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私はこう考える

文化財を通じた文化交流を考える(その1) (06/04/07)

 京都には立命館大学やWセミナー京都校での講義やゼミでここ10年ほど毎月のように行く。最初はほとんど仕事だけだったのだが、もともと歴史に関心があったので、2001年に体を壊して2度入院してからは講義前に2〜3時間の空き時間があるとウォーキングを兼ねて寺社巡りをして過ごすようにしている。当然、京都のお寺に行くと朝鮮半島や中国伝来の仏像があったりする。

 たとえば、嵯峨の清涼寺(せいりょうじ)1には中国から伝来した釈迦立像がある。実は、私も昨年、上野の唐招提寺展に行くまでは全く知らなかったのだが、この釈迦立像は岩佐光晴氏によると、日本に戒律を伝え唐招提寺2を建立した鑑真3が14歳の時に出家するきっかけを作った釈迦立像のコピーらしい4。しかし、瀬戸内寂聴さんは清涼寺の解説を書かれているが、それによると、釈迦立像が中国から日本に渡るにあたって本物の御意志でコピーと入れ替わっているので、清涼寺では三国伝来(インド→中国→日本)の本物であると伝承しているとのことである5

 また、世界三大美人(誰が言ったのか私も知らないが、クレオパトラに加え小野小町が入っている場合は日本人が言ったと思われる)の1人である楊貴妃6を京都で見ることもできる。日本の皇室の菩提寺である泉湧寺(せんにゅうじ)7には、唐の玄宗皇帝8が楊貴妃を偲んで作らせたという楊貴妃観音が中国から伝わっており、拝観時間にその姿を拝観することができるのだ。

 おそらくこのような事実は多くの日本人も中国人も知らないのではないか?

 日中関係がかなり悪化している時期に中国人がお寺のノートに中国伝来の仏像・書画等を日本のお寺が大事に保管していてくれたことについての感謝の言葉を綴っていたのを見たことがある9

 短期的には国益と国益が衝突することもある。しかし、長期的には国と国との友好関係を維持することこそ相互の国益にかなう。そのためには、相互の歴史認識(それに加え共存共栄の精神)が大事であるが、負の歴史を冷静に学ぶと当時に、友好の歴史を学ぶこととそれを伝えていく努力が今こそ必要であると思う10



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