民法担保物権第2位 (6/2)
(最判平10.1.30=平10重判・民法6=判例六法・民法372条8番)

 (建物に対する)抵当権者は、物上代位の目的債権(建物賃料債権)が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができるかどうか、が争われた事例である。

[参考]*便宜上、条文を一部省略・加筆
民法304条1項
   先取特権〔抵当権〕は其目的物の売却、賃貸、滅失又は毀損に因りて債務者が受くべき金銭其他の物に対しても之を行ふことを得。但先取特権者〔抵当権者〕は其払渡又は引渡前に差押を為すことを要す。
同372条
 第三百四条…の規定は抵当権に之を準用す。
【論点】
抵当権者による物上代位(民法304・372条)

【判旨】
「民法三七二条において準用する三〇四条一項ただし書が抵当権者が物上代位権を行使するには払渡し又は引渡しの前に差押えをすることを要するとした趣旨目的は、主として、抵当権の効力が物上代位の目的となる債権にも及ぶことから、右債権の債務者(以下「第三債務者」という。)は、右債権の債権者である抵当不動産の所有者(以下「抵当権設定者」という。)に弁済をしても弁済による目的債権の消滅の効果を抵当権者に対抗できないという不安定な地位に置かれる可能性があるため、差押えを物上代位権行使の要件とし、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前には抵当権設定者に弁済をすれば足り、右弁済による目的債権消滅の効果を抵当権者にも対抗することができることにして、二重弁済を強いられる危険から第三債務者を保護するという点にあると解される。
 右のような民法三〇四条一項の趣旨目的に照らすと、同項の「払渡又ハ引渡」には債権譲渡は含まれず、抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができるものと解するのが相当である。
 けだし、(一)民法三〇四条一項の「払渡又ハ引渡」という言葉は当然には債権譲渡を含むものとは解されないし、物上代位の目的債権が譲渡されたことから必然的に抵当権の効力が右目的債権に及ばなくなるものと解すべき理由もないところ、(二)物上代位の目的債権が譲渡された後に抵当権者が物上代位権に基づき目的債権の差押えをした場合において、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前に債権譲受人に弁済した債権についてはその消滅を抵当権者に対抗することができ、弁済をしていない債権についてはこれを供託すれば免責されるのであるから、抵当権者に目的債権の譲渡後における物上代位権の行使を認めても第三債務者の利益が害されることとはならず、(三)抵当権の効力が物上代位の目的債権についても及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみることができ、(四)対抗要件を備えた債権譲渡が物上代位に優先するものと解するならば、抵当権設定者は、抵当権者からの差押えの前に債権譲渡をすることによって容易に物上代位権の行使を免れることができるが、このことは抵当権者の利益を不当に害するものというべきだからである。
 そして、以上の理は、物上代位による差押えの時点において債権譲渡に係る目的債権の弁済期が到来しているかどうかにかかわりなく、当てはまるものというべきである。」

【判例のポイント】
1.民法304条1項但書が抵当権者が物上代位権を行使するには払渡し又は引渡しの前に差押えをすることを要するとした趣旨目的は、主として、「二重弁済を強いられる危険から第三債務者を保護する」という点にある。
2.民法304条1項但書「払渡又ハ引渡」には、「債権譲渡」は含まれない。
3.抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。
4.以上、物上代位による差押えの時点において、債権譲渡に係る目的債権の弁済期が到来しているかどうかは、関係ない。

【ワンポイントレッスン】
1.「物上代位」とは
 初学者には、ややわかりづらい概念なので、以下、具体例を挙げて説明しよう。
 …AがBにお金を貸して、担保としてBの家に抵当権を設定した。
 せこいBは、なかなかお金を返そうとしない。
 そこで、Aは、Bが家をCに賃貸して、賃料を得ていることに目をつけた。
 Aは、その賃料債権を身代わりとして差し押さえて、ささやかながら、債権を一部回収することができた。
 メデタシ、メデタシ…というのが、「物上代位」である。
 この例では、A=債権者=抵当権者、B=債務者=抵当権設定者、賃料債権=物上代位の目的債権、となる。

2.民法304条1項但書の趣旨
 抵当権者が物上代位権を行使するには「払渡し又は引渡しの前に差押え」を要求している趣旨については、以下のような争いがある(重判・解説)。
[特定性維持説]
 代位目的物が、債務者の一般財産に混入することを防ぐこと。
 1.の例でいえば、CがBに賃料を支払ってしまったら、賃料がBの他の財産と混じってしまって、Aが優先弁済を受けるべき対象がわからなくなってしまうからである。
[優先権保全説]
 差押えは、物上代位権を公示する手段であり、それによって他の債権者・当該債権譲受人等を害さないようにするもの。
 当該債権の譲渡・対抗要件具備や転付命令の前に差し押さえなければ、物上代位権を行使することはできない。
[第三債務者保護説]
 第三債務者の二重弁済を防ぐこと。
 1.の例でいえば、賃借人Cが賃貸人Bに賃料を払った後、抵当権者Aから取立委任を受けたパンチヘッドのお兄さんが突然出てきて、「本当は俺が受け取るはずだったんだ!オトシマエつけろ!」という事態を避けるためである。

3.今回の判決の立場
 従来の最高裁(先取特権の物上代位につき、最判昭60.7.19=百選 I 82=判例六法・民法304条2番)は、「優先権保全説」に立つと言われていたが、今回の判決は、「二重弁済を強いられる危険から第三債務者を保護する」ことが立法趣旨で、抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡・対抗要件具備されても、物上代位権を行使することができる、という新判断を示した。
 優先権保全説→第三債務者保護説、へと転換したように見えるが、学者の間では議論の対象となっている(受験上深入りする必要はない)。

【試験対策上の注意点】
1.国 I 受験生は、択一対策として、判例のポイント全てを押さえておけば、万全である。
2.難易度Cの判例なので、国 II ・地上受験生は余裕があれば。しかし、抵当権に先取特権の物上代位の規定が準用されている、という基礎知識は押さえておこう。

(沖田)


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