民法担保物権第1位 (3/3)
(最大判平11.11.24=平11重判掲載予定)

 実務界の熱烈な要望に応えて、ついに画期的な新判例が出ました!。抵当権に基づく不法占拠者に対する明渡し請求が認められたのです(最大判平11.11.24)。

【論点】
(1) 抵当権者(債権者)は、不動産所有者(債務者)の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使できるか。(肯定)
(2) 抵当権者は、不法占有者に対して、抵当権に基づく妨害排除請求として、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態の排除を求めることができるか。(肯定)

【判旨】
「抵当権は、競売手続において実現される抵当不動産の交換価値から他の債権者に優先して被担保債権の弁済を受けることを内容とする物権であり、不動産の占有を抵当権者に移すことなく設定され、抵当権者は、原則として、抵当不動産の所有者が行う抵当不動産の使用又は収益について干渉することはできない。
 しかしながら、第三者が抵当不動産を不法占有することにより、競売手続の進行が害され適正な価額よりも売却価額が下落するおそれがあるなど、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、これを抵当権に対する侵害と評価することを妨げるものではない。
 そして、抵当不動産の所有者は、抵当権に対する侵害が生じないよう抵当不動産を適切に維持管理することが予定されているものということができる。
 したがって、右状態があるときは、抵当権の効力として、抵当権者は、抵当不動産の所有者に対し、その有する権利を適切に行使するなどして右状態を是正し抵当不動産を適切に維持又は保存するよう求める請求権を有するというべきである。
 そうすると、抵当権者は、右請求権を保全する必要があるときは、民法四二三条の法意に従い、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使することができると解するのが相当である。
 なお、第三者が抵当不動産を不法占有することにより抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権に基づく妨害排除請求として、抵当権者が右状態の排除を求めることも許されるものというべきである。
 最高裁平成元年(オ)第一二〇九号同三年三月二二日第二小法廷判決・民集四五巻三号二六八頁は、以上と抵触する限度において、これを変更すべきである。」

【新判例のポイント】
(1) 抵当権者(債権者)は、不動産所有者(債務者)の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使できる(民法423条)。
(2) 抵当権者は、不法占有者に対して、抵当権に基づく妨害排除請求として、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態の排除を求めることができる(物権的請求権)。
(3) 以上の点につき、従来の判例を変更した。
(4) また、当該事例において、不動産を(所有者ではなく)直接、抵当権者に明渡すよう求めることができる、としている。

【ワンポイント・レッスン】
1. 問題の背景には、「詐害的短期賃貸借」の弊害がある。
2. 短期賃貸借が抵当権者に損害を及ぼすときは、裁判所は抵当権者の請求により、その解除を命じることができる(民法395条但書)。解除されると、賃借人は以後「不法占有者」となるが、従来の判例によれば、これを抵当権実行前に追い出す手段を、抵当権者は持てなかった。
3. 「賃借人」というと、善良な受験生は、田舎から出てきた一人暮しの学生なんかを想像するかもしれない。しかし、世の中そんなに甘くない。短期賃貸借のそれは、「占有屋」と呼ばれる、パンチヘッドの怖いお兄さんなのだ。しかも、不動産所有者(抵当権設定者)とグルだったりする。
4. もちろん、抵当不動産を競売で買った人は、不法占有者に対し所有権に基づく明渡し請求ができる。しかし、パンチヘッド相手に面倒なことは避けたいと思うのが人情である。
5. というわけで、そんな不動産を競売にかけたところで、買い手がいるわけもなく、抵当権の実行は、事実上不可能に近くなる。あえて、競売を実行すると、タダ同然の価格で買い叩かれる。ついでに言うと、その買い受け人も占有屋のお友達だったりする。
6. 以上のような背景を踏まえて、めでたく今回の判例変更と至ったわけである。
7. なお、占有屋への対抗策として、厳密には「民事執行法83条・55条・187条の2」がある(ただ、公務員試験のレベルを超えている)。

【試験対策上の注意点】
1. 都庁・特別区の択一専門試験「法律事情」、国 I 法律職の論文試験「民法」での出題可能性がある。
2. 各種択一専門試験の「民法」での出題は、おそらく来年以降になるだろうが、念のため押さえておくこと。もし出た場合は、新旧どちらの判例で答えていいのか他の選択肢との比較で臨機応変に対処すること(判例変更の前に制作して、そのままになっている可能性も皆無ではない)。もちろん論文専門試験では判例変更を視野に入れて論述する必要がある。
3. 今回の新判例で、最判平3.3.22=百選 I 94=判例六法・民法369条の2番は判例変更された。各自、加筆訂正しておくこと。

(沖田)

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