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 天文博物館五島プラネタリウム(2001年3月11日閉館)

 文系の学生にとって、自然科学のなかで、最も親しみやすいのは天文学ではないだろうか。その親しみやすさの一つの要因が、このプラネタリウムという施設であることは疑いないであろう。そして、国内プラネタリウムの最高峰にあるのが、五島プラネタリウム(通称五プラ)である。ところが、この五プラが今年3月をもって閉館となってしまう。その理由を探る前に、五プラについて紹介しておきたい。
 渋谷駅東口の東急文化会館の最上階(8階)に、五島プラネタリウムはある。薄暗い中、レトロな構造物と「天文博物館 五島プラネタリウム」の文字が歴史を感じさせる。ここの開館は、昭和32年。約半世紀に渡り、天文学の普及に努めてきた民間団体である。
 入り口で、入場券と引き換えにパンフをもらう。パンフの表紙は、今月のテーマごとの写真である。開くと、上部が今月の星空早見表、その下に今月の星空とテーマの解説がある。裏表紙は、当館の案内となっている。
 投影まで、まだ時間がある。ここは、博物館でもあるので、様々な設備をみてみよう。入場口のすぐ前に、英国製の天球儀がある。地球儀のようなもので、星座が球に描かれている。しかし、星座はすべて裏返しだ。天球儀は、その球の内部の中心から見ることを想定して作られた星図なのである。プラネタリウムは、まさに、天球儀の中に入り、内部から見るようなものである。
 ロビーを左に進むと、プラネタリウムのあるドーム側の壁には、天体の写真と解説、反対側にも展示物や天文学者の肖像画と解説が並ぶ。さらに奥へ進むと、簡単なHR図の紹介など、専門的な展示や最近の天文ニュースについての記事もある。子供たちに人気なのは、三球儀(太陽・月・地球の動きを表すもので、ボタンを押すと自動で動く)や、星座がわかる機械(ボタンを押すと星座や星が光るしくみで、春夏秋冬の北天、南天の計8台)などのインタラクティブなものである。
 投影を告げる放送がかかったので、ドームに入ろう。直径20m、高さ12mのドームは外から見ても目立つほどで、445人を収容できるのは東京でもここくらいである。ドームの周りのシルエットは昭和47年頃の当館屋上からの景色で、東京タワー・羽田空港・東京湾・池上本門寺・富士山までよく見渡せたようである。
 ここで、五プラの特徴について述べておく。ここは、番組の最初から最後まで解説員の生解説で進められる、数少ない館である。解説員は4人で、それぞれの味があり、同じ番組でも、解説員によってまったく印象が異なるものとなる。
 また、ここのプラネタリウム機は、あのカールツァイス社の作ったツァイスW型と呼ばれるもので、最近多いコンピュータ式のものと異なり、全ての操作は手動である。惑星の複雑な動きは地球の軌道と惑星の軌道の歯車を組み合わせて表現し、天の川はフィルムに穴を開けて星の集まりを表すなど、実際の原理に近い方法で、みかけの動き(天動説)を表現している。まさに、精密機械で、アナログの美しさを教えてくれる。この機械も閉館とともに引退する。同型機は、日本では名古屋市科学館に1台残るのみとなってしまった。
 太陽が沈んでいくシーンから投影は始まる。音楽とともに日は沈み、やがて西の空に夕焼けが美しく広がる。最も感動的な一瞬である。音楽は、格調高いクラシックが使われることが多い。星空が広がると、ドームのスクリーンは、透明感にあふれる半径無限大の天球となる。
 投影の前半は、今日の星空、および最近の天文現象の話題についての解説だ。星座絵を使っての解説はもちろんだが、惑星の動きもチェックできる(惑星を投影できるので、'planet'ariumである)。市販の星空早見表では、この仕掛けはない。惑星は実際より少し大きく見え、木星に縞模様が、土星には輪が見える。無論、教育的配慮である。また、静止画、動画を使った説明は非常にわかりやすい。前半最後には、全天の星座絵と星座名(日本語・ラテン語学名併記)が星空全体に重なる。同時にBGMがかかり、まさに壮観である。
 後半は、月ごとのテーマによる(2・3月は「天文学の将来」)。多くの娯楽的なプラネタリウムと異な
り、ここでは独自の教育的プログラムが組まれており、学究的な色彩が濃い。もっとも解説者はベテランの方々で、丁寧に、楽しく解説することを忘れない。後半の解説が終わると、何時の間にか東の空には薄明が輝き、早朝の空には流れ星が飛ぶ。鮮やかな朝焼けの中、東京タワーの横から太陽が顔を出し、投影は終わる。
 入場料は900円、投影時間は1時間と、映画に比べて安価で、短い。しかし、気分転換には最適で、教養対策にもなる。閉館までに2週間足らずとなってしまった。しかし、東京付近に住む人には、まだ訪れる機会が残されている。土日など混雑が予想される日は(特に土曜6時の回)、朝から整理券が配られるようだ。できれば平日の早い時間(詳細は下記)をおすすめする。なお、3月11日の最終投影は、インターネットで生中継される(詳しくは、下記ホームページ参照)。

天文博物館 五島プラネタリウム
 投影開始時刻(問い合わせは、03‐3407‐7409 ただし、3月11日閉館まで)
 平日(月火は休館)…1:30、3:00、4:30、6:00
 土休日…10:30(*)、12:00、1:30、3:00、4:30、6:00(*)
  *土曜日6:00は特別投影「星と音楽の夕べ」
 日曜日10:30は「やさしい星空教室」(小学校低学年向き)
 ホームページ http://www.f-space.co.jp/goto-planet/ (ただし、3月11日閉館まで)


[参考文献]
土田映子「灯火は燃えているか」『星ナビ』(アストロアーツ)P.28〜34

(01/2/26 大島毅彦)
©2001 The Future