労働法第1位 (6/7)
(最判平10.4.9=平10重判・労働法3=判例六法・労働基準法24条・1番)

 建設会社に雇用されて以来21年以上にわたり建築工事現場における「現場監督業務」に従事してきた労働者が、疾病のため現場作業に係る労務の提供ができなくなり、会社から自宅待機命令を受けた場合の、賃金請求権について、争われた事例である(片山組事件)。

【論点】
疾病による自宅待機命令期間中の賃金請求権

【判旨】
労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である。
 そのように解さないと、同一の企業における同様の労働契約を締結した労働者の提供し得る労務の範囲に同様の身体的原因による制約が生じた場合に、その能力、経験、地位等にかかわりなく、現に就業を命じられている業務によって、労務の提供が債務の本旨に従ったものになるか否か、また、その結果、賃金請求権を取得するか否かが左右されることになり、不合理である。
…事実関係によれば、上告人は、被上告人に雇用されて以来二一年以上にわたり建築工事現場における現場監督業務に従事してきたものであるが、労働契約上その職種や業務内容が現場監督業務に限定されていたとは認定されておらず、また、上告人提出の病状説明書の記載に誇張がみられるとしても、本件自宅治療命令を受けた当時、事務作業に係る労務の提供は可能であり、かつ、その提供を申し出ていたというべきである。
 そうすると、右事実から直ちに上告人が債務の本旨に従った労務の提供をしなかったものと断定することはできず、上告人の能力、経験、地位、被上告人の規模、業種、被上告人における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして上告人が配置される現実的可能性があると認められる業務が他にあったかどうかを検討すべきである。」

【判例のポイント】
 労働者が「職種や業務内容を特定せず」に労働契約を締結した場合、現に就業を命じられた「特定の業務」について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力・経験・地位、当該企業の規模・業種、当該企業における労働者の配置異動の実情・難易、等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる「他の業務」について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお「債務の本旨に従った履行の提供」がある。

【試験対策上の注意点】
1.国 I 受験生は、事案の概要と、判例の結論を押さえておこう。
2.地上の労働法では、事例式で最新判例が出題されることがある。地上受験生も、余裕に応じて目を通しておくと良い。

(沖田)


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