対談第7回 |
日本国債格下げ |
(2001/02/25) |
T(経済学者T氏)
W(渡辺)
T お世話になっておりますTです。
W 今晩は。
T 投資銀行の資料を整理して先生に送ろうと思っておりましたら、アメリカの金融格付け会社(以下、S&Pと略します)が、日本の長期国債の格付けを最上級のAAAから第2級のAA+に引き下げました。既に、もう一つの代表的なアメリカの金融格付け会社であるムーディーズは昨年9月に日本の長期国債の格付けを第3級に再引き下げしていますから、日本の長期国債は完全に第2級の金融商品になったわけです。
W そのようですね。TVニュースでも見ました。
T 先週の日本銀行の政策変更の眼目は、(1)短期国債の買いきり操作の再開と(2)ロンバード債の導入とでした。この二つは、日本の商業銀行の資産の30%を占める日本国債を売らせない環境を作ることを目的としています。実際、この処置によって、商業銀行が資金不足に陥った場合に、商業銀行が手持ちの国債を売却しなくても、(1)日本銀行に国債を買ってもらって資金を調達するか、あるいは、(2)日本銀行に国債を担保に差し出して金を借りて資金を調達することが出来ます。この処置によって、長期金利の上昇は避けられるとすれば、日本政府は安心して更に国債を発行することが出来ます。野党が財政再建を求めても、「長期金利は上昇していない」と反論出来るわけです。このシナリオは日本国債の格付けが下がらないことを前提とします。財政再建の見通しの無いまま日本国債を増発しても日本政府が債務不履行に陥る危険が増加しないと金融市場関係者が思い続けることを前提とします。しかし、この楽観的前提は直ちに市場によって却下されました。
W 日本政府の経済関係閣僚が怒っていたのはそういう訳ですね。
T 日本の商業銀行の不良債権処理は遅遅として進まず、これから何年も銀行の貸出は増加しないと、金融市場関係者は評価しています。実際、銀行に貸出の意志が無いからこそ、銀行は国債を買い漁っているのです。
W 日本の銀行は未だに国債を買うしか能がないのですか?これから有望な産業とか企業に融資するだけの審査能力はないのでしょうか?
T 日本国債の格下げは、第一に、日本政府と日本銀行との経済政策が格下げされたことを意味します。そして、第二に、本務である企業への貸出を減らしてまで国債を買い漁った日本の商業銀行の資金運用能力そのものが格下げされたことを意味します。
W 確かに。国会でも、予算委員会では本来は予算そのものを審議すべきなのに、野党は突っ込みも甘く論点も明確にしないままKSDやゴルフの政治的責任を追及するだけで、政府はのらりくらりの応答を繰り返しています。このような状況を外国人投資家は冷ややかに見ているのでしょうね。
T 政府と中央銀行と商業銀行とがどれも二流のものであることが明らかになってしまった以上、世界の何処でも通じる一流の企業や個人が日本に留まることに経済的な合理性は有りません。ましてや、日本の教育水準の急落によって、日本人労働者を主力することは、企業の競争力を低下させる要因となっていきます。トヨタを始めとする日本の優良企業の社債は日本国債よりも高い格付けを与えられています。そうした企業にとっては、自分が日本企業であることが自分の格付けを下げる要因となってしまいます。既にキャノンは2004年に本社機能をアメリカに移すことを決定しています。恐らく、ソニー、トヨタ、TDKといった日本の超優良企業もそれに続くでしょう。実際、トヨタの奥田会長は、日本人を雇用することに固執しないと宣言しています。
W 産業の空洞化がますます進行しますね。しかも、今回は製造業ではなく、知的労働者の失業者が増えそうですね。
T このままでは、日本の企業のうち国際競争力を持つ部分は、日本企業であることを止めて世界企業となり日本を離れ、銀行、証券、土建・建設、流通、農業、情報、研究、教育といった国際競争力が無い産業だけが日本政府と日本銀行とにしがみついていることになるでしょう。つまり、税金を払う産業は日本を脱出し、補助金を貰う産業が日本に居残るのです。そうなれば日本国債の格付けは下がるばかりで、国債価格は低下し長期金利は上昇することになります。その結果、民間投資は減少し、景気はさらに沈滞し、失業は一層増加します。
W 現在でも、完全失業者が約300万人、フリターが約200万人というのに……。
T このままでは、いつの日にか、日本政府と日本銀行とは、市場の圧力に屈して、日本国債の暴落を回避する為に、国家公務員・地方公務員の大量解雇、年金支給額の大幅削減、大幅な増税、商業銀行の大量倒産の容認を宣言し実行することを余儀なくされるでしょう。
W 暗い話ですね。なんとかこれを避ける有効な手段がないのでしょうか? 少なくとも、これからは「ゆとりの教育」なんていう暢気なことは言ってられませんね。
T 朝日新聞2月23日朝刊第3面は、在フィリピン日本大使が、1月20日の政変の瞬間にゴルフを楽しんでいたことが報じています。また、その前日の晩、マラカニアン宮殿で権力移譲の交渉が為されている最中に、大使館員の送別会を行なっていたことも報じています。1941年12月7日の夜に、ワシントンの日本大使館に宣戦布告書の暗号文が次々と届いている時に、大使館員の送別会を行ない、翌朝に二日酔いの頭で暗号を解読しタイプを打った挙句に、真珠湾への奇襲攻撃が終わった後に宣戦布告をアメリカ国務長官に伝えるという大失態を行なったのと同じミスを繰り返した上に、公務よりもゴルフ遊びが大事という森首相的policyを貫徹しています。
W 日本の危機に一番鈍感な人は政治家と高級官僚ではないかと思います。志のある政治家と高級官僚は少数はいると思いますが、今どうして沈黙しているのでしょう?
T 成果ではなく年中行事を前例に従って行なうことが出世の基準となるような微温湯と云うよりドブ沼のような組織の中で何年仕事をしても、厳しい公正(fair)な競争に生き残り、競争の規模を拡大しながら成長していかなければならないventure
businessの世界で通じる能力は決して生まれないと思います。
W 「民間でも契約をとるために未だに接待とか腹芸を学ぶのに苦労している同級生がいる」とある若手キャリアが言っていましたが……。
T 先生のゼミナールに集う日本で最も優秀な学生達を、先生が徹底的に鍛え上げることを心から希望致します。
W 試験対策としても、判例の理由とか結論を覚えるのではなく、その問題点や批判も指摘できるように指導しています。また、新聞の社説を数紙比較して読め、突っ込みの甘さを指摘できるようにしろ、と言っています。いろいろ考えている人の内定率は高いです。しかし、入省すると多くの人はどういう訳か頭が固くなるように見受けられます。人事院研修の長期化も、多額の税金を投入している割には、かえって「自分たちは特別なのだ」という意識を増長させて、逆効果のようにも見受けられます。
ともあれ、先生、今後もいろいろ御指導お願いいたします。
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