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マンガ『ハイヒールCOP』(大和和紀著、講談社KCデラックス)全5巻 各485円+税

 大和和紀というと、『はいからさんが通る』や『あさきゆめみし』が有名かもしれない。『はいからさん…』の紅緒さんも、婚約をぶち壊そうと婚約者・伊集院少尉の家に乗り込んだり、「自立した女性」よろしく編集者になってかけ回ったり、戦争から帰らない旦那様を探しに単身シベリアにわたったりと、とても大正時代の「つつましやかな」日本女性とは思えない。しかし、『ハイヒールCOP』の巡市子さんはその現代版、という感じで、紅緒さんに輪をかけて、パワフルなのである。
 市子さんは、事件とおしゃれとイイ男が3度の食事より大好きという警視庁の女刑事。容姿も身につけるものも仕事の腕もすべて超一流。理想の男は、容姿E、性格E、センスE、マナーE、頭Eの5E(ファイブイー)。そして、「働く女性の環境を快適にするために、男と生まれたものは5Eの条件をみたすイイ男になるための努力を義務づけられている」と公言してはばからない。バリイ、エルメス、ブルガリ、フェレ、アルマーニ……、一流ブランドを見事に着こなし、足元には6センチのハイヒール。雑踏をダッシュして犯人を追い詰めたかと思うと、ヤクザの親分(彼はダンディーな"大物5E")の車で警視庁に乗りつけたり、一流ホテルやレストランで5Eとの優雅なデートを楽しんだり……。とにかく、やることが突き抜けているのである。
 こんな「イイ女」の見本品のような市子さんにも弱点はあるわけで、掃除ダメ、洗濯ダメ、料理ダメ。毎朝出かけた後には脱ぎ捨てた服の山。箱ごと買ったカップラーメンをすすりつつ、本人だけはメイクも服もビシッと決めて出かけていく……。なんだか、散らかりまくった部屋を「忙しい」を口実に自己弁護しつつ、どんなに時間がなくてもメイク&おしゃれだけは必死にこなして今日も駅までダッシュする自分の姿を見るようで……、ちょっと元気になって、笑ってしまうマンガなのである。
 その上、市子さんの場合、上司の小言や同僚の陰口もなんのその。デスクの引き出しには、銃と一緒に雑然と並べられたリップやマニキュアの数々。身よりのない甥や年をとって"モーロク気味"の元麻薬捜査犬を引き取る優しさを胸の奥に秘めつつ、5E探しと犯人の検挙には強気で邁進……。仕事にも、イイ女であることにも同じくらい一生懸命で、どこか憎みきれないキャラクター。「美女には年齢と誕生日はない!」というわけで、年齢は不詳なのだが、決して20代ではない、と思う。30代、それも後半にさしかかった、というくらいではないか、と私は勝手に想像している。なぜなら、20代の女性には、市子さんほどの強さと色気の同居、絶対に不可能だと思うのだ。
 いつのまにか20代も半ばにさしかかり、肌の衰えや体形の崩れ、周囲の態度の微妙な変化、それに「30」という響き等々に漠然とした不安を感じる私にとって、強く、しかもさりげなく自分のスタイルを貫く市子さんの姿は、すごく励みになる。女性の場合、若いというだけで周りの評価も甘くなって、ちやほやされたりするけれど、でも、若さだけではかなわない美しさってあるのね、という感覚……。市子さんのように、年齢を重ねて外見も中身も輝きが増す可能性だってあるわけで、それはその人の生き方と努力次第であって、滅多にそういう女性には巡り会えないけれど、そういう、美しくてしなやかな年のとり方をしたいと、市子さんを見るたび、私は心から願うのである。
 男性から見ると、市子さんのような女性は軽やかすぎて、しかも求められるものは大きすぎて、扱いにくいのかもしれない。しかし、市子さんと並んで負けないくらいの男性が増えれば、大学も職場もずいぶん楽しくなるような……、気がする。もちろんそれには、女性のほうにも、"イイ女"であろうとするそれなりの努力が求められるわけだが。どっと疲れて落ち込んだ時、特に女性にお奨めである。

(00/07/04 高橋めぐみ)
※講談社文庫版全3巻(定価各650円)、『新・ハイヒールCOP』全1巻(講談社コミックスキス、定価390円)もある
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