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受験に役立つ書籍・ビデオ
衝撃レポート「新・階級国家ニッポン」(『文藝春秋』5月号)

 本ホームページで取り上げた『2010中流階級消失』(田中勝博氏の本の名前による)でも指摘したが、日本は「新・階層社会」になったというのが、本書の衝撃レポート「新・階級国家ニッポン」である。そこでは、「勝ち組」と「負け組」の所得格差が、業種間だけでなく企業内でも生みだされたことを、多くの実例入りで紹介している(もちろん、田中氏のサクセス・ストリーも一部だが紹介してある)。

 今回、特に考えさせられたのは、東大合格者の内、1985年には、国立・私立の中高一貫校と公立の割合がそれぞれ50パーセントで均衡していたのに、1999年には64パーセントと36パーセントになったことである。国立・私立の中高一貫校に入るためには、塾に通わなければほぼ不可能である。「貧乏人は東大へ入れない!?」のである。中学で授業内容3割削減の2002年の新学習指導要領の下では、「地方の県立高校から本人の努力によって東大に入る」ことはますます困難になると予想される。もはや高校からでは遅すぎるのである。私自身、我が子の受験について再考を促された。

 また、今回、改めて認識したことがある。それは、日本国民は、もはや1つ(1億2千万人総中流)ではないということである。田中氏の引用したデータによると、第1のグループ(上流階級)は、400兆円プラス?を保有している東京・神奈川・埼玉プラス?の地主さん達である。彼らは、56万人プラス?わずか0.4パーセントの人口(家族3人としても1.2パーセント)で個人金融資産1200兆円の3分の1を保有している。第2のグループ(中流階級)は、個人金融資産2000万以上を保有している、4分の1の世帯で1200兆円の3分の1を保有するグループである。第3のグループ(下流階級)は、個人金融資産2000万以下しかもたない、4分の3の世帯で1200兆円の3分の1を保有するグループである。特に、第3のグループ(下流階級)では、個人金融資産1000万以下しかもたないグループが世帯の2分の1を占める(最下流階級?数は多い!)。

 本書でも、住友生命総合研究所の霧島和孝主任研究員が、数字はやや異なるが、2000万円以上の金融資産をもつ世帯が2割で、全体の6割の金融資産をもつと分析し、「富めるものは富み、貧しくなる者はある程度貧しくならざるを得ない傾向が強まってい」ると指摘している。

 本書にある「長銀売却 初めて暴く『国辱』の真相」(小田淳)を合わせ読むと暗澹たる気持ちになる。それによると、長銀処理に4兆円の税金(5人家族で20万円の負担)をしたにもかかわらず、長銀を買い取ったオランダの法人が将来新生長銀の株式を売却しても、日本には譲渡益税が一円も入らない可能性がある(売却相手が外国人で、日本以外で取引が行われた場合)が、民主党の岩國哲人氏の質問があるまで、越智通雄金融再生委員長も宮澤喜一大蔵大臣も知らなかったらしい。どうもオランダの課税できず、「『宝の山』はウォール街にさらわれた」らしい。

 今からでも遅くはない。オリバー・ストーンの『ウォール街』(1987)のビデオを見よう。投資家は再建より何を優先するかを。また、広瀬隆『アメリカの経済支配者達』(集英社新書)を読もう。英米のお金持ちは世界経済をどのように支配している(支配しようとしている)かを。

 金融自由化の荒波の中で、「去勢され、暗示をかけられ、中流であることに満足してしまっている」日本人は、あたかも群を導き、群を守るシェパードのいない、狼の脅威にさらされた羊の大群のようでもある。

 本書を含め、以上紹介した書籍・ビデオは大学3年生以下とキャリア1年生以上の人に特に読んでもらいたい。皮肉にも、キャリア官僚は課長で辞めても蓄えが500万ほどあれば退職金で中流階級の仲間入りができる。また、局長や事務次官で辞めて天下りすれば堂々上流階級の仲間入りが果たせよう。しかし、君は国民としてどの階層を意識するのか?また、志ある政治家の人達にも、自分はどの階層を意識して政策を立てているのか、明らかにしてもらいたい。

 なお、今年受験する人は、とりあえず、受験勉強に精を出すこと。深刻に考えると、夜眠れなくなってしまう。買うだけ買っておいて、試験終了後に読むといい。神経の図太い人は、早速買って、友達と議論のネタにするとよい。

 相撲ファンには若乃花引退関連の記事、受験・大学・企業関係者には「慶応義塾大学『一人勝ち』の研究」の記事があり、話題豊富な一冊でもある。

(00/04/21 渡辺一郎)
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