民法総則第1位 (5/8)
(最判平10.6.12=平10重判・民法11=判例六法・民法724条13番)

 不法行為の被害者が、不法行為の時から20年を経過する前6ヵ月内において、不法行為を原因として心神喪失の常況にあるのに法定代理人を有しなかった場合に、民法724条後段の例外が認められるか、争われた事例である。

[参考]*旧法時の事例だが、以下は新法を挙げた。
民法158条
   時効の期間満了前六箇月内に於て未成年者又は成年被後見人が法定代理人を有せざりしときは其者が能力者と為り又は法定代理人が就職したる時より六箇月内は之に対して時効完成せず。
同724条
   不法行為に因る損害賠償の請求権は被害者又は其法定代理人が損害及び加害者を知りたる時より三年間之を行はざるときは時効に因りて消滅す。不法行為の時より二十年を経過したるとき亦同じ。
【論点】
民法724条後段(不法行為による損害賠償請求権の除斥期間)に例外が認められるか。

【判旨】
民法七二四条後段の規定は、不法行為による損害賠償請求権の除斥期間を定めたものであり、不法行為による損害賠償を求める訴えが除斥期間の経過後に提起された場合には、裁判所は、当事者からの主張がなくても、除斥期間の経過により右請求権が消滅したものと判断すべきであるから、除斥期間の主張が信義則違反又は権利濫用であるという主張は、主張自体失当であると解すべきである。
…民法一五八条は、時効の期間満了前六箇月内において未成年者又は禁治産者が法定代理人を有しなかったときは、その者が能力者となり又は法定代理人が就職した時から六箇月内は時効は完成しない旨を規定しているところ、その趣旨は、無能力者は法定代理人を有しない場合には時効中断の措置を執ることができないのであるから、無能力者が法定代理人を有しないにもかかわらず時効の完成を認めるのは無能力者に酷であるとして、これを保護するところにあると解される。
 これに対し、民法七二四条後段の規定の趣旨は、前記のとおりであるから、右規定を字義どおりに解すれば、不法行為の被害者が不法行為の時から二〇年を経過する前六箇月内において心神喪失の常況にあるのに後見人を有しない場合には、右二〇年が経過する前に右不法行為による損害賠償請求権を行使することができないまま、右請求権が消滅することとなる。
 しかし、これによれば、その心神喪失の常況が当該不法行為に起因する場合であっても、被害者は、およそ権利行使が不可能であるのに、単に二〇年が経過したということのみをもって一切の権利行使が許されないこととなる反面、心神喪失の原因を与えた加害者は、二〇年の経過によって損害賠償義務を免れる結果となり、著しく正義・公平の理念に反するものといわざるを得ない。
 そうすると、少なくとも右のような場合にあっては、当該被害者を保護する必要があることは、前記時効の場合と同様であり、その限度で民法七二四条後段の効果を制限することは条理にもかなうというべきである。
 したがって、不法行為の被害者が不法行為の時から二〇年を経過する前六箇月内において右不法行為を原因として心神喪失の常況にあるのに法定代理人を有しなかった場合において、その後当該被害者が禁治産宣告を受け、後見人に就職した者がその時から六箇月内に右損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは、民法一五八条の法意に照らし、同法七二四条後段の効果は生じないものと解するのが相当である。」

【判例のポイント】
1.民法724条後段の規定は、不法行為による損害賠償請求権の「除斥期間」を定めたものである。
2.(加害者側による)除斥期間の主張が信義則違反・権利濫用である、という(被害者側の)主張は、主張自体失当である(信義則違反・権利濫用ではない)。
3.不法行為の被害者が、不法行為時から20年を経過する前6ヶ月内において、不法行為を原因として心神喪失の常況にあるのに法定代理人を有しなかった場合、その後、被害者が禁治産宣告を受け、後見人に就職した者がその時から6ヶ月内に損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは、「民法158条の法意」に照らし、同724条後段の効果は生じない。

【ワンポイントレッスン】
1.時効と除斥期間の相違

 時効  除斥期間
 援用  必要 不要
 中断  あり なし
 停止  あり ??

 判例・通説によれば、以上のようになる。「除斥期間の停止」については、学説上争いがあるが、これを認めるのが多数説である。
 民法724条については、前段の「3年=時効」、後段の「20年=除斥期間」とするのが、判例・通説である。

2.民法158条
 時効完成間際に法定代理人がいなければ、中断ができず可哀想なので、「未成年者・成年被後見人」について、「時効」のストップを認める規定である。
 今回のケースは、心神喪失にもかかわらず後見開始の審判(当時は禁治産宣告)を受けていない「成年」の「除斥期間」に関するものであり、本来は158条の射程外である。しかし、損害賠償請求訴訟を提起したくてもできない状況にあり、保護の必要がある点では、共通する。

3.民法724条後段
 まず、本判決は、除斥期間であり信義則違反・権利濫用となる余地はない、とする最判平元.12.21(判例六法・民法724条12番)を維持している点に、注意して欲しい。択一試験のヒッカケで狙われる可能性がある。
 それにもかかわらず、@正義・公平の理念、A条理、B民法158条の法意、より、除斥期間の効果が生じない場合を認めた、画期的判例となった。但し、「特段の事情」がある場合に限定している点にも、注意。
 なお、内田・民法T(2版補訂)のP326−328で、本判例が取り上げられており、一読を薦める。

【試験対策上の注意点】
1. 本年度以降の択一試験で、頻出判例になるであろう。国T受験生は、「特段の事情」の要件など、細かい部分にも目を通しておくこと。
2. 論文試験で出題されたら、判例を自説にすれば十分である。判旨の文章はそのまま論証として利用できるものなので、キーワードを暗記しておこう。

(沖田)


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