【論点】
1.共同不法行為者の一人に対する「債務免除」の効力
2.共同不法行為者相互間における「求償」関係
【判旨】
「甲と乙が共同の不法行為により他人に損害を加えた場合において、甲が乙との責任割合に従って定められるべき自己の負担部分を超えて被害者に損害を賠償したときは、甲は、乙の負担部分について求償することができる(最高裁昭和六〇年(オ)第一一四五号同六三年七月一日第二小法廷判決・民集四二巻六号四五一頁、最高裁昭和六三年(オ)第一三八三号、平成三年(オ)第一三七七号同年一〇月二五日第二小法廷判決・民集四五巻七号一一七三頁参照)。
この場合、甲と乙が負担する損害賠償債務は、いわゆる不真正連帯債務であるから、甲と被害者との間で訴訟上の和解が成立し、請求額の一部につき和解金が支払われるとともに、和解調書中に「被害者はその余の請求を放棄する」旨の条項が設けられ、被害者が甲に対し残債務を免除したと解し得るときでも、連帯債務における免除の絶対的効力を定めた民法四三七条の規定は適用されず、乙に対して当然に免除の効力が及ぶものではない(最高裁昭和四三年(オ)第四三一号同四八年二月一六日第二小法廷判決・民集二七巻一号九九頁、最高裁平成四年(オ)第一八一四号同六年一一月二四日第一小法廷判決・裁判集民事一七三号四三一頁参照)。
しかし、被害者が、右訴訟上の和解に際し、乙の残債務をも免除する意思を有していると認められるときは、乙に対しても残債務の免除の効力が及ぶものというべきである。そして、この場合には、乙はもはや被害者から残債務を訴求される可能性はないのであるから、甲の乙に対する求償金額は、確定した損害額である右訴訟上の和解における甲の支払額を基準とし、双方の責任割合に従いその負担部分を定めて、これを算定するのが相当であると解される。
以上の理は、本件のように、被用者がその使用者の事業の執行につき第三者との共同の不法行為により他人に損害を加えた場合において、右第三者が、自己と被用者との責任割合に従って定められるべき自己の負担部分を超えて被害者に損害を賠償し、被用者の負担部分について使用者に対し求償する場合においても異なるところはない(前掲昭和六三年七月一日第二小法廷判決参照)。」
【判例のポイント】
1.甲・乙が共同不法行為により他人に損害を加えた場合、甲が乙との責任割合に従って定められるべき自己の負担部分を超えて被害者に損害賠償したときは、甲は乙の負担部分について「求償」することができる。
2.甲と乙が負担する損害賠償債務は、いわゆる「不真正連帯債務」である。
3.被害者が甲に対し残債務を「免除」したと解し得るときでも、連帯債務における免除の絶対的効力を定めた民法437条の規定は適用されず、乙に対して当然に免除の効力が及ぶものではない。〔原則〕
4.被害者が、乙の残債務をも免除する意思を有していると認められるときは、乙に対しても残債務の免除の効力が及ぶ。〔例外〕
5.甲の乙に対する求償金額は、確定した損害額である訴訟上の和解における甲の支払額を基準とし、双方の責任割合に従いその負担部分を定めて、これを算定する。
【ワンポイントレッスン】
通常の「連帯債務」については、民法434−439条に、一人の債務者につき生じた事由が他の債務者にも影響する「絶対効」の明文規定が置かれている。
これに対して、「不真正連帯債務」とは、解釈により導かれた概念である。債務者全員が全部履行する義務を負い、一人が履行すれば他の者も債務を免れる点では、連帯債務と共通する。しかし、債務者相互間に主観的共同関係が存在しないため、絶対効・求償関係などは、通常認められないと解されている。
今回の判決は、「求償関係」については認めて、「免除の絶対効」については否定している。しかし、被害者が他の債務者の残債務をも免除する意思を有していると認められるときは、これに対しても残債務の免除の効力が及ぶ、としている点が、ポイントである。
なお、通常の「連帯債務」の免除の絶対効は、免除を受けた債務者の「負担部分」についてのみであるが(民法437条)、今回の事例における乙にも及ぶ免除の効力は、残債務全額である(これは難易度Cなので国U・地上受験生はわからなくてもよい)。
*参考として、求償金額などの計算方法の具体例を以下に示す
@共同不法行為発生
[全損害額] 4000万円
[甲と乙の責任割合] 甲:乙=4:6
[被害者に対して甲と乙が負う債務] 甲=4000万円、乙=4000万円
A甲と被害者が和解、甲が和解金2000万円を支払い、被害者は乙の残債務をも免除
[被害者に対して甲と乙が負う債務] 甲=ゼロ、乙=ゼロ
[甲の乙に対する求償金額] 2000×{6÷(4+6)}=1200万円
【試験対策上の注意点】
1.共同不法行為の損害賠償債務が「不真正連帯債務」であること、「求償」が認められることは、国II・地上受験生も、基礎知識として必ず押さえておこう。
2.国 I 受験生は、「免除」の論点まで押さえよう。