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TVドラマ『アリーmyラブ』(原題"Ally McBeal")
 ○製作 デビッド・E・ケリープロダクション/20世紀フォックス・テレビジョン

 ○99年エミー賞最優秀作品賞受賞 98・99年ゴールデングローブ賞最優秀作品賞2年連続受賞
 ○日本語吹替版はNHKにて第2シリーズまで放送(2000年3月26日終了)
 ○日本語吹替ビデオ発売・レンタル中(6巻・12話)

 アメリカでは最近、キャリア・ウーマンを主人公にしたドラマが人気だという。その一つがこの『アリー・マイ・ラブ』。主人公、アリーに扮する女優のキャリスタ・フロックハートがニュース雑誌のフェミニズム特集の表紙になったり、アリーが「超」ミニスカートで法廷を闊歩する姿が女性団体の批判を受けたり等々、彼女の生き方やファッションが、社会現象にまでなっているという。

 アリー・マクビールは、まもなく29歳、の女性弁護士。女性の喉のたるみに快感を覚える上司のフィッシュ、セクシーな服装や「フェイス・ブラ」(ブラのように顔にはめて、老化による頬のたるみを防ぐ装置)など変な発明で常に話題の中心になりたがる秘書のエレイン、「男は『バカモツ』(『イチモツ』を元にした彼女の造語)でしかモノを考えない」と公言してはばからない同僚のリンなど奇妙な人々に囲まれつつ…、「病気を治してくれない神様を訴えたい」という白血病の少年や、男性1人に女性2人で結婚したいという"カップル"など奇妙な事件に奔走しつつ…、一方で、「運命の恋人」の存在を信じるという純粋な面も持つ。

  "いい男"が現れると、思わず舌が伸びて彼の顔をなめるシーンを想像してしまったり、ストレスに耐え切れなくなって、トイレで顔を洗う「ふり」をしたり(ほんとに顔を洗ったら、メイクがとれてしまう)、弁護士として成功して『ニューズ・ウィーク』の表紙を飾りたいって思っちゃうのよ!と叫んでしまったり、愛する旦那様とかわいい子供に囲まれて年を取りたい、とポロッともらしたり、失った恋人に未練たらたらで、人前では強がりながら、電話をかけまくってしまったり…。女性であれば多分誰もが、「あ、分かる分かる」というシーンに多数遭遇するのではないかと思う。

 また、女性同士の微妙な心の駆け引きがうまく描かれているのもこのドラマの特徴である。例えば、アリーと、彼女の初恋の人&元彼、ビリーの奥さんであるジョージア。彼ら3人は同じ事務所の弁護士。アリーはビリーをまだふっきれなくて、ビリーもアリーに多少気持ちが残っていて、でも一番大事なのはやっぱり奥様のジョージアで…。アリーとジョージアは気のおけない友人同士なのだけれど、内面ではお互い複雑な思いもあったりする。あるいは、アリーと秘書のエレイン。2人は最初、外見や生き方があまりに違うことから対立する。しかし、率直に話をすることで、2人ともどこか満たされない、寂しい気持ちを抱えて生きていることが分かり、打ち解け合うのである。また、アリー&ジョージアと同僚のネル。ネルはやり手で、クールで、しかも金髪の美女。アリーもジョージアも、彼女の存在が事務所の雰囲気を変えてしまったと反発する。

 女性同士の関係は、男性が考えるほど単純ではない、と思う。例えば、容姿やスタイル、服装などを、一瞬のうちに「品定め」して自分と比較したり、たとえ親友でも、彼女が自分より男性にモテれば面白くないというか…、複雑な感情を抑えられなくなったり。女性の場合、服装や髪型、さりげない仕草、一緒にいる男性、そういう小さなことで、お互いの間に流れる空気に微妙な変化がもたらされるような気がする。

 また、男女の心理が交錯するシーンも、すごく現実的である。例えば、「友達以上恋人未満」の心地良いけれど、どこか満たされない思いだとか、相手が好きでたまらないのに、年齢とか自分の外見とかそういう表面的なものにこだわって、相手の気持ちが見えなくなってしまったりだとか、相手と寝た後で、イキオイというか、雰囲気でそうなってしまったことを後悔したりだとか。

 つまり、コメディーでありながらこのドラマ、人の心の機微がとても丁寧に描かれているのである。もちろん、恋愛や駆け引きに限らず。「売春」で起訴された性同一性障害の少年が、彼を助けようと必死になるアリーに心を開いたかに見えたのに、新しく仕事が決まった後も同じように街角に立って、客引きをして…。で、女性だと思って彼を「買った」男に殺されてしまう。街はクリスマス・シーズン。きらめく明かりの中で、アリーに抱きかかえられる少年の姿など、思わず一瞬ほろっとせずにはいられないだろう。

 NHKで日曜日の深夜に第2シリーズが放送されていたが、残念ながら3月26日放送分で終了した。第3シリーズは今秋放送予定。ビデオも出ている。恋人、家族、友人、同僚、上司…そうした人間関係のシガラミに押しつぶされそうになった時、この作品をそっとビデオデッキに差し込んでみてほしい。

(00/04/08 高橋めぐみ)
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