第9回 |
国家公務員の給与と退職金を考える(2) |
(02/08/13) |
登場人物
J……受験生
N……入省予定者
K……若手キャリア
W……渡辺
J 先生、先日『アエラ』の記事、読みました1。国家公務員の給与は世界一だとする先生のコメント出ていましたね。
N 私も読みました。
K 先生、あれ少しショックでした。記事の影響で、先輩達の人生設計が狂わないか心配です。私は入省前から覚悟しています。しかし、若手のうちは給料が安く、サービス残業も多いから、なるべく出世をして、多くの給与と退職金をもらって、天下りもして、若いうちの安い給与分とサービス残業分を埋め合わせしないと収支決算が合わないという先輩の気持ちはよくわかります。別に人生すべてお金だけじゃないけど、お金はないよりあるに越したことはないし・・・。
W そうですね。確かにそういう面もあります。ただ、私は、課長になるまでは給料は一流企業に比べると割安感があり、しかもサービス残業が多いので、若手キャリアの給料を大企業並みに引き上げないとかわいそうだ、それに忙しすぎて土・日は寝るだけでゆっくりものを考える時間がないから、次第に頭が固くなっているとも記者に言ったのです。
J 給与については、(本省の)課長以上になると世界一になることしか書いてありませんでしたよ。
W 記事の全体の流れから、若手キャリアの給与は安いという話はカットしたのでしょう。
K 先生のお話は全体を伺うとバランスが取れているのですが、あまりにも事実や正論・本音を言いすぎて、誤解されたりすることがあると思います。
W 多少その傾向はありますね。ただ、事実は事実だし、事実を踏まえて理想を語るのは大事と思います。冷静な理解力のある人はわかってくれていると思います。それにあのインタビューにしても、すべて政府や経済団体が発表し、大新聞にも掲載された数字に基づいて話しただけです。
N キャリア公務員、特に局長以上の給与は非常に高いという話は、最近読んだ『霞が関残酷物語』にも書いてありましたよ2。
K 最近、皆読んでいますよ。
W 私も読みました。本音で書いてある面白い本です。
J ところで、『AERA』にもありましたが、留学すると(給与以外に)1日9600円も出るという話は本当ですか?
W 本当です。ただ、「この話はこれから留学する人に悪いし、うちの子供もその可能性はなくはないから、書かないでくれ」と(笑いながら)記者に頼んだのですが・・・。
N 1日9600円という話は前に読売新聞で私も読みました。先生が言わなくても、知っていた人は多いのでは?
W そうかもしれません。
K 先生は廃止すべきと考えているのですか?ある程度ないと困ると思うのですが・・・。
W 全部廃止すべきだとは考えていません。図書館にない本や雑誌なども買わなくてはならないと思うので、1日1000円、1ヶ月で30000円程度の給与以外の手当はあってもいいと思います。
K 1日9600円は額が高すぎるということですね。
W そうです。完全失業者350万人超、フリーターはそれ以上という経済状況の下では、1日96000円を普通の国民は到底稼げません。日本より物価の高い国はほとんどないし、給料はちゃんともらっているのだから、なんとかお金(税金)をやりくりするのも大事だと思います。今までのただ働き分の穴埋めと言う考え方もありますが、キャリアといっても全員が留学できる訳ではありません。また、留学後、公務員を辞めてしまう人が毎年10人程度はいて、国は留学費用の返還請求を全くしていないというのもかなり問題です。
J 繰り返しになるかもしれませんが、結局、先生は公務員の給与についてはどのようにお考えなのですか?
W 若手の給与を大企業並みに上げるのがまず第一点。それに残業代も全額払う。まず金銭面での保障が必要です。
K うれしいですね。
W 財政状況等から給料を上げられないなら、仕事の負担を軽くし、勤務時間をきっちり守らせる。それでも人手が足りないなら、ワークシェアリング、人材派遣会社の利用を検討する。
K それでもうれしいです。とにかく早く帰って自分の時間を持ちたいです。
W 仕事が忙しいのは、大臣の答弁作成のほか、国会議員の質問作成までやらされるからです。しかも質問や依頼が時間的に遅すぎる。無意味な国会待機もあります。大臣や国会議員も国家公務員のために労働基準法を遵守すべきです。
K そうです。
W そこで、大臣の答弁は本人、それがだめなら副大臣と大臣政務官にやらせる。彼らにも秘書がいます。
N 現実には無理なのでは?
K そうですよ。
W そうですが、そもそも答弁できない大臣は淘汰されるべきだと思います。
K 国会議員の質問作りも勘弁してもらいたいです。
W そうです。国会が内閣を通じて行政権をコントロールするという議院内閣制の趣旨に反します。禁止すべきです。
K そうすると私達の仕事は?
W 情報・資料の収集と分析です。それを大臣や国会議員、そのスタッフに提出し、せいぜい説明するにとどめるべきです。しかも基本的に通常の勤務時間内にです。
K そうなると楽ですね。
W 本来、大臣や国会議員、そのスタッフがやるべきことを官僚は抱え込みすぎたのです。
N そもそも国家公務員は政治活動を禁止されていますね。
W そうです。『霞が関残酷物語』にも書いてありましたが、与党有力議員間の根回しなんかとんでもない。国家公務員法違反もいいところです。
J 違反した大臣や国会議員の名前は公表したらどうでしょうか?
N それは秘密保持義務に反しないかな?
K でも、法的に保護すべき実質的秘密には該当しないですよね?
W そうです。国家公務員は、もっと仕事、特に国会の拘束から解放されて、異業種の人たちと交流すべきです3。
J 退職金についてはどうお考えですか?
W 前回も指摘しましたが、日経連(当時)の計算によれば退職金は民間だと大卒30年勤務で平均2000万円、総務省の計算によれば国家公務員だと大卒30年勤務で5000万円程度だったと思います4。キャリア官僚では、事務次官で8000万円、本省局長で6000万円、本省課長で1500万円を超えているはずです。そこで、若いうちの給与を一流企業並みに上げる代わりに、退職金を一流企業並みに引き下げるべきだと思うのです。最近も、朝日新聞の社説で、退職金が民間の推移に合わせる仕組みがないこと、給与・ボーナスは人事院、退職金は総務省の管轄と二元的となっているのは問題であるとしています5。
K でも、銀行の頭取の退職金は数億円ですよ。
W それは異常に高すぎるのです。普通の株式会社であればとやかくは言いませんが、公的資金(税金)の注入を受けた段階からは違います。
N 金融庁は甘すぎるのでは?
W 銀行に公的資金(税金)を注入する段階で、銀行の給与水準を国家公務員並みに引き下げるよう、法的拘束力をもつ条件をつけるべきでした。もちろんは義理で注入を承認した東京三菱銀行なんかは別です。
N 先生は、阪神・淡路大震災の時よりも銀行の救済額が多いと怒っていましたね。
W 怒っているのは私というより国民の多くでしょう。話を元に戻しますが、銀行は多くの優秀な人材を飼い殺しにしてきた観もあります。官庁もそうなることを懸念しているのです。
K 結局、先生は国家公務員にいい人材が集まっているが、飼い殺しにしている。それを改めて、いい環境のもとでその能力を充分に発揮してもらいたい、そういうことでしょうか?
W そうです。お互い立場は違いますが、日本の再生を目指してがんばりましょう。
【注】
1.『AERA』2002年8月12−19日号9頁。
2.西村健『霞が関残酷物語 さまよえる官僚たち』(中央公論新社)76頁。
3.堀紘一『自分を一流に作り変える法』(三笠書房)71〜73頁、118〜120頁も「意見の異なる人と討論する」ことと「非日常の異質と交わる」ことが、新たな知恵を出し、発想を転換するために必要であることを力説する。
4.2002年7月24日(水)日本経済新聞第1面。
5.2002年8月9日(金)朝日新聞第2面社説。
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