民法総合第1位 (5/15)
(最判平10.7.17=平10重判・民法1=判例六法・民法113条4番)

 本人が無権代理行為の追認を拒絶し、その後、無権代理人が本人を相続した場合、無権代理行為が有効になるか、が争われた。
 なお、当該事例は、共同相続や限定承認が絡んだ極めて複雑なものだったが、最高裁は単独相続のシンプルな事例を想定して判示している(内田 I ・2版補訂・P173)。

[参考]*便宜上、条文を一部省略
民法113条
1項  代理権を有せざる者が他人の代理人として為したる契約は本人が其追認を為すに非ざれば之に対して其効力を生ぜず。
2項  追認又は其拒絶は相手方に対して之を為すに非ざれば之を以て其相手方に対抗することを得ず。
同117条
1項  他人の代理人として契約を為したる者が其代理権を証明すること能はず且本人の追認を得ざりしときは相手方の選択に従ひ之に対して履行又は損害賠償の責に任ず。
【論点】
無権代理と相続(民法113条)

【判旨】
本人が無権代理行為の追認を拒絶した場合には、その後に無権代理人が本人を相続したとしても、無権代理行為が有効になるものではないと解するのが相当である。
 けだし、無権代理人がした行為は、本人がその追認をしなければ本人に対してその効力を生ぜず(民法一一三条一項)、本人が追認を拒絶すれば無権代理行為の効力が本人に及ばないことが確定し、追認拒絶の後は本人であっても追認によって無権代理行為を有効とすることができず、右追認拒絶の後に無権代理人が本人を相続したとしても、右追認拒絶の効果に何ら影響を及ぼすものではないからである。
 このように解すると、本人が追認拒絶をした後に無権代理人が本人を相続した場合と本人が追認拒絶をする前に無権代理人が本人を相続した場合とで法律効果に相違が生ずることになるが、本人の追認拒絶の有無によって右の相違を生ずることはやむを得ないところであり、相続した無権代理人が本人の追認拒絶の効果を主張することがそれ自体信義則に反するものであるということはできない。」

【判例のポイント】
1.本人が無権代理行為の追認を拒絶した場合には、その後に無権代理人が本人を相続したとしても、無権代理行為が有効になるものではない。
2.本人が追認を拒絶すれば、無権代理行為の効力が本人に及ばないことが確定し、追認拒絶の後に無権代理人が本人を相続したとしても、追認拒絶の効果に何ら影響を及ぼすものではない。
3.相続した無権代理人が本人の追認拒絶の効果を主張することが、それ自体信義則に反するものであるということはできない。

【ワンポイントレッスン】
 「無権代理と相続」に関する判例の結論を、以下に紹介する。プリントアウトして、トイレにでも貼って是非活用して頂きたい。

※凡例※
○=無権代理行為が有効となる、×=有効とならない、第三者=無権代理行為に関係しなかった者、を表す
I.本人が死亡→無権代理人が相続
  1.単独相続
@.本人が追認拒絶していなかった
  本人が自ら法律行為をしたと同様な法律上の地位を生じる(地位融合説)。
(最判昭40.6.18=判例六法・民法113条2番)
A.本人が追認拒絶をしていた
  × 無権代理行為の効力が本人に及ばないことが確定済み、相続による影響はない。
(今回の判例が想定する事例)
  2.共同相続(無権代理人と第三者が、本人を共同で相続)
 
@.他の共同相続人全員が追認した
  無権代理人が追認拒絶をすることは、信義則上許されない。
(最判平5.1.21=民法百選T39=判例六法・民法113条3番)
A.他の共同相続人全員の追認がない
  × 無権代理人の相続分相当部分においても、当然に有効となるものではない。
(最判平5.1.21=民法百選T39=判例六法・民法113条3番)
II.無権代理人が死亡→本人が相続
 
× 本人が追認拒絶しても、何ら信義則に反しない(地位併存説)。
(最判昭37.4.20=判例六法・民法113条5番)
但し、117条の責任は相続する(最判昭49.9.4=判例六法・民法113条6番)。
III.無権代理人Aが死亡→本人Bと第三者CがAを共同相続→Bが死亡→CがBを相続
 
Cは本人Bの資格で追認拒絶する余地はなく、本人B自ら法律行為をしたと同様。
(最判昭63.3.1=判例六法・民法113条7番)

【試験対策上の注意点】
1. 択一の頻出論点である。関連する論点の「無権代理と目的物の取得」、「無権代理と法定代理人への就職」も、押さえておくこと。判例六法の113条の判例は、まとめてチェックしよう。
2. 論文・1行問題で「無権代理と相続」が出たら、きちんと場合分けして論じること。
3. 国 I ・論文では、平成以降の判例である「共同相続」(ワンポイントレッスン参照)、「後見人」(最判平6.9.13=判例六法・民法1条11番)絡みも、要注意である。判例の立場をしっかり押さえておこう。

(沖田)


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