登場人物
A……「普通の国」を目指す公務員志望の学生
B……外交官志望の学生
C……志望官庁未定の公務員志望の学生
T……3人の先生
T 日の丸・君が代の法制化についてどう考えますか?
A 日本のように国旗・国歌のない国はおかしいと思います。法制化に賛成します。
B 僕は法制化に反対です。日の丸と君が代は、国民の支持を十分に受けているとはいい難いし、近隣諸諸国が反発すると思います。
C 僕は、国旗・国歌の法制化の問題と日の丸・君が代の法制化の問題は区別すべきであると考えます。
T そうですね。では、国旗・国歌の法制化はどうでしょうか。
B 僕も国旗・国歌の法制化には反対しません。諸外国も国旗・国歌の法制化をしていますから。
T 国旗・国歌は法制化しなければなりませんか。
C 国旗や国歌は、それ自体、国民の権利・義務には直接かかわりないので、法律で定めなければならないとは言えません。しかし、入学式とか卒業式といった公の場で掲揚・唱歌を国民に義務づけるのであれば、法律で定めなければならないと思います。
T そうですね。では、日の丸・君が代の法制化はどうでしょうか。
A 国民の多くが慣れ親しんでいる以上、問題はないと思います。
B 国民の多くが慣れ親しんでいるかどうかは主観的な問題でわかりません。そもそも、こういう重要な問題は国民投票にかけるべきです。
T 現行憲法下で、国民投票はできますか?
A できないと思います。憲法41条は、国会を「唯一の立法機関」としているからです。
C 僕は、国会を拘束する国民投票はできないが、国会を拘束しない国民投票はできると思います。
T C君の立場は元首相の中曽根康弘氏が主張しています。彼は、もともと改憲論者で、首相公選制を唱えています。この問題は、後日検討するとして、彼は、憲法を改正しなくても、国会を拘束力しない国民投票はできるとしています。しかし、国会が国民投票と同じ結論を出すならば、国民投票は時間と税金の無駄使いになりますし、国会が国民投票と異なった結論を出すならば、政治的混乱が生ずることは必至です。国民の意思は、マスコミの調査等でもほぼ確実にわかるので、それを国会が十分尊重した上で、十分に審理することが重要かと思います。ただ、国旗・国歌の問題は、国の根幹にかかわるので、憲法改正に準じて、時間とお金をかけて国民投票をやるのも意味がなくはないと思います。ただ、憲法41条との関連で、国会に対する拘束力を認めることはできません。
T 話を元に戻して、ここで、日の丸と君が代の憲法問題を考えましょう。まず、日の丸の問題はどうでしょうか。
A 特に問題はないと思います。
B 外国、特に日本と戦ったアジアの国々が反発するのでは?
C 外国の反応も大事ですが、国旗を何にするかは全くの国内問題であって、日本国民が決めるべき問題です。ただ、全くの国内問題といっても、国会で十分審理する必要があります。
T そうですね。国旗というものは、その国の光と影を背負っているものであると言えますね。B君、この点について詳しいでしょう。
B 確かにイギリスは中国とのアヘン戦争、アメリカもベトナム戦争の際に国旗を掲げていました。フランスも自由・平等・博愛を唱えつつ、植民地支配をしました。日本も国旗を掲げつつ南京事件を起こしました。南京事件については、数については争いがありますが、あったという点は最高裁も認めています。
A 中国もチベットを弾圧している。どこの国でも他国を侵略しているのに日本だけ悪者にされるのは納得がいかない。
B 戦争というものは多かれ少なかれ残虐行為を伴うものだけど、事実は事実として認め、反省すべき点は反省しなければならない。
C 先程、国旗を何にするかは全くの国内問題であって、日本国民が決めるべき問題といいましたが、歴史的事実・認識も踏まえて、国会で十分審理する必要があると思います。
T 日の丸を国旗にするにせよ、諸外国の人々がいいイメージをもつよう我々は努力しなければなりませんね。
T では、君が代はどうでしょうか。
A これも特に問題はないと思います。
B 君が代は国民主権原理に反します。
C 日本国憲法は、象徴天皇制をとっているので、ぎりぎり合憲と考えます。
A そもそも君が代の法制化が憲法問題となるのかな?
B 違憲審査権が裁判所にある以上、憲法問題となりえるよ。
A だけど抽象的違憲審査制を日本国憲法は採用していないよ。
B 確かに憲法は抽象的違憲審査制ではなく、付随的違憲審査制を採用している。だから、具体的事件が起きれば、憲法問題となりうるよ。
T 具体的事件としては、何が考えられますか。
C 国公立の学校で、入学式とか卒業式を妨害する人が出てきた場合、公務執行妨害罪の成否が問題となります。そのとき、被告人が公務は違憲だから自分は無罪であると主張する可能性があります。
T そうですね。君が代を法制化しても、憲法訴訟が提起される可能性がある。法制化は、根本的な問題の解決にはなりませんね。
T では、何か憲法訴訟を回避するうまい方法はありませんか。
B 別の国歌を制定したらどうでしょう。
A 全く馬鹿げている。君が代以外に国歌はあり得ない。
T A君、馬鹿とか人を誹謗・中傷・侮辱するような表現は議論に使用してはいけません。下手をすると侮辱罪となります。
A お騒がせして、失礼しました。謝罪します。つい熱が入ったもので。
T 謝罪するなら、B君にして下さい。私は、被害を受けていませんから。ところで、C君、どうでしょうか。
C 今すぐには思い浮かびません…
T こういうのはどうでしょうか。「君が代」の1字を変えて「民が代」にするというのは。これだと国民主権と調和します。
A …
B …
C …
T じゃあ、こういうのはどうでしょうか。象徴天皇制と国民主権を調和させるため、「君が代」を1番として残し、「民が代」を2番にし、2番だけを歌うというのは。ドイツも3番だけ歌っているようだし。
A ………
B ………
C ………
|