商法第1位 (6/7)
(最判平10.7.17=平10重判・商法2=判例六法・商法280条の3の2・3番)

 公示・通知を欠いた新株発行が無効となるか、争われた事例である。

[参考]
商法280条の3の2(新株発行事項の公示)
   会社は払込期日の二週間前に新株の額面無額面の別、種類、数、発行価額、払込期日及募集の方法を公告し又は株主に通知することを要す。
同280条の10(新株発行の差止)
   会社が法令若は定款に違反し又は著しく不公正なる方法に依りて株式を発行し之に因り株主が不利益を受くる虞ある場合に於ては其の株主は会社に対し其の発行を止むべきことを請求することを得。
同280条の15第1項(新株発行無効の訴え)
   新株発行の無効は発行の日より六月内に訴を以てのみ之を主張することを得。
【論点】
公示を欠いた新株発行の効力(商法280条の3の2)

【判旨】
「新株発行に関する事項の公示(商法二八〇条ノ三ノ二に定める公告又は通知)は、株主が新株発行差止請求権(同法二八〇条ノ一〇)を行使する機会を保障することを目的として会社に義務付けられたものであるから、新株発行に関する事項の公示を欠くことは、新株発行差止請求をしたとしても差止めの事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となると解すべきである(最高裁平成五年(オ)第三一七号同九年一月二八日第三小法廷判決・民集五一巻一号七一頁参照)。
 これを本件についてみるに、前記事実関係に照らせば、
(一)
 鈴木勉は、本件新株発行について赤尾に他言しないように頼み、当時発行済株式の総数の過半数を所有していた上告人らに通知しないまま本件新株発行を行っているが、これは上告人らに秘匿して行ったものといわざるを得ないこと、
(二)
 本件新株発行により、上告人らの持株は過半数を割り込むことになり、他方、鈴木勉の持株は過半数を上回ることになって、被上告人に対する支配関係が逆転すること、
(三)
 本件新株発行が取締役会で決議されたのは、商法の一部を改正する法律(平成二年法律第六四号)の施行日である平成三年四月一日の直前の同年三月二九日であって、もし右施行日後に右決議がされていれば、株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定款の定めのある被上告人の株主である上告人らは新株引受権を有することになったはずであること(同法附則一四条、商法二八〇条ノ五ノ二)、
(四)
 新株の払込期日は右決議の約二箇月も先である同年五月二三日と定められており、新株発行により増資されても、それが直ちに株式会社の運転資金を調達したことにはならず、被上告人が本件新株発行を決議した当時、その公示をしないで本件新株発行を急がねばならないほど資金を緊急に調達する必要があったとはいい難いこと等の事情が存することが明らかである。
 右によれば、本件新株発行は「著シク不公正ナル方法」(同法二八〇条ノ一〇)によるものではないとは到底いえず、差止めの事由がないとは認められないから、前記の通知又は公告を欠く本件新株発行には、無効原因があるというべきである。」

【判例のポイント】
1.「新株発行に関する事項の公示」(商法280条の3の2)は、株主が「新株発行差止請求権」(同280条の10)を行使する機会を保障することを目的として会社に義務付けられたものであるから、新株発行に関する事項の公示を欠くことは、新株発行差止請求をしたとしても差止めの事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の「無効」原因となる。
2.公示を欠く新株発行により、従前発行済株式総数の過半数を有していた株主が過半数を割り込み、代表取締役の持ち株が過半数を上回り、支配関係が逆転し、また緊急に資金の調達が必要であるといえない、といった事情が存する場合には、新株発行は「著しく不公正な方法」によるものとして商法280条の10所定の差止事由がないとはいえないから、公示を欠く新株発行には無効原因がある。

【ワンポイントレッスン】
 「新株発行に関する事項の公示」(商法280条の3の2)を欠く新株発行の効力については、有効説、無効説、折衷説の争いがある。
 最高裁は「新株発行差止請求をしたとしても差止めの事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となる」と述べて、折衷説の立場をとっている。

☆判例の立場(折衷説)
  [原則] 無効
 
無効にしなければ、株主が新株発行差止請求権(同280条の10)を行使する機会を保障することを目的として、会社に公示を義務付けた意味がなくなるから。
  [例外] 有効
 
新株発行差止請求をしたとしても差止めの事由がないためにこれが許容されないと認められる場合。立証責任は会社側にある。

【試験対策上の注意点】
 「新株発行」は、会社法における頻出論点である。国 I ・国税受験生は、判例の結論をしっかり押さえておこう。

(沖田)


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