高等裁判所自身が、自分の決定・命令に最高裁判例違反・法令解釈に関する重要事項がないかを判断して、最高裁への抗告を認めるかどうかを決める。いわば「playerがjudgeを兼ねる」ので、手続が公正とは言えないのではないか、という主張もありえる。
しかし、民事訴訟法337条は「最高裁判所の判例…と相反する判断がある場合その他の法令の解釈に関する重要な事項を含む場合」という、ある程度具体的な許可基準を示しており、また、日本の非常に訓練された職業裁判官には、一般に客観性が期待できる。
よって、許可抗告「制度」それ自体は、適正手続違反とは言えない。もっとも、仮に恣意的な運用がなされたとすれば、「適用違憲」となる可能性はある。
【試験対策上の注意点】
1.択一対策として、「許可抗告制度は合憲」という、結論を押さえておけば足りる。重要度は、あまり高くない。
2.論文での出題可能性は低い。万が一出題されたら、「通説的見解」を書いて、判例を支持すれば、十分である。