【論点】
通行地役権登記と民法177条の第三者
【判旨】
「通行地役権(通行を目的とする地役権)の承役地が譲渡された場合において、譲渡の時に、右承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、譲受人がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは、譲受人は、通行地役権が設定されていることを知らなかったとしても、特段の事情がない限り、地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらないと解するのが相当である。
その理由は、次のとおりである。
(一)
登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しない者は、民法一七七条にいう「第三者」(登記をしなければ物権の得喪又は変更を対抗することのできない第三者)に当たるものではなく、当該第三者に、不動産登記法四条又は五条に規定する事由のある場合のほか、登記の欠缺を主張することが信義に反すると認められる事由がある場合には、当該第三者は、登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらない。
(二)
通行地役権の承役地が譲渡された時に、右承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、譲受人がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは、譲受人は、要役地の所有者が承役地について通行地役権その他の何らかの通行権を有していることを容易に推認することができ、また、要役地の所有者に照会するなどして通行権の有無、内容を容易に調査することができる。
したがって、右の譲受人は、通行地役権が設定されていることを知らないで承役地を譲り受けた場合であっても、何らかの通行権の負担のあるものとしてこれを譲り受けたものというべきであって、右の譲受人が地役権者に対して地役権設定登記の欠缺を主張することは、通常は信義に反するものというべきである。
ただし、例えば、承役地の譲受人が通路としての使用は無権原でされているものと認識しており、かつ、そのように認識するについては地役権者の言動がその原因の一半を成しているといった特段の事情がある場合には、地役権設定登記の欠缺を主張することが信義に反するものということはできない。
(三)
したがって、右の譲受人は、特段の事情がない限り、地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらないものというべきである。
なお、このように解するのは、右の譲受人がいわゆる背信的悪意者であることを理由とするものではないから、右の譲受人が承役地を譲り受けた時に地役権の設定されていることを知っていたことを要するものではない。
【判例のポイント】
通行地役権の承役地が譲渡された場合、譲渡の時に承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることが客観的に明らかで、かつ、譲受人がそのことを認識していた又は認識可能であったときは、譲受人は、通行地役権が設定されていることを知らなかったとしても(善意でも)、特段の事情がない限り、地役権設定登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に当たらない。
【ワンポイントレッスン】
1.「背信的悪意者」排除論との関係
判例は、実体上物権変動があった事実を知る者において、物権変動についての登記の欠缺を主張することが信義に反すると認められる事情がある場合には、かかる「背信的悪意者」は、登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しないものであって、本条にいう第三者に当たらない、とする(最判昭43.8.2=民法百選T57=判例六法・民法177条38番)。
今回の新判例の注目点は、背信的悪意者かどうかを問わず、善意であっても、信義に反する場合は、登記欠缺の主張を許さない、とした点である。すなわち、最高裁は、@譲渡の時に承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることが客観的に明らかで、かつ、A具体的に通行地役権の存在を知らなかった(善意)としても、日常的に通行に利用されているのをわかっていた(認識)、あるいは、わかるはずであった(認識可能)のなら、それぐらい我慢しろ、と言っているわけである。
2.関連判例
最判平10.12.18(判例六法・民法177条73番)は、
「通行地役権の承役地の譲受人が地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらず、通行地役権者が譲受人に対し登記なくして通行地役権を対抗できる場合には、通行地役権者は、譲受人に対し、同権利に基づいて地役権設定登記手続を請求することができ、譲受人はこれに応ずる義務を負うものと解すべきである。
譲受人は通行地役権者との関係において通行地役権の負担の存在を否定し得ないのであるから、このように解しても譲受人に不当な不利益を課するものであるとまではいえず、また、このように解さない限り、通行地役権者の権利を十分に保護することができず、承役地の転得者等との関係における取引の安全を確保することもできない。」
と判示して、通行地役権者の承役地譲受人に対する「登記請求権」を認めた。
【試験対策上の注意点】
1. 国 I 受験生は、択一対策として押さえておこう。
2. 難易度Cの判例なので、国II・地上受験生は、余裕があれば、という程度。但し、「背信的悪意者排除論」は頻出なので、押さえておくこと。