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日本の今を考える
第5回 責任のとりかたについて (9/6)
登場人物
 ……「普通の国」を目指す公務員志望の学生
 ……外交官志望の学生
 ……志望官庁未定の公務員志望の学生
 ……3人の先生
 前回、戦前の日本には「恥」の文化が存在したが、今日では、個人主義を曲解した利己主義が日本を支配しつつあるので、個人主義の本来の意味を確認する必要があるということについて論じました。
  今日は、責任のとりかたについて検討しましょう。日本人は「責任」の意味を曖昧に使用しており、その結果、本来責任を負うべき場合に、負うべき責任を負っていない場合があると考えます。では、責任には何がありますか?

 民事責任と刑事責任があります。
T それだけですか?
 道義的責任があります。
 それもそうですが、法律上の責任が他にあるでしょう。
 行政上の責任もあります。また、国際法上の責任が生ずる場合もあります。
T そうですね。では、具体的に検討しましょう。不倫はどうですか?
 刑事責任は負わないが、民事責任を負うというケースです。戦前は姦通罪があり、不倫をした妻だけが処罰されましたが、戦後の男女平等のもと、廃止されるに至りました。現在は、民事責任のみの問題となりました。
T そうですね。では、不倫の場合、民事責任は誰が誰に負うのですか? 今度は、B君答えて下さい。
 不倫相手は、不倫された配偶者に不法行為責任を負います。外国では違うようですが、日本の最高裁は、不倫された配偶者から不倫相手に対する損害賠償請求を認めています。
 そうですね。では、不倫相手は、子どもに対して責任を負いますか? 子どもとは、もちろん、不倫された配偶者と不倫した配偶者の間の子どもです。今度は、C君答えて下さい。
 不倫相手は、不倫された配偶者の子どもにも例外的にですが、不法行為責任を負うことがあります。最高裁は、親の不倫相手が悪意をもって親の子に対する監護等を積極的に阻止したような場合には、損害賠償請求できる余地を認めています。
 そうですね。では、不倫した配偶者は、不倫された配偶者に責任を負いますか?
A 基本的に道義的責任の問題だと思います。
B アメリカだと損害賠償の問題ですが、日本では判例がほとんどないのでは?
C 不倫は離婚原因になり、不倫した配偶者は有責配偶者として、不倫された配偶者に不法行為責任を負います。
T そうですね。では、不倫した配偶者は、不倫相手に責任を負いますか?
C 従来は否定されていましたが、今日では、不倫した配偶者の違法性が、不倫相手の違法性を上回る場合には、不法行為責任を負う余地があるというのが、最高裁の立場です。
T そうですね。『失楽園』を実際にやったら大変なことになります。渡辺淳一は、不況を乗り切るには、不倫が一番というようなことを言っていましたが、彼は小説家です。公務員になる君達は、身を慎んだ方が将来のためです。
 でも、検察の幹部で「浮気は現場の活力になる」と言ったり、実行した人がいますよ。
 彼等は、例外でしょう。失脚してますし…。
 私も、そう信じたいです。
B そう言えば、「妻を殴るのは日本の文化である」と言った外交官がいますよ。
C 彼も、例外でしょう。
A しかし、最近の日本では夫が妻を殴る家庭内暴力も多いようですよ。新聞でも特集をやっていました。
B アメリカのほうがもっとひどいと聞きます。
T 私は、「妻を殴らないのが日本の文化である」と思っていました。江戸時代、武士は「切り捨て御免」の特権がありましたが、宮本武蔵以来の武道の伝統からすると、むやみに刀を抜かないのが武士の美徳だと思っていました。
A 僕も、そう思います。日本の、特に、武道の伝統では、礼儀・作法がやかましいのは、力を濫用することを戒めたものと思います。
B 女性を殴る男性は最低だと思います。ヨーロッパの騎士道にも反します。
C 妻を殴る夫は、道義的責任だけでなく民事責任と暴行・傷害などの刑事責任を負うはずです。
T そうですね。少し話がそれました。
  次回は、少年Aの親の責任について考えてみましょう。これは、『朝まで生テレビ』でも議論していましたが、国 l 法律職1次試験の民法でも出ています。直近の過去問を3年分やっておくように。
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