民法総則第2位 (5/19)
(最判平10.6.22=平10重判・民法2=判例六法・民法145条15番)

 詐害行為の受益者が、詐害行為取消権を行使する債権者の債権の消滅時効を援用することができるかどうか、争われた事例である。

[参考]
民法145条
  時効は当事者が之を援用するに非ざれば裁判所之に依りて裁判を為すことを得ず。
【論点】
消滅時効の援用権者(民法145条)

【判旨】
「民法一四五条所定の当事者として消滅時効を援用し得る者は、権利の消滅により直接利益を受ける者に限定されるところ(最高裁平成二年(オ)第七四二号同四年三月一九日第一小法廷判決・民集四六巻三号二二二頁参照)、詐害行為の受益者は、詐害行為取消権行使の直接の相手方とされている上、これが行使されると債権者との間で詐害行為が取り消され、同行為によって得ていた利益を失う関係にあり、その反面、詐害行為取消権を行使する債権者の債権が消滅すれば右の利益喪失を免れることができる地位にあるから、右債権者の債権の消滅によって直接利益を受ける者に当たり、右債権について消滅時効を援用することができるものと解するのが相当である。
 これと見解を異にする大審院の判例(大審院昭和三年(オ)第九〇一号同年一一月八日判決・民集七巻九八〇頁)は、変更すべきものである。」

【判例のポイント】
1.民法145条所定の当事者として消滅時効を援用し得る者は、権利の消滅により直接利益を受ける者に限定される。
2.詐害行為の受益者は、詐害行為取消権を行使する債権者の債権の消滅によって直接利益を受ける者に当たり、右債権について消滅時効を援用することができる。
3.2.について、大審院の判例を変更した。

【ワンポイントレッスン】
1.民法145条の解釈論
 民法145条の「当事者」=時効の援用権者、については、
  A説=直接に利益を受ける者に限る
  B説=間接に利益を受ける者も含む
の対立がある。
 最高裁は一貫してA説の立場を維持しているが、「直接に利益を受ける者」の範囲を徐々に拡大しており、結論において両説の差はほとんどないと言われる。

2.時効の援用権者について、判例の結論
 以下に代表的なものを掲げておくので、判例六法・民法145条5番−15番・884条10番を参照して欲しい。「後順位抵当権者」は、超最新判例である(最判平11.10.21=平11重判・民法2)。なお、カッコ内は、援用の対象を表す。
[援用権あり]
 ☆いずれも「消滅時効」について
  保証人(主債務)
  連帯保証人(主債務)
  物上保証人(抵当権や譲渡担保の被担保債権)
  抵当不動産の第三取得者(抵当権の被担保債権)
  売買予約の仮登記がなされている不動産の第三取得者(売買予約完結権)
  売買予約の仮登記に遅れる抵当権者(売買予約完結権)
  詐害行為の受益者(詐害行為取消権を行使する債権者の債権)
[援用権なし]
  取得時効が問題となる土地上の建物賃借人(土地所有権の取得時効)
  僭称相続人〔表見相続人〕からの譲受人(相続回復請求権の消滅時効)
  後順位抵当権者(先順位抵当権の被担保債権の消滅時効)

【試験対策上の注意点】
 択一対策として、判例の結論をしっかり押さえよう。

(沖田)


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