仮差押えによる時効中断の効力が、争われた事例である。
[参考] *便宜上、条文の一部を省略
民法147条 |
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時効は左の事由に因りて中断す。
一 請求
二 差押、仮差押又は仮処分
三 承認
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民事保全法47条1項 |
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…不動産…に対する仮差押えの執行は、仮差押えの登記をする方法…により行う。 |
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【論点】
仮差押えによる時効中断(民法147条二号)
【判旨】
「仮差押えによる時効中断の効力は、仮差押えの執行保全の効力が存続する間は継続すると解するのが相当である(最高裁昭和五八年(オ)第八二四号同五九年三月九日第二小法廷判決・裁判集民事一四一号二八七頁、最高裁平成二年(オ)第一二一一号同六年六月二一日第三小法廷判決・民集四八巻四号一一〇一頁参照)。
けだし、民法一四七条が仮差押えを時効中断事由としているのは、それにより債権者が、権利の行使をしたといえるからであるところ、仮差押えの執行保全の効力が存続する間は仮差押債権者による権利の行使が継続するものと解すべきだからであり、このように解したとしても、債務者は、本案の起訴命令や事情変更による仮差押命令の取消しを求めることができるのであって、債務者にとって酷な結果になるともいえないからである。
また、民法一四七条が、仮差押えと裁判上の請求を別個の時効中断事由と規定しているところからすれば、仮差押えの被保全債権につき本案の勝訴判決が確定したとしても、仮差押えによる時効中断の効力がこれに吸収されて消滅するものとは解し得ない。」
【判例のポイント】
1.「仮差押え」による時効中断の効力は、仮差押えの執行保全の効力が存続する間は継続する。
2.仮差押えの被保全債権につき本案の勝訴判決が確定したとしても、仮差押えによる時効中断の効力がこれに吸収されて消滅するものではない。
【ワンポイント・レッスン】
本事例では、民事訴訟法や民事保全法の用語が出てくるが、受験上深入りする必要はないので、簡略化して説明しよう。
なかなか借金を返さない債務者から、債権者が金銭債権を回収する一般的な手続は、次のようになる。
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start |
債務者の不動産を仮差押え(登記)=時効中断 |
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貸金返還請求訴訟(本案訴訟)を提起 |
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本案で勝訴=仮差押えの時効中断効は吸収されるか? |
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不動産を強制競売、配当を受ける |
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goal |
めでたく、債権回収! |
最後まで行けばno problemだが、途中で忘れ去られて、仮差押えの「登記」だけが塩漬け状態で残っている場合が問題となる。
確定判決により確定した債権の消滅時効は10年(民法174条の2)だが、今回のケースは、本案で勝訴後10年以上立っていた。仮差押えの時効中断効が、本案判決に吸収される、という立場をとれば、もうアウトである。
しかし、最高裁は、吸収されない、という立場をとり、仮差押えの「登記」が残っていれば時効中断効が生き続ける、とした。
債務者が可哀想な気もするが、最高裁は、仮差押えを取り消す方法もあるから、別にいい、と答えている。
【試験対策上の注意点】
択一対策として、判例の結論を押さえておけば足りる。
(沖田)
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