【論点】
1. 受刑者の人権享有主体性
2. 受刑者の信書の秘密(憲法21条2項)
【判旨】
「右事実関係の下においては、監獄内の規律及び秩序の維持に障害を生ずること並びに受刑者の教化を妨げることを理由とする新聞記事、機関紙の記事、上告人の受信した信書及び上告人の発信した信書の一部抹消が違法なものとはいえないとした原審の判断は、是認することができ、その過程に所論の違法はない。右のような理由でされた新聞記事及び機関紙の記事の一部抹消が憲法二一条に違反するものでないことは、最高裁昭和五二年(オ)第九二七号同五八年六月二二日大法廷判決・民集三七巻五号七九三頁の趣旨に徴して明らかであり(最高裁平成三年(オ)第八〇四号同五年九月一〇日第二小法廷判決・裁判集民事一六九号七二一頁参照)、右のような理由でされた上告人の受信した信書及び上告人の発信した信書の一部抹消が憲法二一条に違反するものでないことも、当裁判所大法廷判決(最高裁昭和四〇年(オ)第一四二五号同四五年九月一六日判決・民集二四巻一〇号一四一〇頁、前示昭和五八年六月二二日判決)の趣旨に徴して明らかである(最高裁平成五年(行ツ)第一七八号同六年一〇月二七日第一小法廷判決・裁判集民事一七三号二六三頁、前示最高裁平成三年(オ)第八〇四号同五年九月一〇日判決参照)。」
【判例のポイント】
監獄内の規律・秩序の維持に障害を生ずること、受刑者の教化を妨げること、を理由とする、新聞記事・機関紙の記事・受刑者の受信発信した信書の一部抹消は、憲法21条に違反しない。
【ワンポイントレッスン】
1.特別権力関係論
「公務員・在監者のように、国家権力と特別の法律関係にあるものは、特別の人権制限が許される」とする理論を言う。
明治憲法下では通用したが、基本的人権の尊重と国民主権を基本原理とする現行憲法下では、到底そのままでは通用しえない。
そこで、現在では、個別・具体的にそれぞれの法律関係における人権制限の根拠・程度を考えていくべきだ、と解されている。
在監者の人権制限の根拠は、憲法が在監関係とその自律性を憲法的秩序の構成要素として認めていることに由来する(憲法18条・31条)。
2.在監者の人権制限
(i)未決拘禁者(被疑者・被告人)
「無罪推定」を受けるので、原則として一般市民と同様に扱わなければならない。
「拘禁と戒護」(逃亡・罪証隠滅防止、規律維持など)という目的からの必要最小限度の人権制約のみが許される(芦部・憲法P104)。
「よど号ハイジャック新聞記事抹消事件」(憲法百選T17=判例六法・憲法第3章11番)を参照。
(ii)既決受刑者
今回のケースである。
有罪が確定した既決受刑者は、収容目的に「矯正教化」が加わるため、未決拘禁者に比べて、より強い人権制限が認められる場合がありうる。
(iii)死刑囚
一般の既決受刑者と異なり「教化改善」という目的がない。
拘禁・戒護目的の、必要最小限の人権制限に限るべきである。
最判平11.2.26(判例六法・憲法第3章15番16番)を参照。
3. 本判決の妥当性
判旨は、監獄長の裁量を広く認めた過去の判例を挙げながら、監獄の秩序維持・受刑者の教化を理由とする信書等の抹消を適法・合憲としている。
しかし、極めて重要な人権である「表現の自由・知る権利」の「事前抑制」に関わる点を考慮すれば、「LRAの基準」などの厳格な審査基準に照らし、違憲とも考えられる。
なお、判例の事例は、刑務所の中で原因不明の死者が4人も出るという異常なもので、事実関係も謎に包まれており、当該事案に対する処分の妥当性は、コメントのしようがない。
【試験対策上の注意点】
1. 択一対策としては、「憲法21条に違反しない」という結論を押さえておけば足りる。
2. 論文・1行問題で「在監者の人権」が出たら、「よど号…事件」だけでなく、本判例に触れれば、加点事由になる。
3. 本事例は、平成11年度司法試験・論文で出題されている。国
I ・外 I で同じ問題が出る可能性は低いが、意表を突いて「死刑囚の人権」が出たりするかもしれない。危機管理として、ワンポイント・レッスンの内容ぐらいは、押さえておこう。