映画『あなたが寝てる間に』(監督 ジョン・タートルトーブ)
都会暮らしのシングル・ウーマン。クリスマス・シーズンだというのに、一緒に過ごす家族も恋人もいない。憧れの人はいるけれど、声をかける勇気がない。そんなわけで、イブにも出勤。まるでこれって私じゃない?というありふれたシチュエーション……。
地下鉄の改札で働くルーシー。両親に死に別れ、ダウンタウンのアパートで猫と暮らす。唯一の楽しみは、毎朝同じ時刻に改札を通るエリート弁護士、ピーターに会うこと。もちろん、彼とは言葉を交わしたこともない。ところがイブの日、いつも通り駅に現れたピーターは、暴漢に襲われ、線路に落ちて昏睡状態に。彼を助け、病院について行ったルーシーは、周囲の誤解で彼の婚約者にされてしまう。
サンドラ・ブロック演じるルーシーが、まるで少女のようにかわいらしいのである。婚約者というウソがばれそうになって焦りまくったり、うまく取り繕ってちょっと得意そうな表情を浮かべたり、真夜中の病院で、眠り続けるピーターにそっと真実を告白したり、ピーターの弟のジャックを好きになってしまって、どうしたらいいの!?とパニックに陥ったり……。
普段、心ばかりか表情まで乾きがちの私は、ルーシーのようにいくつになっても純粋さとかわいらしさを失わない女性に、すごく憧れてしまう。『プリティ・ウーマン』のビビアンや、『ローマの休日』のアン王女もこのタイプの女性だろう。何をするにも一生懸命で、外見だけでなく内面もかわいくて、魅力にあふれていて、いつの間にか周囲の空気まで、その輝くような明るさで染め上げてしまう。
また、ジャックを演じるビル・プルマンもすごく素敵である。彼は最初、婚約者というルーシーの言葉に疑いを持つ。ところが、彼女の動揺する様子やちぐはぐな受け答えを余裕を持って眺めていたはずの彼が、次第に、素直で明るい彼女の魅力に引き込まれてしまうのである。「父の形見のコートなの」と話すルーシーを見つめる優しい視線、氷の上で転びそうになる彼女を支えようとして、自分が転んでしまった後の照れ笑い……。さりげない仕草に彼女への深い愛情が表れていて、思わずドキドキさせられてしまう。他の登場人物たちも、みんな陽気で人がいい。ルーシーの言葉を疑いもせず、彼女をあたたかく迎えるピーターの家族。少しおせっかいなくらいのアパートの住人たち。彼女にしつこく言い寄る大家の息子でさえ、愛嬌があって憎めないキャラクターである。
見るたびに優しさがふわっと心に広がる、「おとぎ話」のような作品。一人で過ごす週末の夜、代り映えのしない日常、アパートの部屋のカギを開けた時の妙に冷え冷えとした空気……、そういうものに心が固まりそうな時、ぜひお薦めしたい映画である。
(00/05/05 高橋めぐみ)
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