民法総合第2位 (6/6)
(最判平10.6.11=平10重判・民法14=判例六法・民法97条5番・1031条6番)

 「遺産分割協議の申入れ」に「遺留分減殺の意思表示」が含まれるか、内容証明郵便が受取人不在のため差出人に還付された場合に「到達」したと認められるか、が争われた事例である。

[参考]
民法97条1項
   隔地者に対する意思表示は其通知の相手方に到達したる時より其効力を生ず。
同907条1項
   共同相続人は、第九百八条の規定によつて被相続人が遺言で禁じた場合を除く外、何時でも、その協議で、遺産の分割をすることができる。
同1028条
   兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、左の額を受ける。
  一 直系尊属のみが相続人であるときは、被相続人の財産の三分の一
  二 その他の場合には、被相続人の財産の二分の一
同1031条
   遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するに必要な限度で、遺贈及び前条に掲げる贈与の減殺を請求することができる。
【論点】
1.遺産分割協議の申入れと遺留分減殺の意思表示
2.内容証明郵便が受取人不在のため差出人に還付された場合と「到達」

【判旨】
「遺産分割と遺留分減殺とは、その要件、効果を異にするから、遺産分割協議の申入れに、当然、遺留分減殺の意思表示が含まれているということはできない
 しかし、被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合には、遺贈を受けなかった相続人が遺産の配分を求めるためには、法律上、遺留分減殺によるほかないのであるから、遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議の申入れをしたときは、特段の事情のない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれていると解するのが相当である。」

「隔地者に対する意思表示は、相手方に到達することによってその効力を生ずるものであるところ(民法九七条一項)、右にいう「到達」とは、意思表示を記載した書面が相手方によって直接受領され、又は了知されることを要するものではなく、これが相手方の了知可能な状態に置かれることをもって足りるものと解される(最高裁昭和三三年(オ)第三一五号同三六年四月二〇日第一小法廷判決・民集一五巻四号七七四頁参照)。
…被上告人は、不在配達通知書の記載により、小川弁護士から書留郵便(本件内容証明郵便)が送付されたことを知り、その内容が本件遺産分割に関するものではないかと推測していたというのであり、さらに、この間弁護士を訪れて遺留分減殺について説明を受けていた等の事情が存することを考慮すると、被上告人としては、本件内容証明郵便の内容が遺留分減殺の意思表示又は少なくともこれを含む遺産分割協議の申入れであることを十分に推知することができたというべきである。
 また、被上告人は、本件当時、長期間の不在、その他郵便物を受領し得ない客観的状況にあったものではなく、その主張するように仕事で多忙であったとしても、受領の意思があれば、郵便物の受取方法を指定することによって、さしたる労力、困難を伴うことなく本件内容証明郵便を受領することができたものということができる。
 そうすると、本件内容証明郵便の内容である遺留分減殺の意思表示は、社会通念上、被上告人の了知可能な状態に置かれ、遅くとも留置期間が満了した時点で被上告人に到達したものと認めるのが相当である。」

【判例のポイント】
1.被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合、遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく、「遺産分割協議の申入れ」をしたときは、特段の事情のない限り、その申入れには「遺留分減殺の意思表示」が含まれている。
2.民法97条1項にいう「到達」とは、意思表示を記載した書面が相手方によって「直接受領・了知」されることを要するものではなく、これが相手方の「了知可能な状態」に置かれることをもって足りる。
3.遺留分減殺の意思表示を記載した内容証明郵便が受取人不在のため配達されず、受取人が受領しないまま留置期間を経過したため差出人に還付された場合、受取人が郵便内容を十分に推知できた、受領の意思があれば容易に受領できた、といった事情があるときは、郵便の内容である遺留分減殺の意思表示は、社会通念上、「了知可能な状態」に置かれ、遅くとも留置期間が満了した時点で受取人に「到達」したものと認められる。

【ワンポイントレッスン】
1.民法97条1項「到達」の意義
 相手方が、直接受け取って、内容を認識することまで要求すると、ズルイ人は知らん顔で受け取りを拒否して、その間に消滅時効などが経過してしまう。
 そのため、判例は、「相手方の了知可能な状態に置かれることをもって足りる」として、かなり緩和して解釈している。同居の家族が受け取った場合などが、典型例である
2.遺産分割と遺留分減殺
 相続開始により、共同相続人の共同所有になった相続財産は、「遺産分割」(民法907条等)手続により、個別具体的に各相続人に帰属することになる。一家の大黒柱が亡くなった後、奥さんと子供達で家族会議を開いて、家は奥さん、畑は長男、という感じである(注:筆者に男尊女卑の意図はありません)。
 次に、一定範囲の相続人は被相続人の財産の一定割合を確保し得る地位を持ち(遺留分権:民法1028条)、遺留分を侵害する遺贈・贈与の効力を奪う「遺留分減殺請求権」が認められている(民法1031条)。妻子ある男が自分の全財産を愛人に遺贈してしまったら、奥さんや子供はたまったものではないので、遺留分についてはとり返せるわけである。
 このように、両者は異なる制度であるが、今回のケースでは、一定の要件の下に、「遺産分割の申入れに遺留分減殺の意思表示を含む」とした点が、ポイントである。

【試験対策上の注意点】
1.民法97条1項「到達」の意義は、基礎事項なので、国U・地上受験生も必ず押さえておこう。
2.「相続」は時間のない受験生は手が回らないかもしれないが、遺留分の条文ぐらいは、押さえておこう。
3.今回の判例の細かい部分は、余力に応じて参照すれば足りる。

(沖田)


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