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受験に役立つ書籍・ビデオ
『「この国のあり方」を問う』(元札幌高検検事長・参議院議員 佐藤道夫著・日新報道刊)1100円
目次
T「政治と政治家のあり方」を問う
    ミニ衆議院では参議院の在在意義はない
    委員会の枠を撤廃、被選挙年齢を引き上げる
    「政治家」に対する一般の意識とは?
    自社さ連立政権でも相変らずの順送り派閥人事
    時代遅れの「二大政党」論と意味不明な「第三極」
    多様な価値観が反映しない小選挙区制の危険性
    理解に苦しむ河野前外相の態度
    国会の悪しき慣例の数々
    国会議員の不逮捕特権に関し東京地検と山口代議士に注文
    政治に求められる責任の明確化
    大物政治家にはほど遠い金丸氏の死去に際して
U「外交・国際問題の対処の仕方」を問う
    政治家はすぐ撤回するような発言をするな
    「人類を破滅に導く」核実験なら中・仏と国交を断絶すべし
    感情的にならずに考えるべき少女暴行事件と日米関係

V「政治と宗教のあり方」を問う
    政治をやる限り信者をやめるべし
    宗教団体の政治献金は法律上、不可
    宗教と詐欺−本来、刑罰より道義の問題、取締りは公平に
W「オウム事件の対処の仕方」を問う
    オウム事件と民主国家の警察
    オウム事件と弁護士−どんな極悪犯でも法の保護を受けさせよ
    破防法−「違憲」を言ってきた社民党は国民の前に総括せよ
    オウム・落田さん殺害事件と「期待可能性の理論」
    ビデオを見せたのは反論権のため当然−TBS問題
X「行政・官僚のあり方」を問う
    接待について@−「検察は絶対ダメ」の確立を
    接待についてA−′果があれば贈収賄、程度の問題ではない
    予算消化のための経済対策はやめるべし
    薬害エイズを巡る厚生省の恐るべき感覚
    役所の書類管理、竹島問題と開かれた行政センス
Y「裁判のあり方」を問う

    弁護士、裁判官のあり方が問われているオウム裁判
    その国の歴史、文化から出来上っている裁判制度
    国民やマスコミは判決を批判せよ
    日本の裁判官や検事がクリーンな理由
Z「住専問題の対処の仕方」を問う

    不可解な住専処理問題について苦言
    住専処理策のインチキ性
    金銭感覚、倫理観がマヒしてしまった大蔵官僚
[「この国のあり方」を問う
    もんじゅ事故と民法改正に一言
    おかしいゾ! ホームレスと首相退陣、住専問題
    再び少女暴行事件と住専処理問題について
    恐るべき「信義なき国家」への道

 「政治不信」という言葉を耳にするようになって久しい。特に最近は世間を騒がす大事件がマスコミに大きく取り上げられることもしばしばで、選挙の度ごとに国民の政治離れが指摘されている。

 本書は、政治離れが深刻な問題となりつつある中で、「この国のあり方」について問題提起している。
 本書の大きな特徴は、様々な事象について「法律家の視点から」メスが入っていることである。これは、著者である佐藤道夫氏が40年に及ぶ検察官生活を経験されていたことによる。二院制の意義や政治と宗教の関係に関する諸問題については、単なる評論家の論評ではなく憲法論を交え、しかし平易な語り口で筋を通して一つの主張を展開している。オウムの落田さん殺害事件(被告人は「落田さんの殺害命令を拒否していたら、自分自身が殺されていた」として無罪を主張)に関しては、刑法の「期待可能性の理論」を紹介する。また、坂本弁護士殺害事件では、TBSが事前に坂本弁護士のインタビュービデオをオウム真理教側に見せたことに対して「マスコミの自殺行為」と言われることが多い中、佐藤氏は反論権を適切に行使させるために当然のことであるとしている。
 目次を参照すれば一目瞭然であるが、本書でテーマになっている事件はどれを取っても執筆当時の4、5年ほど前に大きくクローズアップされた有名なものばかりで、その中の多くは今でも密接な関連がある。例えば、3章にある政教分離の問題は、現在の自自公連立に内在する問題として連立に反対する立場の人々が今まさに槍玉に上げているところである。4章では執筆当時に大きく論じられていた破防法の適用の可否について書かれているが、今では団体規制法(オウム新法)の制定により、破防法の問題については一応の解決をみた。また、5章では当時大きく問題とされていた公務員の接待に関する記述があるが、これは国家公務員倫理法・国家公務員倫理規程の制定としてその成果が結実することとなった。このように、本書は1996年の発行であり、各事件についての評価はその当時のものではあるが、それは2000年となった今なお深く通じるものがあると言えよう。

 佐藤氏の法律家としての視点から書かれた本書には、新鮮に映るものが多い。それは我々が普段見落としがちな問題を提起してくれているからである。中にはマスコミ一般の論調とは異なる独特の主張も多々あり(そこが本書の面白いところでもある!)、読者として賛成できるところもあれば、賛成できないところもあるだろう。しかし、賛成できない部分に関しても、「そのような考え方もある、ありうる」ということを心にとめておくだけでも自分の思考の幅を広げる。なぜなら、自分の考えが唯一絶対ではなく、反対意見も存在することを認識することにより、自分の意見の正当性について深く考える契機となるからである。
 官庁訪問の面接で、ある問題について意見を求められた場合、独り善がりなことを言っても面接官を納得させることはできない。それは述べた意見(結論)が誤っているからではない。そのような結論に至ったプロセス(理由)が曖昧だからである。思考のプロセスを明確にする一つの方法が、対立する意見に配慮することである。一つの問題についても多面的な見方ができるよう、その素材の一つとして本書を推薦したい。

 なお、本書は語り口調で書かれており文章自体は平易でありながら、その内容は非常に密度の濃いものとなっている。したがって、いわゆる「堅い本」としてではなく、勉強の合間に気分転換に読むのに最適である。

(00/05/03 大田優樹)
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