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日本の今を考える
第2回 国会議員と憲法のテスト (99/6/23)
登場人物
 ……「普通の国」を目指す公務員志望の学生
 ……外交官志望の学生
 ……志望官庁未定の公務員志望の学生
 ……3人の先生
 先日、君達の先輩の官僚が、嘆いていました。「振込」と言って国会議員が質問を自分で作らず、官僚に作らせると言うのです。それも、与党だけでなく、野党にも「振込」をする議員がいるそうです。それで、国会会期中は、「振込」や「質問」に備えて、午前2時、3時まで待機していたり、回答作りをしなければならないと言うのです。
 質問の作成は、政策担当秘書のやることではないですか。そのため、政策担当秘書には、普通の秘書よりも高い給料を税金から支払っているはずですよ。
 そうですね。憲法上は、どのように評価されますか。
 議院内閣制の趣旨に反すると思います。
 それは、どういうことですか。
 議院内閣制の本来の趣旨は、行政権に対して立法権が民主的コントロールを加えることにあります。しかし、「振込」は、民主的コントロールを加えるべき立法権が民主的コントロールを加えられる行政権に全く依存してしまっており、その点で問題があります。
 では、「振込」をなくし、国会議員の資質を向上させるためにはどうしたらいいでしょうか。
 東大のあるゼミでは、国会議員の格付けをやっています。この格付けを大々的にやり、有権者に公開したらどうでしょうか。
 それも一案ですね。
 他に、何か方法はありませんか。
 国会議員の数を減らすべきだと思います。
 確かに、アメリカを見ても、国会議員の対人口比は、日本ほど高くはないです。
 国会議員の数を減らしても、国民は政策能力のある議員や政党を選ぶとは限りません。地域・業界の利益を代表する人を選ぶ可能性のほうが高いと思います。縁故関係で選ぶ人も少なくないと思います。国民の政治意識を高めるのが筋ですが、時間がかかります。
 では、特効薬はありませんか。
 国会議員の立候補予定者に憲法のテストをして、一定の成績以下の人には、被選挙権を認めないというのはどうでしょうか?
 それは、どうでしょうか。民主制のプロセスにとって重要な精神的自由の規制は、社会・経済政策的配慮を必要とする経済的自由の規制よりも厳格な違憲審査基準によらなければなりません。この二重の基準論の趣旨から考えると、選挙権や被選挙権は民主制のプロセスに必要不可欠で精神的自由に準ずるものですから、被選挙権の規制は困難ではないでしょうか。
 確かに、被選挙権の憲法上の根拠を13条に求めた場合、精神的自由に準じた厳格な違憲審査基準が採られますね。
 最高裁は、被選挙権の憲法上の根拠を何条に求めていますか?
 15条です。選挙権と被選挙権を表裏一体と解しています。
 最高裁の見解を前提に考えましょう。B君、選挙権の法的性格についてどのような説がありますか。
 権利説と、公務説と権利・公務の両性質を有するとする二元説です。
 通説は、どれですか。
 二元説です。
 二元説を前提に考えた場合、国民に憲法のテストをして、一定の成績以下の人には、選挙権を認めないというのはどうでしょうか?
 公務の側面を強調すれば、できると思います。
 だけど、憲法15条1項は、公務員の選定・罷免権は、「国民固有の権利」としているので、権利の側面も無視することはできないと思います。
 僕は、B君に賛成します。憲法尊重擁護義務を定める99条には、「国民」は含まれていません。だから、できないと思います。
 では、二元説を前提に考えた場合、国会議員の立候補予定者に憲法のテストをして、一定の成績以下の人には、被選挙権を認めないというのはどうでしょうか?
 これも、公務の側面を強調すれば、できると思います。
 被選挙権が選挙権と表裏の関係にあるとすると、やはり権利の側面も無視することはできないので、これもできないと思います。
 ここは、A君に賛成します。憲法尊重擁護義務を定める99条には、「国会議員」が含まれています。だから、できると思います。
 A君、そもそも憲法尊重擁護義務を定める99条の趣旨は何ですか。
 公権力を行使する公務員に、憲法を守らせ、国民の人権を侵害しないようにするためです。
 では、B君、99条の名宛人から国民が省かれている理由は何ですか。
 国民は主権者であり、憲法改正権者だからです。
 では、C君、国民は憲法を守らなくてもいいのですか。
 そんなことはありません。政治的・道徳的義務と解するのが一般的ですが、憲法12条により、国民は、自由と権利を濫用してはならず、公共の福祉のため利用する義務を負います。また、国民は憲法改正権者といっても、憲法の改正手続に則って行わなければなりません。
 憲法改正手続法はありますか。
 ありません。将来の検討課題です。
 そうですね。
 話を元に戻しましょう。国民に憲法のテストをして、一定の成績以下の人には、選挙権を認めないとすることはできないが、国会議員の立候補予定者に憲法のテストをして、一定の成績以下の人には、被選挙権を認めないとすることはできそうですね。
 ただ、江本議員とか橋本議員のように体育会系の議員にも、存在価値は十分にあると思います。そうした議員が、当選できなくなるのではないでしょうか?
 馳議員はプロレスラーの前は星陵高校の先生だったから大丈夫かな?
 99条がある以上、憲法の試験に落ちたら、やむを得ないと思います。
 私の経験からすれば、少し勉強すれば大丈夫だと思います。以前、体育会系の大学に進学する人に「政治・経済」や「現代社会」を教えたことがありますが、運動能力が高い人は頭の回転も速いという印象を受けました。ただ、100メートルは何本も走りますが、勉強は1回で済ませようという傾向はありましたが……。30時間ぐらい憲法のスクーリングをやれば十分でしょう。
 実際に憲法のテストを実施したらどうなりますかね?
 護憲派の議員に有利になると思います。
 改憲派の議員も現行憲法を把握した上で、改正を論ずるべきですから、護憲派の議員だけに有利になると思いません。
 そうですね。
 ただ、かなりの国会議員が当選できなくなるのでは?
 国会議員だけでなく、憲法のテストは、地方公共団体レベルの議員・首長候補者にも実施すべきです。しかし、ちゃんとした憲法のスクーリングをやれば大丈夫でしょう。
 そうなると、先生は引っ張りだこで、『バイブル憲法』も売れそうですね。
 それが私の本当の狙いです。
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 じょっ、冗談だよ!
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