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1999年「今年必ず出る判例」シリーズバックナンバー 民法
6/1掲載 今年必ず出る民法判例第1位
 それは、総則では、最判平8.9.27=平8重判2、物権総論では、最判平8.10.31=平8重判4、担保物権では、最判平9.2.14=平9重判3、債権総論では、最判平9.6.5=平9重判5、債権各論では、最判平9.2.25=平9重判8、親族・相続では、最判平9.1.28=平9重判13である。
 重判で、もう一度判旨を確認しておこう。
◎最判平8.9.27=平8重判2
 物上保証人所有の不動産を目的とする抵当権の実行としての競売の申立てがされ、執行裁判所が、競売開始決定をした上、同決定正本を債務者に送達した場合には、債務者は、民法一五五条により、当該抵当権の被担保債権の消滅時効の中断の効果を受けるが(最高裁昭和四七年(オ)第七二三号同五〇年一 一月二一日第二小法廷判決・民集二九巻一〇号一五三七頁参照)、債権者甲が乙の主債務についての丙の連帯保証債務を担保するために抵当権を設定した物上保証人丁に対する競売を申し立て、その手続が進行することは、乙の主債務の消滅時効の中断事由に該当しないと解するのが相当である。
◎最判平8.10.31=平8重判4
 共有物分割の申立てを受けた裁判所としては、現物分割をするに当たって、持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ、過不足の調整をすることができる(最高裁昭和五九年(オ)第八〇五号同六二年四月二二日大法廷判決・民集四一巻三号四〇八頁参照)のみならず、当該共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法(以下「全面的価格賠償の方法」という。)による分割をすることも許されるものというべきである。
◎最判平9.2.14=平9重判3
 所有者が土地及び地上建物に共同抵当権を設定した後、右建物が取り壊され、右土地上に新たに建物が建築された場合には、新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵当権者が新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたとき等特段の事情のない限り、新建物のために法定地上権は成立しないと解するのが相当である。
◎最判平9.6.5=平9重判5
 譲渡禁止の特約のある指名債権について、譲受人が右特約の存在を知り、又は重大な過失により右特約の存在を知らないでこれを譲り受けた場合でも、その後、債務者が右債権の譲渡について承諾を与えたときは、右債権譲渡は譲渡の時にさかのぼって有効となるが、民法一一六条の法意に照らし、第三者の権利を害することはできないと解するのが相当である(最高裁昭和四七年(オ)第一一一号同四八年七月一九日第一小法廷判決・民集二七巻七号八二三頁、最高裁昭和四八年(オ)第八二三号同五二年三月一七日第一小法廷判決・民集三一巻二号三〇八頁参照)。
◎最判平9.2.25=平9重判8
 賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合、賃貸人の承諾のある転貸借は、原則として、賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時に、転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了すると解するのが相当である。
◎最判平9.1.28=平9重判13
 相続人が相続に関する被相続人の遺言書を破棄又は隠匿した場合において、相続人の右行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、右相続人は、民法八九一条五号所定の相続欠格者には当たらないものと解するのが相当である。
 けだし、同条五号の趣旨は遺言に関し著しく不当な干渉行為をした相続人に対して相続人となる資格を失わせるという民事上の制裁を課そうとするところにあるが(最高裁昭和五五年(オ)第五九六号同五六年四月三日第二小法廷判決・民集三五巻三号四三一頁参照)、遺言書の破棄又は隠匿行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、これを遺言に関する著しく不当な干渉行為ということはできず、このような行為をした者に相続人となる資格を失わせるという厳しい制裁を課することは、同条五号の趣旨に沿わないからである。


6/7掲載 今年必ず出る民法判例第2位
 それは、総則では、物上保証人に対する不動産競売において、被担保債権の時効中断の効力が生じる時期は、競売開始決定正本が債務者に送達された時であるとした最判平8.7.12=平8重判1である。また、物権総論では、他主占有者の相続人が、独自の占有に基づく取得時効の成立を主張するためには、その事実的支配が外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解される事情を自ら証明すべきものとした最判平8.11.12=平8重判3である。
 担保物権では、民法395条但書にいう抵当権者に損害を及ぼすときとは、原則として、抵当権者からの解除請求訴訟の事実審口頭弁論終結時において、抵当不動産の競売による売却価額が同条本文の短期賃貸借の存在により下落し、これに伴い抵当権者が履行遅滞の状態にある被担保債権の弁済として受ける配当等の額が減少するときをいうとした最判平8.9.13=平8重判PP50〜51である。
 債権総論では、賭博の勝ち負けによって生じた債権が譲渡された場合、債務者が異議をとどめずに右債権譲渡を承諾したときでも、原則として債務者は、譲受人に対して右債権の発生に係る契約の公序良俗違反による無効を主張してその履行を拒むことができるとした最判平9.11.11=平9重判1である。債権各論では、請負契約における注文者の請負人に対する瑕疵の修補に代わる損害賠償債権と請負人の注文者に対する報酬債権とを相殺する旨の意思表示が行われなかった場合には、民法634条2項により右両債権は同時履行の関係に立ち、契約当事者の一方は、相手方から債務の履行を受けるまでは、自己の債務の履行を拒むことができ、履行遅滞による責任も負わないとした最判平9.2.14=平9重判10である。
 不法行為では、交通事故の被害者が後遺障害により労働能力の一部を喪失した場合における逸失利益の算定に当たって、原則として死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮すべきものではないとした最判平8.4.25=平8重判11(1)である。
 親族・相続では、原遺言(甲遺言)を遺言の方式に従って(乙遺言で)撤回した遺言者が、更に右撤回遺言を遺言の方式に従って(丙遺言で)撤回した場合において、遺言書の記載に照らし、遺言者の意思が原遺言の復活を希望するものであることが明らかなときは、民法1025条ただし書の法意にかんがみ、遺言者の真意を尊重して原遺言(甲遺言)の効力の復活を認めた最判平9.11.13=平9重判14である。
◎最判平8.7.12=平8重判1
[1]債権者から物上保証人に対する不動産競売の申立てがされ、執行裁判所のした競売開始決定による差押えの効力が生じた後、同決定正本が債務者に送達された場合には、民法一五五条により、債務者に対し、当該担保権の実行に係る被担保債権についての消滅時効の中断の効力が生ずるが、右の時効中断の効力は、競売開始決定正本が債務者に送達された時に生ずると解するのが相当である。
[2]けだし、民法一五五条は、時効中断の効果が当該時効中断行為の当事者及びその承継人以外で時効の利益を受ける者に及ぶべき場合に、その者に対する通知を要することとし、もって債権者と債務者との間の利益の調和を図った趣旨の規定であると解されるところ、競売開始決定正本が時効期間満了後に債務者に送還された場合に、債権者が競売の申立てをした時にさかのぼって時効中断の効力が生ずるとすれば、当該競売手続の開始を了知しない債務者が不測の不利益を被るおそれがあり、民法一五五条が時効の利益を受ける者に対する通知を要求した趣旨に反することになるからである。
◎最判平8.11.12=平8重判3
[1]一般的には、占有者は所有の意思で占有するものと推定されるから(民法一八六条一項)、占有者の占有が自主占有に当たらないことを理由に取得時効の成立を争う者は、右占有が他主占有に当たることについての証明責任を負う。
[2]これに対し、他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合において、右占有が所有の意思に基づくものであるといい得るためには、取得時効の成立を争う相手方ではなく、占有者である当該相続人において、その事実的支配が外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解される事情を自ら証明すべきものと解するのが相当である。けだし、右の場合には、相続人が新たな事実的支配を開始したことによって、従来の占有の性質が変更されたものであるから、右変更の事実は取得時効の成立を主張する者において立証を要するものと解すべきであり、また、この場合には、相続人の所有の意思の有無を相続という占有取得原因事実によって決することはできないからである。
◎最判平8.9.13=平8重判PP50〜51
[1]民法三九五条ただし書にいう抵当権者に損害を及ぼすときとは、原則として、抵当権者からの解除請求訴訟の事実審口頭弁論終結時において、抵当不動産の競売による売却価額が同条本文の短期賃貸借の存在により下落し、これに伴い抵当権者が履行遅滞の状態にある被担保債権の弁済として受ける配当等の額が減少するときをいうのであって、右賃貸借の内容が賃料低廉、賃料前払、敷金高額等の事由により通常よりも買受人に不利益なものである場合又は抵当権者が物上代位により賃料を被担保債権の弁済に充てることができない場合に限るものではないというべきである。
[2]けだし、短期賃貸借の存在により抵当権者が被担保債権の弁済として受ける配当等の額が減少する場合には、右賃貸借の内容が通常よりも買受人に不利益であるか否かを問わず、原則としてこれを解除すべきものとするのが民法三九五条の趣旨であると考えられ、また、短期賃貸借が存在しない場合には抵当権者が物上代位により被担保債権の弁済に充てるべき賃料がもともと存在しないのであるから、抵当権者は、短期賃貸借の賃料を被担保債権の弁済に充てることができないとしても、右賃貸借が存在しない場合よりも不利益な地位に置かれるものではないからである。
[3]なお、解除請求の対象である短期賃貸借の期間が抵当権の実行としての競売による差押えの効力が生じた後に満了したため、その更新を抵当権者に対抗することができなくなった場合であっても、短期賃貸借解除請求訴訟の事実審口頭弁論終結時において右賃貸借の存在により抵当不動産の競売における売却価額が下落し、これに伴い抵当権者が被担保債権の弁済として受ける配当等の額が減少するものである限りは、抵当権設定者による抵当不動産の利用を合理的な限度においてのみ許容するという民法三九五条の趣旨にかんがみ、裁判所は、右賃貸借の解除を命じるべきである。そして、このことは、差押えの効力発生後の右賃貸借の期間満了が右訴訟の事実審口頭弁論終結の前後いずれに生じたかを問わず、当てはまるものというべきである。
◎最判平9.11.11=平9重判1
[1]賭博の勝ち負けによって生じた債権が譲渡された場合においては、右債権の債務者が異議をとどめずに右債権譲渡を承諾したときであっても、債務者に信義則に反する行為があるなどの特段の事情のない限り、債務者は、右債権の譲受人に対して右債権の発生に係る契約の公序良俗違反による無効を主張してその履行を拒むことができるというべきである。
[2]けだし、賭博行為は公の秩序及び善良の風俗に反すること甚だしく、賭博債権が直接的にせよ間接的にせよ満足を受けることを禁止すべきことは法の強い要請であって、この要請は、債務者の異議なき承諾による抗弁喪失の制度の基礎にある債権譲受人の利益保護の要請を上回るものと解されるからである。
◎最判平9.2.14=平9重判10
[1]請負契約において、仕事の目的物に瑕疵があり、注文者が請負人に対して瑕疵の修補に代わる損害の賠償を求めたが、契約当事者のいずれからも右損害賠償債権と報酬債権とを相殺する旨の意思表示が行われなかった場合又はその意思表示の効果が生じないとされた場合には、民法六三四条二項により右両債権は同時履行の関係に立ち、契約当事者の一方は、相手方から債務の履行を受けるまでは、自己の債務の履行を拒むことができ、履行遅滞による責任も負わないものと解するのが相当である。
[2]しかしながら、瑕疵の程度や各契約当事者の交渉態度等に鑑み、右瑕疵の修補に代わる損害賠償債権をもって報酬残債権全額の支払を拒むことが信義別に反すると認められるときは、この限りではない。そして、同条一項但書は「瑕疵カ重要ナラサル場合ニ於テ其修補カ過分ノ費用ヲ要スルトキ」は瑕疵の修補請求はできず損害賠償請求のみをなし得ると規定しているところ、右のように瑕疵の内容が契約の目的や仕事の目的物の性質等に照らして重要でなく、かつ、その修補に要する費用が修補によって生ずる利益と較して過分であると認められる場合においても、必ずしも前記同時履行の抗弁が肯定されるとは限らず、他の事情をも併せ考慮して、瑕疵の修補に代わる損害賠償債権をもって報酬残債権全額との同時履行を主張することが信義則に反するとして否定されることもあり得るものというべきである。けだし、右のように解さなければ、注文者が同条一項に基づいて瑕疵の修補の請求を行った場合と均衡を失し、瑕疵ある目的物しか得られなかった注文者の保護に欠ける一方、瑕疵が軽微な場合においても報酬残債権全額について支払が受けられないとすると請負人に不公平な結果となるからである(なお、契約が幾つかの目的の異なる仕事を含み、瑕疵がそのうちの一部の仕事の目的物についてのみ存在する場合には、信義則上、同時履行関係は、瑕疵の存在する仕事部分に相当する報酬額についてのみ認められ、その瑕疵の内容の重要性等につき、当該仕事部分に関して、同様の検討が必要となる)。
◎最判平8.4.25=平8重判11(1)
 交通事故の被害者が事故に起因する傷害のために身体的機能の一部を喪失し、労働能力の一部を喪失した場合において、いわゆる逸失利益の算定は当たっては、その後に被害者が死亡したとしても、右交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、右死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮すべきものではないと解するのが相当である。けだし、労働能力の一部喪失による損害は、交通事故の時に一定の内容のものとして発生しているのであるから、交通事故の後に生じた事由によってその内容に消長を来すものではなく、その逸失利益の額は、交通事故当時における被害者の年齢、職業、健康状態等の個別要素と平均稼働年数、平均余命等に関する統計資料から導かれる就労可能期間に基づいて算定すべきものであって、交通事故の後に被害者が死亡したことは、前記の特段の事情のない限り、就労可能期間の認定に当たって考慮すべきものとはいえないからである。また、交通事故の被害者が事故後にたまたま別の原因で死亡したことにより、賠償義務を負担する者がその義務の全部又は一部を免れ、他方被害者ないしその遺族が事故により生じた損害のてん補を受けることができなくなるというのでは、公平の理念に反することになる。
◎最判平9.11.13=平9重判14
[1]遺言(以下「原遺言」という。)を遺言の方式に従って撤回した遺言者が、更に右撤回遺言を遺言の方式に従って撤回した場合において、遺言書の記載に照らし、遺言者の意思が原遺言の復活を希望するものであることが明らかなときは、民法一〇二五条ただし書の法意にかんがみ、遺言者の真意を尊重して原遺言の効力の復活を認めるのが相当と解される。
[2]亡Mは、乙遺言をもって甲遺言を撤回し、更に丙遺言をもって乙遺言を撤回したものであり、丙遺言書の記載によれば、亡Mが原遺言である甲遺言を復活させることを希望していたことが明らかであるから、本件においては、甲遺言をもって有効な遺言と認めるのが相当である。


6/11掲載 今年必ず出る民法判例第3位
 それは、総則では、権利の濫用に関する最判平9.7.1である。
 また、物権総論では、背信的悪意者からの転得者が背信的悪意者に当たるかどうかは相対的に判断されるとした最判平8.10.29=平8重判P.50である。担保物権では、譲渡担保に関する最判平9.4.14、最判平7.11.10=平7重判3および最判平8.11.22=平8重判P.51の3判例である。
 債権総論では、賃借人の保証に関する最判平9.11.13=平9重判P.53である。 債権各論では、建物に対する強制競売において、前提となった借地権が存在しなかった場合に関する最判平8.1.26=平8重判民訴法6と譲渡担保権者が建物を使用・収益をするときは、建物の敷地について民法六一二条にいう賃借権の譲渡・転貸がされたものと解するとした最判平9.7.17=平9重判9である。
 不当利得では、転用物訴権を限定的に解した最判平7.9.19=平7重判8である。 不法行為では、債務不履行・不法行為における医師の注意義務の基準となるのは、一般的には診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準であるとした最判平8.1.23=平8重判10と被害者が平均的な体格・通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情の存しない限り、被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできないとした最判平8.10.29=平8重判12である。
 親族・相続では、遺言者の財産全部についての包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないととした最判平8.1.26=平8重判14である。
◎最判平9.7.1
 建物の所有を目的として数個の土地につき締結された賃貸借契約の借地権者が、ある土地の上には登記されている建物を所有していなくても、他の土地の上には登記されている建物を所有しており、これらの土地が社会通念上相互に密接に関連する一体として利用されている場合においては、借地権者名義で登記されている建物の存在しない土地の買主の借地権者に対する明渡請求の可否については、双方における土地の利用の必要性ないし土地を利用することができないことによる損失の程度、土地の利用状況に関する買主の認識の有無や買主が明渡請求をするに至った経緯、借地権者が借地権につき対抗要件を具備していなかったことがやむを得ないというべき事情の有無等を考慮すべきであり、これらの事情いかんによっては、これが権利の濫用に当たるとして許されないことがあるものというべきである。
◎最判平8.10.29=平8重判P.50
[1]所有者甲から乙が不動産を買い受け、その登記が未了の間に、丙が当該不動産を甲から二重に買い受け、更に丙から転得者丁が買い受けて登記を完了した場合に、たとい丙が背信的悪意者に当たるとしても、丁は、乙に対する関係で丁自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、当該不動産の所有権取得をもって乙に対抗することができるものと解するのが相当である。
[2]けだし、(一)丙が背信的悪意者であるがゆえに登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に当たらないとされる場合であっても、乙は、丙が登記を経由した権利を乙に対抗することができないことの反面として、登記なくして所有権取得を丙に対抗することができるというにとどまり、甲丙間の売買自体の無効を来すものではなく、したがって、丁は無権利者から当該不動産を買い受けたことにはならないのであって、また、(二)背信的悪意者が正当な利益を有する第三者に当たらないとして民法一七七条の「第三者」から排除される所以は、第一譲受人の売買等に遅れて不動産を取得し登記を経由した者が登記を経ていない第一譲受人に対してその登記の欠缺を主張することがその取得の経緯等に照らし信義則に反して許されないということにあるのであって、登記を経由した者がこの法理によって「第三者」から排除されるかどうかは、その者と第一譲受人との間で相対的に判断されるべき事柄であるからである。
◎最判平9.4.14
 不動産を目的とする譲渡担保権が設定されている場合において、譲渡担保権者が譲渡担保権の実行として目的不動産を第三者に譲渡したときは、譲渡担保権設定者は、右第三者又は同人から更に右不動産の譲渡を受けた者からの明渡請求に対し、譲渡担保権者に対する清算金支払請求権を被担保債権とする留置権を主張することができるものと解するのが相当である(最高裁昭和五五年(オ)第二一一号同五八年三月三一日第一小法廷判決・民集三七巻二号一五二頁参照)。
◎最判平7.11.10=平7重判3
[1]譲渡担保権者は、担保権を実行して確定的に抵当不動産の所有権を取得しない限り、民法三七八条所定の滌除権者たる第三取得者には該当せず、抵当権を滌除することができないものと解するのが相当である。
[2]けだし、滌除は、抵当不動産を適宜に評価した金額を抵当権者に弁済することにより抵当権の消滅を要求する権限を抵当不動産の第三取得者に対して与え、抵当権者の把握する価値権と第三取得者の有する用益権との調整を図ることなどを目的とする制度であるが、抵当権者にとっては、抵当権実行時期の選択権を奪われ、増価による買受け及び保証の提供などの負担を伴うものであるところから、民法三七八条が滌除権者の範囲を「抵当不動産ニ付キ所有権、地上権又ハ永小作権ヲ取得シタル第三者」に限定していることにかんがみれば、右規定にいう滌除権者としての「所有権ヲ取得シタル第三者」とは、確定的に抵当不動産の所有権を取得した第三取得者に限られるものと解すべきである。そして、不動産について譲渡担保が設定された場合には、債権担保の目的を達するのに必要な範囲内においてのみ目的不動産の所有権移転の効力が生じるにすぎず、譲渡担保権者が目的不動産を確定的に自己の所有とするには、自己の債権額と目的不動産の価額との清算手続をすることを要し、他方、譲渡担保設定者は、譲渡担保権者が右の換価処分を完結するまでは、被担保債務を弁済して目的不動産を受け戻し、その完全な所有権を回復することができるのであるから、このような譲渡担保の趣旨及び効力にかんがみると、担保権を実行して右の清算手続を完了するに至らない譲渡担保権者は、いまだ確定的に目的不動産の所有権を取得した者ではなく、民法三七八条所定の滌除権者たる第三取得者ということができないからである。
◎最判平8.11.22=平8重判P.51
[1]譲渡担保権設定者は、譲渡担保権者が清算金の支払又は提供をせず、清算金がない旨の通知もしない間に譲渡担保の目的物の受戻権を放棄しても、譲渡担保権者に対して清算金の支払を請求することはできないものと解すべきである。
[2]けだし、譲渡担保権設定者の清算金支払請求権は、譲渡担保権者が譲渡担保権の実行として目的物を自己に帰属させ又は換価処分する場合において、その価額から被担保債権額を控除した残額の支払を請求する権利であり、他方、譲渡担保権設定者の受戻権は、譲渡担保権者において譲渡担保権の実行を完結するまでの間に、弁済等によって被担保債務を消滅させることにより譲渡担保の目的物の所有権等を回復する権利であって、両者はその発生原因を異にする別個の権利であるから、譲渡担保権設定者において受戻権を放棄したとしても、その効果は受戻権が放棄されたという状況を現出するにとどまり、右受戻権の放棄により譲渡担保権設定者が清算金支払請求権を取得することとなると解することはできないからである。また、このように解さないと、譲渡担保権設定者が、受戻権を放棄することにより、本来譲渡担保権者が有している譲渡担保権の実行の時期を自ら決定する自由を制約し得ることとなり、相当でないことは明らかである。
◎最判平9.11.13=平9重判P.53
[1]建物の賃貸借は、一時使用のための賃貸借等の場合を除き、期間の定めの有無にかかわらず、本来相当の長期間にわたる存続が予定された継続的な契約関係であり、期間の定めのある建物の賃貸借においても、賃貸人は、自ら建物を使用する必要があるなどの正当事由を具備しなければ、更新を拒絶することができず、賃借人が望む限り、更新により賃貸借関係を継続するのが通常であって、賃借人のために保証人となろうとする者にとっても、右のような賃貸借関係の継続は当然予測できるところであり、また、保証における主たる債務が定期的かつ金額の確定した賃料債務を中心とするものであって、保証人の予期しないような保証責任が一挙に発生することはないのが一般であることなどからすれば、賃貸借の期間が満了した後における保証責任について格別の定めがされていない場合であっても、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、更新後の賃貸借から生ずる債務についても保証の責めを負う趣旨で保証契約をしたものと解するのが、当事者の通常の合理的意思に合致するというべきである。
[2]もとより、賃借人が継続的に賃料の支払を怠っているにもかかわらず、賃貸人が、保証人にその旨を連絡するようなこともなく、いたずらに契約を更新させているなどの場合に保証債務の履行を請求することが信義則に反するとして否定されることがあり得ることはいうまでもない。
[3]以上によれば、期間の定めのある建物の賃貸借において、賃借人のために保証人が賃貸人との間で保証契約を締結した場合には、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを負う趣旨で合意がされたものと解するのが相当であり、保証人は、賃貸人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められる場合を除き、更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを免れないものというべきである。
◎最判平8.1.26=平8重判民訴法6
[1]建物に対する強制競売の手続において、建物のために借地権が存在することを前提として建物の評価及び最低売却価額の決定がされ、売却が実施されたことが明らかであるにもかかわらず、実際には建物の買受人が代金を納付した時点において借地権が存在しなかった場合、買受人は、そのために建物買受けの目的を達することができず、かつ、債務者が無資力であるときは、民法五六八条一項、二項及び五六六条一項、二項の類推適用により、強制競売による建物の売買契約を解除した上、売却代金の配当を受けた債権者に対し、その代金の返還を請求することができるものと解するのが相当である。
[2]けだし、建物のために借地権が存在する場合には、建物の買受人はその借地権を建物に従たる権利として当然に取得する関係に立つため、建物に対する強制競売の手続においては、執行官は、債務者の敷地に対する占有の権原の有無、権原の内容の細目等を調査してその結果を現況調査報告書に記載し、評価人は、建物価額の評価に際し、建物自体の価額のほか借地権の価額をも加えた評価額を算出してその過程を評価書に記載し、執行裁判所は、評価人の評価に基づいて最低売却価額を定め、物件明細書を作成した上、現況調査報告書及び評価書の写しを物件明細書の写しと共に執行裁判所に備え置いて一般の閲覧に供しなければならないものとされている。したがって、現況調査報告書に建物のために借地権が存在する旨が記載され、借地権の存在を考慮して建物の評価及び最低売却価額の決定がされ、物件明細書にも借地権の存在が明記されるなど、強制競売の手続における右各関係書類の記載によって、建物のために借地権が存在することを前提として売却が実施されたことが明らかである場合には、建物の買受人が借地権を当然に取得することが予定されているものというべきである。そうすると、実際には買受人が代金を納付した時点において借地権が存在せず、買受人が借地権を取得することができないため、建物買受けの目的を達することができず、かつ、債務者が無資力であるときは、買受人は、民法五六八条一項、二項及び五六六条一項、二項の類推適用により、強制競売による建物の売買契約を解除した上、売却代金の配当を受けた債権者に対し、その代金の返還を請求することができるものと解するのが右三者間の公平にかなうからである。
◎最判平9.7.17=平9重判9
[1]借地人が借地上に所有する建物につき譲渡担保権を設定した場合には、建物所有権の移転は債権担保の趣旨でされたものであって、譲渡担保権者によって担保権が実行されるまでの間は、譲渡担保権設定者は受戻権を行使して建物所有権を回復することができるのであり、譲渡担保権設定者が引き続き建物を使用している限り、右建物の敷地について民法六一二条にいう賃借権の譲渡又は転貸がされたと解することはできない。
[2]しかし、地上建物につき譲渡担保権が設定された場合であっても、譲渡担保権者が建物の引渡しを受けて使用又は収益をするときは、いまだ譲渡担保権が実行されておらず、譲渡担保権設定者による受戻権の行使が可能であるとしても、建物の敷地について民法六一二条にいう賃借権の譲渡又は転貸がされたものと解するのが相当であり、他に賃貸人に対する信頼関係を破壊すると認めるに足りない特段の事情のない限り、賃貸人は同条二項により土地賃貸借契約を解除することができるものというべきである。
[3]けだし、(一)民法六一二条は、賃貸借契約における当事者間の信頼関係を重視して、賃借人が第三者に賃借物の使用又は収益をさせるためには賃貸人の承諾を要するものとしているのであって、賃借人が賃借物を無断で第三者に現実に使用又は収益させることが、正に契約当事者間の信頼関係を破壊する行為となるものと解するのが相当であり、(二)譲渡担保権設定者が従前どおり建物を使用している場合には、賃借物たる敷地の現実の使用方法、占有状態に変更はないから、当事者間の信頼関係が破壊されるということはできないが、(三)譲渡担保権者が建物の使用収益をする場合には、敷地の使用主体が替わることによって、その使用方法、占有状態に変更を来し、当事者間の信頼関係が破壊されるものといわざるを得ないからである。
◎最判平7.9.19=平7重判8
[1]甲が建物貸借人乙との間の請負契約に基づき右建物の修繕工事をしたところ、その後乙が無資力になったため、甲の乙に対する請負代金債権の全部又は一部が無価値である場合において、右建物の所有者丙が法律上の原因なくして右修繕工事に要した財産及び労務の提供に相当する利益を受けたということができるのは、丙と乙との間の賃貸借契約を全体としてみて、丙が対価関係なしに右利益を受けたときに限られるものと解するのが相当である。
[2]けだし、丙が乙との間の賃貸借契約において何らかの形で右利益に相応する出損ないし負担をしたときは、丙の受けた右利益は法律上の原因に基づくものというべきであり、甲が丙に対して右利益につき不当利得としてその返還を請求することができるとするのは、丙に二重の負担を強いる結果となるからである。
[3]本件建物の所有者である被上告人が上告人のした本件工事により受けた利益は、本件建物を営業用建物として賃貸するに際し通常であれば貸借人であるTから得ることができた権利金の支払を免除したという負担に相応するものというべきであって、法律上の原因なくして受けたものということはできず、これは、本件賃貸借契約がTの債務不履行を理由に解除されたことによっても異なるものではない。
◎最判平8.3.26=平8重判9
 甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。けだし、丙が乙と肉体関係を持つことが甲に対する不法行為となる(後記判例参照)のは、それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであって、甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則として、甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとはいえないからである。
◎最判平8.1.23=平8重判10
[1]人の生命及び健康を管理すべき業務(医業)に従事する者は、その業務の性質に照らし、危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるのであるが、具体的な個々の案件において、債務不履行又は不法行為をもって問われる医師の注意義務の基準となるべきものは、一般的には診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である。
[2]そして、この臨床医学の実践における医療水準は、全国一律に絶対的な基準として考えるべきものではなく、診療に当たった当該医師の専門分野、所属する診療機関の性格、その所在する地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮して決せられるべきものであるが、医療水準は、医師の注意義務の基準(規範)となるものであるから、平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく、医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって、医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない。
◎最判平8.10.29=平8重判12
[1]被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とが共に原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法七二二条二項の規定を類推適用して、被害者の疾患を斟酌することができる。
[2]しかしながら、被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情の存しない限り、被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできないと解すべきである。けだし、人の体格ないし体質は、すべての人が均一同質なものということはできないものであり、極端な肥満など通常人の平均値から著しくかけ離れた身体的特徴を有する者が、転倒などにより重大な傷害を被りかねないことから日常生活において通常人に比べてより慎重な行動をとることが求められるような場合は格別、その程度に至らない身体的特徴は、個々人の個体差の範囲として当然にその存在が予定されているものというべきだからである。
◎最判平8.1.26=平8重判14
[1]遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合、遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受遺者が取得した権利は遺留分を侵害する限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属するところ、遺言者の財産全部についての包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないと解するのが相当である。
[2]特定遺贈が効力を生ずると、特定遺贈の目的とされた特定の財産は何らの行為を要せずして直ちに受遺者に帰属し、遺産分割の対象となることはなく、また、民法は、遺留分減殺請求を減殺請求をした者の遺留分を保全するに必要な限度で認め(一〇三一条)、遺留分減殺請求権を行使するか否か、これを放棄するか否かを遺留分権利者の意思にゆだね(一〇三一条、一〇四三条参照)、減殺の結果生ずる法律関係を、相続財産との関係としてではなく、請求者と受贈者、受遺者等との個別的な関係として規定する(一〇三六条、一〇三七条、一〇三九条、一〇四〇条、一〇四一条参照)など、遺留分減殺請求権行使の効果が減殺請求をした遺留分権利者と受贈者、受遺者等との関係で個別的に生ずるものとしていることがうかがえるから、特定遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないと解される。そして、遺言者の財産全部についての包括遺贈は、遺贈の対象となる財産を個々的に掲記する代わりにこれを包括的に表示する実質を有するもので、その限りで特定遺贈とその性質を異にするものではないからである。
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