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日本の今を考える

『この国のかたち』を考える

 過去の歴史を書き換えることはできても、過去の事実そのものを変えることはできない。しかし、人は今に生き、未来を創造できる。

 このコーナーでは、憲法や行政法の基礎知識を前提に、将来の日本を担うであろう人たちと一緒に「この国のかたち」を考えてみたい。

「女性天皇」と「女系天皇」 (24/10/07)

 歴史上、推古天皇の様に「女性天皇」(8方10代)は存在するが、「女系天皇」は全く存在しない。

 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/taii_tokurei/dai4/siryou5.pdf

 「女性天皇と女系天皇の区別」は大事である。

 しかし、「女性天皇と女系天皇」の区別」は明確ではない。

 有名大学の学生に、「女性天皇と女系天皇の違い」を聞いてみても、明確に区別できる人は少なかった。

 上記、内閣官房URLの最終頁を見ても、「女系天皇」を知らない人のほうが多い。知っていると思って、実は知らない、又は誤解している人も少なくないと思う。「女性天皇だが男系天皇」と「男性天皇だが女系天皇」の意味がわかる人又はちゃんと説明できる人は非常に少ない(注:最後まで読んでいただければ、その意味が理解できます)。

 私自身も、大石眞京大教授(当時)が試験委員だった頃に、模擬試験の問題を作成するにあたって参考にするため、『法学教室』の「演習」を読んで初めて、「女性天皇と女系天皇の違い」を認識するに至ったが、一読しただけではよく理解できなかった。

 また、小泉内閣の時に、小泉内閣総理大臣は両者の区別をよく認識しておらず、安倍官房長官が説明したとも聞く。

 だが、「女性天皇と女系天皇の違い」は、生物、特に遺伝の知識があれば、よく理解できる。男系は神武天皇のY遺伝子を重視する。『朝まで生テレビ!』で、「男系か女系かは、要するに遺伝子の問題だ!」と端的に指摘した出演者がおり、その人のお蔭でよく理解できた。

 「女性天皇」は文字通り女性の天皇で、「男性天皇」の例外である。

 男性天皇=男性の天皇
 女性天皇=女性の天皇

 これに対して、男系天皇と女系天皇の違いは以下である。

  • 男系天皇=神武天皇以来のY遺伝子を引き継いだ男性天皇が原則である(男性天皇で男系天皇)。ただし、例外的に、父親(又は父方の先祖)が神武天皇以来のY遺伝子を引き継いでいれば女性天皇は認められる(女性天皇で男系天皇)。
  • 女系天皇=父親又は祖父等の男系先祖が神武天皇から続くY遺伝子を引き継いでいないが、自分は天皇家のX遺伝子を引き継いでいる天皇をいう。女性天皇か男性天皇かとは別次元である。女性の推古天皇は、父親が神武天皇から続くY遺伝子を引き継いでいる(男性天皇)ので、男系天皇である。逆に、母親が天皇(女性天皇)であっても、父親が神武天皇のY遺伝子を引き継いでいなければ、二人の間に生まれた子は男性であっても、父親と同じく、神武天皇のY遺伝子を引き継いでいないので、天皇にはなれない。それが日本の伝統である。仮にだが、その子が憲法又は皇室典範の改正で天皇になったときは、男性天皇であっても女系天皇となる。日本の伝統を強く重視する人は、「(女性天皇はごく例外的に少数存在したが)女系天皇は絶対に認められない」と主張する。

 再説すると、女性天皇は、神武天皇以来のX遺伝子を引き継いではいるが、自分自身は神武天皇のY遺伝子を持たない。

 しかし、神武天皇のY遺伝子を自分の父親(男性天皇・男系天皇)又は父方の祖父など男系先祖(男性天皇・男系天皇)が持っていれば、娘又は孫娘(女性天皇)は男系天皇となる。

 例えば、推古天皇(33代)は女性天皇だが、彼女の父親は欽明天皇(29代)なので、推古天皇は女性天皇だが、男系天皇である。

 また、元正天皇(44代)は女性天皇で、彼女の父親の草壁皇子は天皇ではない(ちなみに、母親は43代元明天皇)が、皇子の父親は天武天皇(40代)であるから、元正天皇は女性天皇でも、男系天皇である。

 これに対して、母親(女性天皇の経験者)は神武天皇以来のX遺伝子を引き継いでいるが、父親が神武天皇のY遺伝子を引き継いでいない(天皇家や皇族に属さない)場合に、仮にその二人の子が天皇になったときには、その天皇は男性であっても、神武天皇から続くY遺伝子は持たず、母親(女性天皇)のX遺伝子しか持っていないので、女系天皇となる(男性天皇だが、女系天皇となる)。

 女系天皇は今まで存在しなかった。

 これも『朝まで生テレビ!』で出演者の誰か(おそらく女系天皇には反対の立場)が、「仮にだが、天皇家の愛子様がH氏(著名な実業家)と結婚した場合、その子(男性)が天皇として即位したとき、男性天皇だが、女系天皇となる。また、その子孫が新たな天皇家を形成して行く。それでも(女系天皇で)いいのか?」と他の出演者に問いかけていた。

 また、仮に称徳天皇(46代孝謙天皇が重祚し48代)が道鏡と結婚して、男の子が生まれ、彼が天皇に即位していれば、男性天皇の女系天皇が出現していた(ただし、和気清麻呂が宇佐八幡宮の神託を根拠に道鏡を排除した)。

 繰り返しになるが、歴史上、女性天皇は例外的にいた(8方10代)が、女系天皇は全く認められていなかった。しかも、女性天皇は全員が、女系天皇の出現を防ぐために、独身だった。

 だから、現在の「皇室典範」(法律)も天皇は男性に限定している。

 ところが、石破内閣総理大臣は女性天皇だけでなく、総裁選挙の前は、女系天皇までを肯定していた。しかし、日本の伝統(男系天皇の伝統)を重視する立場からの強い反発があった。

 麻生自民党最高顧問は、今回、最高顧問を引き受けるにあたり、石破総理大臣(自民党総裁)が女系天皇を封ずる(男系天皇を維持する)ことを条件としたとも聞く。

 私自身の意見はどうかというと、渡辺氏は渡辺綱、遡れば嵯峨天皇、もっと遡れば継体天皇や神武天皇が先祖となるが、父まで3代連続の婿養子で、父には神武天皇以来のY遺伝子はなさそうな(後述の福井出身の継体天皇経由での可能性も乏しい)ので、神武天皇に由来する天皇家のY遺伝子はほぼ100%ないと思われる(ただし、母系で引き継がれる神武天皇や継体天皇のミトコンドリアDNAがある可能性はある)。

 また、父親の実家のA氏よりは、母親の渡辺氏の方が自分にはぴったり来るので、個人的には女性天皇、それに続く女系天皇でも構わないのではないかとも思う。イギリス皇室も女系だった。

 しかし、日本の天皇家では、武烈天皇の時に男系が断絶しそうになり、応神天皇まで遡った男系の子孫である福井の三国(東尋坊で有名である)にいた継体天皇(武烈天皇と10親等も離れていた。ただし、武烈天皇の姉か妹と結婚した。最近、継体天皇は聖徳太子の曽祖父だったと気づいた)が即位し、今日まで男系天皇が続いている。
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B6%99%E4%BD%93%E5%A4%A9%E7%9A%87

 せっかく、日本人の多くの本家でもある皇室で、今までずっと男系天皇が続いたのだから、これからも男系天皇で行くべきだ、それが日本の伝統だという主張もよくわかる。

 天皇家の行く末は、@憲法とA「皇室典範」という法律で決まる(*1)。憲法の改正は困難であるが(96条)、法律の改正は比較的容易である(59条)。「皇室典範」の改正で女性天皇や女系天皇を認めることも可能である。

 国民には、主権者(憲法前文・1条参照)として、天皇家の行く末を考える義務と権利がある。

 男系の皇族が少なくなった今、冷静な議論が必要だと思われる(*2)

【追記】
(*1) 百地章 国士舘大学教授(女系天皇だけでなく、女性天皇も否定する立場)の説明資料の2頁には、憲法2条の皇位の世襲制における「世襲」とは「男系」を意味するのが有力な憲法学者の見解だとして、宮澤俊義教授を二番目に挙げられている。
 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/taii_tokurei/dai4/siryou5.pdf
 しかし、宮澤教授は「世襲」とは、「真実の血統に属する者だけが皇位につく資格があること」を意味するが、「男子主義(皇位承継資格を男子に限る)」を必ずしも要求しない(男子主義は立法政策の問題である。要するに、少なくとも「女性天皇」は法律上も認められる)としている(宮澤俊義著・芦部信喜補訂『全訂日本国憲法』(日本評論社)56〜57頁参照)。
 また、四人目に挙げられている佐藤幸司教授も、例外としての「女性天皇」には言及している。

(*2) 「愛子様に天皇になってほしい」、だから(法律を改正し)、「女性天皇または女系天皇を認めるべきだ」という意見(A)がある。
 しかし、女性天皇はともかく、女系天皇は日本の伝統に反する(B)。
 そこで、AとBを踏まえて、愛子様には神武天皇のY遺伝子を持った旧皇族の男性と結婚していただき、愛子様には女性天皇、そのお子様(男性)にも天皇(男系天皇)になっていただきたいという意見(C)もある。
 しかし、天皇家であれ旧皇族であれ、婚姻の意思の自由(憲法24条)は尊重されるべきで、婚姻を強制するべきではない。
 また、現在の男系の皇位継承者(秋篠宮家のお二方)にも大きな影響を及ぼす。
 したがって、この議論は、現段階では、実質上、大日本帝国憲法3条のように、「神聖ニシテ侵スヘカラス(神聖にして侵すべからず)」に近い状況なのかもしれない。

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