1999年「今年必ず出る判例」シリーズバックナンバー 商法・刑法・労働法 |
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今年必ず出る商法・刑法・労働法判例第1位 |
それは、商法では最大判平9.1.28=平9重判1、刑法では最判平9.6.16=平9重判2である、労働法では朝日火災海上保険事件(最大判平9.3.27=平9重判7)である。
◎最大判平9.1.28=平9重判1
株発行に関する事項の公示(同法二八〇条ノ三ノニに定める公告又は通知)は、株主が新株発行差止請求権(同法二八〇条ノ一0)を行使する機会を保障することを目的として会社に義務付けられたものであるから(最高裁平成元年(オ)第六六六号同五年一二月一六日第一小法廷判決・民集四七巻一〇号五四二三頁参照)、新株発行に関する事項の公示を欠くことは、新株発行差止請求をしたとしても差止めの事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となると解するのが相当である。
◎最判平9.6.16=平9重判2
被告人が末広に対しその片足を持ち上げて地上に転落させる行為に及んだ当時、同人の急迫不正の侵害及び被告人の防衛の意思はいずれも存していたと認めるのが相当である。また、被告人がもみ合いの最中に末広の頭部を鉄パイプで一回殴打した行為についても、急迫不正の侵害及び防衛の意思の存在が認められることは明らかである。しかしながら、末広の被告人に対する不正の侵害は、鉄パイプでその頭部を一回殴打した上、引き続きそれで殴り掛かろうとしたというものであり、同人が手すりに上半身を乗り出した時点では、その攻撃力はかなり減弱していたといわなければならず、他方、被告人の同人に対する暴行のうち、その片足を持ち上げて約四メートル下のコンクリート道路上に転落させた行為は、一歩間違えば同人の死亡の結果すら発生しかねない危険なものであったことに照らすと、鉄パイプで同人の頭部を一回殴打した行為を含む被告人の一連の暴行は、全体として防衛のためにやむを得ない程度を超えたものであったといわざるを得ない。
そうすると、被告人の暴行は、末広による急迫不正の侵害に対し自己の生命、身体を防衛するためその防衛の程度を超えてされた過剰防衛に当たるというべきである。
◎朝日火災海上保険事件(最大判平9.3.27=平9重判7)
本件労働協約は、上告人の定年及び退職金算定方法を不利益に変更するものであり、昭和五三年度から昭和六一年度までの間に昇給があることを考慮しても、これにより上告人が受ける不利益は決して小さいものではないが、同協約が締結されるに至った以上の経緯、当時の被上告会社の経営状態、同協約に定められた基準の全体としての合理性に照らせば、同協約が特定の又は一部の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結されたなど労働組合の目的を逸脱して締結されたものとはいえず、その規範的効力を否定すべき理由はない。
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今年必ず出る商法・刑法・労働法判例第2位 |
それは、商法では、手形の満期が変造され、振出日が充された結果、変造前の満期が振出日より前の日となる場合、たとえ補充された振出日を基準として変造前の満期による支払呈示期間内に支払呈示することが可能であったとしても、変造前の文言に従って責任を負うべき振出入との関係においては、無効であるとした最判平9.2.27=平9重判10である。
また、刑法では、保険金を騙取しようと企ていた家屋でも、人の起居の場所として日常使用されていれ
ば、旅行中(被告人と従業員)の犯行時(共謀者による)においても、その使用形態に変更はなかったものと認められるから、平成7年法律第91号による改正前の刑法108条にいう「現ニ人ノ住居ニ使用」する建造物に当たるとした最判平9.10.21=平9重判7である。
また、労働法では、就業規則の変更による定年延長と賃金減額は合理的で有効であるとした第四銀行事件(最判平9.2.28=平9重判6)である。
◎最判平9.2.27=平9重判10
[1]手形要件は、基本手形の成立要件として手形行為の内容を成すものであるところ、手形の文言証券としての性質上、手形要件の成否ないし適式性については、手形上の記載のみによって判断すべきものであり、その結果手形要件の記載がそれ自体として不能なものであるかあるいは各手形要件相互の関係において矛盾するものであることが明白な場合には、そのような手形は無効であると解するのが相当である。
[2]そして、確定日払の約束手形における振出日についても、これを手形要件と解すべきものである以上
(最高裁昭和三九年(オ)第九六〇号同四一年一〇月一三日第一小法廷判決・民集二〇巻八号一六三二頁参照)、満期の日として振出日より前の日が記載されている確定日払の約束手形は、手形要件の記載が相互に矛盾するものとして無効であると解すべきである。
[3]これを本件についてみるに、本件各手形は、満期が変造され、振出日が充された結果、変造前の満期が振出日より前の日となるものであるから、たとえ補充された振出日を基準として変造前の満期による支払呈示期間内に支払呈示することが可能であったとしても、変造前の文言に従って責任を負うべき振出入である上告人との関係においては、無効というべきである。
◎最判平9.10.21=平9重判7
[1]被告人は橋本との共謀に基づき、本件家屋及びこれに持ち込んだ家財道具を焼燬して火災保険金を騙取しようと企ていた。しかし、本件家屋に放火する予定日前に従業員五名を沖縄旅行に連れ出すとともに、その出発前夜に宿泊予定の従業員には、宿泊しなくてもよいと伝え、留守番役の別の従業員には、被告人らの留守中の宿泊は不要であると伝えていた。たが、これらの指示は、本件家屋への放火の準備や実行が従業員らに気付かれないようにするためであった。また、被告人は、従業員らに対し、沖縄旅行から帰った後は本件家屋に宿泊しなくてもよいとは指示しておらず、従業員らは、旅行から帰れば再び本件家屋への交替の宿泊が継続されるものと認識していた。また、被告人は、旅行に出発する前に本件家屋の鍵を回収したことはなく、その一本は従業員が旅行に持参していた。橋本は、被告人との共謀に基づき、被告人らが沖縄旅行中の同月二一日午前零時四〇分ころ、本件家屋に火を放ち、これを全焼させて焼燬した。
[2]本件家屋は、人の起居の場所として日常使用されていたものであり、右沖縄旅行中の本件犯行時においても、その使用形態に変更はなかったものと認められる。そうすると、本件家屋は、本件犯行時においても、平成七年法律第九一号による改正前の刑法一〇八条にいう「現ニ人ノ住居ニ使用」する建造物に当たると認めるのが相当であるから、これと同旨の見解に基づき現住建造物等放火罪の成立を認めた原判決の判断は正当である。
◎第四銀行事件(最判平9.2.28=平9重判6)
[1]新たな就業規則の作成又は変更によって労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されない。
[2]そして、右にいう当該規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい、特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。
[3]右の合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。
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今年必ず出る商法・刑法・労働法判例第3位 |
それは、商法では、テナントのペットショプで売られたインコからオウム病になっった被害者側からの損害賠償請求について、スーパーの経営会社に名板貸人の責任(商法23条の類推適用)を認めた最判平7.11.30=平7重判商法1と一部の者(上告人)に対する右通知の欠如は、すべての株主に対する関係において取締役(被上告人ら)の職務上の義務(266条の3第1項参照))違反を構成するとした最判平9.9.9=平9重判商法2である。
また、刑法では、被告人と支店長との間の事前の合意に基づき、一時的に貸越残高を減少させ、会社に債務の弁済能力があることを示す外観を作り出して、銀行をして引き続き当座勘定取引を継続させ、更に会社への融資を行わせることなどを目的として行われた入金は、当該手形の保証に見合う経済的利益が銀行に確定的に帰属したものということはできないので、同銀行が手形保証債務を負担したことは、右のような入金を伴わないその余の手形保証の場合と同様、刑法(平成7年改正前)247条にいう「財産上ノ損害」に当たるとした最判平8.2.6=平8重判刑法7である。
また、労働法では、労働協約には、労働組合法17条により、労働協約の規範的効力が及ぶ旨の一般的拘束力が認められており、右労働協約上の基準が一部の点において未組織の同種労働者の労働条件よりも不利益とみられる場合であっても、そのことだけで右の不利益部分についてはその効力を未組織の同種労働者に対して及ぼし得ないものと解するのは相当でないが、当該労働協約を特定の未組織労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるときは、労働協約の規範的効力を当該労働者に及ぼすことはできないとした朝日火災海上保険事件(最判平8.3.26=平8重判3)である。
◎最判平7.11.30=平7重判商法1
本件においては、一般の買物客が被上告補助参加人の経営するペットショップの営業主体はCであると誤認するのもやむを得ないような外観が存在したというべきである。そして、Cは、本件店舗の外部にCの商標を表示し、被上告補助参加人との間において、出店及び店舗使用に関する契約を締結することなどにより、右外観を作出し、又はその作出に関与していたのであるから、Cは、商法二三条の類推適用により、買物客と被上告補助参加人との取引に関して名板貸人と同様の責任を負わなければならない。
◎最判平9.9.9=平9重判商法2
[1]上告人Nが前訴の口頭弁論の終結時である本件株主総会開催の直前ころにM自動車に対する関係で株主としての地位を有していたことは、前訴の判決によって確定しており、本件においてはその後本件株主総会が開催されたころまでに同上告人の右地位に変更が生じたことはうかがわれないところ、定款上株式の譲渡については取締役会の承認を要する旨の制限の付されている会社において株式の譲渡等がされた場合には、会社に対する関係でその効力の生じない限り、従前の株主が会社に対する関係ではなお株主としての地位を有し、会社はこの者を株主として取り扱う義務を負うのであるから、M自動車の取締役である被上告人らは、上告人Nを株主として取り扱い、本件株主総会の招集の通知を行う職務上の義務を負っていたものというべきである。
[2]そして、株主総会開催に当たり株主に招集の通知を行うことが必要とされるのは、会社の最高の意思決定機関である株主総会における公正な意思形成を保障するとの目的に出るものであるから、同上告人に対する右通知の欠如は、すべての株主に対する関係において取締役である被上告人らの職務上の義務違反を構成するものというべきである。
◎最判平8.2.6=平8重判刑法7
[1]本件は、被告人が代表者をしていた株式会社が、被害者である銀行との間で当座勘定取引を開始し、当座貸越契約を締結して融資を受けるうち、貸越額が信用供与の限度額及び差し入れていた担保の総評価額をはるかに超え、約束手形を振り出しても自らこれを決済する能力を欠く状態になっていたのに、被告人が、同銀行の支店長と共謀の上、九回にわたり同社振出しの約束手形に同銀行をして手形保証をさせたという事案である。
[2]そして、原判決によれば、一部の手形を除き、手形の保証と引換えに、額面金額と同額の資金が同社名義の同銀行当座預金口座に入金され、同銀行に対する当座貸越債務の弁済に充てられているが、右入金は、被告人と右支店長との間の事前の合意に基づき、一時的に右貸越残高を減少させ、同社に債務の弁済能力があることを示す外観を作り出して、同銀行をして引き続き当座勘定取引を継続させ、更に同社への融資を行わせることなどを目的として行われたものであり、現に、被告人は、右支店長を通じ、当座貸越しの方法で引き続き同社に対し多額の融資を行わせているというのである。
[3]右のような事実関係の下においては、右入金により当該手形の保証に見合う経済的利益が同銀行に確定的に帰属したものということはできず、同銀行が手形保証債務を負担したことは、右のような入金を伴わないその余の手形保証の場合と同様、刑法(平成七年法律第九一号による改正前のもの)二四七条にいう「財産上ノ損害」に当たると解するのが相当であって、これと同旨の原判断は、正当である。
◎朝日火災海上保険事件(最判平8.3.26=平8重判3)
[1]労働協約には、労働組合法一七条により、一の工場事業場の四分の三以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったときは、当該工場事業場に使用されている他の同種労働者に対しても右労働協約の規範的効力が及ぶ旨の一般的拘束力が認められている。ところで、同条の適用に当たっては、右労働協約上の基準が一部の点において未組織の同種労働者の労働条件よりも不利益とみられる場合であっても、そのことだけで右の不利益部分についてはその効力を未組織の同種労働者に対して及ぼし得ないものと解するのは相当でない。けだし、同条は、その文言上、同条に基づき労働協約の規範的効力が同種労働者にも及ぶ範囲について何らの限定もしていない上、労働協約の締結に当たっては、その時々の社会的経済的条件を考慮して、総合的に労働条件を定めていくのが通常であるから、その一部をとらえて有利、不利をいうことは適当でないからである。また、右規定の趣旨は、主として一の事業場の四分の三以上の同種労働者に適用される労働協約上の労働条件によって当該事業場の労働条件を統一し、労働組合の団結権の維持強化と当該事業場における公正妥当な労働条件の実現を図ることにあると解されるから、その趣旨からしても、未組織の同種労働者の労働条件が一部有利なものであることの故に、労働協約の規範的効力がこれに及ばないとするのは相当でない。
[2]しかしながら他面、未組織労働者は、労働組合の意思決定に関与する立場になく、また逆に、労働組合は、未組織労働者の労働条件を改善し、その他の利益を擁護するために活動する立場にないことからすると、労働協約によって特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容、労働協約が締結されるに至った経緯、当該労働者が労働組合の組合員資格を認められているかどうか等に照らし、当該労働協約を特定の未組織労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるときは、労働協約の規範的効力を当該労働者に及ぼすことはできないと解するのが相当である。
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