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対談第3回 キャリア・システムを考える (2000/3/22)
生徒S 昨今、キャリアの不祥事が相次いでいます。先生は、キャリア・システムについてどうお考えですか? 多少、私自身、キャリア官僚になっていいものか迷いがあるのですが。
教師W 不祥事は、キャリアに限りません。数から言えば、はるかにノン・キャリアのほうが多いと思われます。割合から言ってもそうでしょう。キャリア・システム自体は存続させるべきだと思います。ただし、今までのキャリア・システムは硬直化しており、「緩やかなキャリア・システム」を採るべきだと思います。
生徒S 「緩やかなキャリア・システム」とは?
教師W 国 I キャリアの採用数を増やし、競争原理を採り入れるべきだと思います。
生徒S それでは、行革に逆行するのではないでしょうか?
教師W 国 II を廃止し、その定員を国 I に回せばすみます。国 I と国 II を統合し、全体として減らせば行革です。そもそも大卒レベルと高卒レベルで充分だと思います。
生徒S 誰を出世させるか、評価システムが難しいのでは?
教師W 難しい問題ですが、抽象的には昇進試験と実績評価の組合せが妥当であると考えます。実績評価も予算のつく仕事をいくつ作ったかではなく、限られた予算でいかに最大の効用を生み出したか、という視点が重要であると思います。
 一度、試験に合格して、組織に入れば出世が保証され辞めるまで安泰(不祥事を起こしても、組織がかばってくれる)というのは、どう考えてもおかしいと思います。公務員は、全体の奉仕者であるのが建前なのに。

生徒S ノン・キャリアの処遇はどうでしょうか?
教師W これも、昇進試験と実績評価により、キャリアへのルートを保証すべきです。ノン・キャリアとして、黙々と平日は仕事をこなしながら、土日に勉強して国 I に合格した優秀な人もいます。ただ、今までの例を見ていると、キャリア採用は少なく、残念に思っていました。彼らは、現場の苦労も知っているので、いいキャリアになったと思われます。
生徒S ところで、先生は、人事院面接の形骸化の防止を主張されていますが、その趣旨はどこにありますか?
教師W キャリア・システムは今のままだと国民主権原理に反するおそれがあるからです。
生徒S 国民主権に反する!?
教師W そうです。憲法15条は、主権者たる国民に公務員の選定・罷免権を保障しています。もちろん、すべての公務員を国民が選定・罷免したり、できたりするわけではありません。しかし、できる限り、公務員の選定にあたっては、民意を反映させることが望ましいと言えます。キャリア官僚の民主的正統性は、議院内閣制の下での大臣や長官による任命や罷免だけです。他は、ノーチェックに等しいのです。例えば、地方公務員であれば、違法な支出をすれば住民訴訟の被告となりますが、国の場合、住民訴訟のような客観訴訟は認められていません。
生徒S 国民主権に反しないようにするためには、どうすればよいでしょうか?
教師W 現状の人事院面接では、民意を反映させるという点から不充分です。独立行政委員会の人事院の職員1人と行政権の代表である他の省庁の人事担当者2人では民意は反映されません。官庁訪問面接が先行するので、ますます人事院面接は無意味となりつつあります。どうせやるなら、他の省庁の人事担当者2人に代えて、労働者と使用者の代表を1人ずつ出してもらうとか、選挙人名簿からクジで面接官を選ぶとかすればいいと思います。
生徒S それは、人事の中立性に反するのでは?
教師W 人事の中立性が必要なのは、結局、国民のためです。恣意的な選定は許されませんが、公正な手続による選定こそ望ましいと言えます。そもそも、大統領制のアメリカはともかく、議院内閣制のイギリスでも政治的任用が多いと聞きます。人事の中立性を強調するのも多分に19世紀のドイツの影響かと思います。
生徒S 19世紀のドイツの影響!?
教師W そうです。第2次世界大戦後もGHQは官僚組織を温存させましたが、その官僚組織は藩閥政治のコネ採用に頭を悩ませた明治政府が、行政改革を兼ねて1885年にドイツに範を求め確立したものなのです。もっとも、日本のほうが「閉鎖的・特権的」ではなかったようですが。この辺の事情は、水谷三公『日本の近代13 官僚の風貌』(中央公論新社)に詳しいので、試験が終わったら読んでみて下さい。
生徒S 1885年と言えば、伊藤博文が内閣総理大臣の時代ですね。
教師W そうです。現在の日本の行政組織は、民主的勢力であった議会の力が弱体であった19世紀のドイツの亡霊に、21世紀の目前まで取り憑かれていたと言えなくもありません。行政法の理論も然りです。
生徒S ところで、宮沢内閣の時の取り決め「東大生は5割以下」とかいうのはどうなったのでしょうか?
教師W 死文化しています。そもそもこれはナンセンスです。東大生の合格者が7割ならば、内定者が7割でもいいと思います。
 問題なのは、行政・法律・経済で、東大生の合格者が3分の1なのに内定者が3分の2という実態に合理性があるかどうかです。皮肉なことに「東大生は5割以下」というのは技術系も入れるとかなり達成できているのではないでしょうか?

生徒S 試験まで、あと3か月を切りました。今後もよろしくご指導お願いいたします。
教師W これからの過ごし方で、君達の一生の大事な節目が決まります。あせらず、がんばって下さい。
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