[ HOME受験に役立つ書籍・ビデオ>映画『スターリングラード』 ]
受験に役立つ書籍・ビデオ
 映画『スターリングラード』
(ジャン=ジャック・アノー監督・製作・脚本 日本ヘラルド映画配給)
☆公式サイト http://www.stalingrad-movie.com/

【参考図書】
 『DHC完全字幕シリーズ(3) スターリングラード』(DHC【編】・岡山徹【監訳】) 1200円+税

 監督は、『人類創世』(’81)、『愛人/ラマン』(’92)、『セブン・イヤーズ・イン・チベット』等で有名なジャン=ジャック・アノー。彼は、この作品で「戦争の物語を暴力ではなく、戦争のドラマの感情を描きたかった」と語る。

 舞台は、1942年のソビエト社会主義共和国連邦のスターリングラード。現在のロシア共和国のボルゴグラードである。ナチス・ドイツ総統ヒトラーとソ連の最高指導者スターリンはここを主戦場と定めた。

 羊飼い出身の射撃手ヴァシリ・ザイツェフ(ジュード・ロウ)と政治将校ダニロフ(ジュセフ・ファインズ)は周囲を敵で囲まれた状態からヴァシリの活躍で生還し友達となる。ダニロフは戦闘意欲を向上させるためヴァシリの活躍を記事にし、フルシチョフ(後の首相)のご機嫌を取り出世する。しかし、ユダヤ人のレジスタンスの美女ターニャを巡り、三角関係となる。ターニャは教養のあるダニロフよりも、教養はないが誠実で知性のきらめきのあるヴァシリに好意を持つ。ダニロフは、ターニャがヴァシリに好意を持っていることに嫉妬し、ヴァシリを最前線に送り込み、モスクワ(シナリオではスターリングラード)の大学を出てドイツ語の堪能なターニャを自分の近くの安全な部署に回す。ダニロフは知識を持った人間が生き残るべきだという信条を持っている。しかし、ターニャのヴァシリに対する想いは変わらず、両親がナチス・ドイツの惨殺されたことを知り、彼女は前線への復帰を強く望む。その後、ダニロフは、ターニャと一緒に爆撃に遭い、彼女は死んだものと思い込む。そして、すぐにヴァシリのもとに走り、彼女の死を報告する。その時、ダニロフは、共産主義は平等を理想とするが、自己のことしか考えない人間性が変わらない限り無理があることを指摘する。そして、自己の嫉妬心と行動を深く反省し、愛に恵まれなかった自分を哀れむ。その結果、驚くべき行動に出て、ヴァシリに罪を償う。これがソ連の側の話の中核を占める。

 一方で、ヴァシリ・ザイツェフのライバルとしてドイツ貴族出身のケーニッヒ少佐(エド・ハリス)がドイツ本国から送り込まれる。ダニロフの言葉を借りれば、「労働者階級の貴族階級に対する階級闘争」という図式ができあがる。ヴァシリとケーニッヒ少佐の凄まじい攻防は最後まで息を飲む。とは言え、ケーニッヒ少佐も最愛の息子をスターリングラードで亡くしているのである。労働者階級であれ、貴族階級であれ、指導者の政治的野心とか政策の誤りから、平時だったら普通の生活を送った人が、最愛の者を守るため、敵国の兵士(彼等もまた平時だったら普通の生活を送った人)を殺さなければならない。そんな哀れな構造が見えて来る。特に、二重スパイのロシア人少年のサーシャ(ガブリエル・マーシャル=トムソン)の最期は悲惨である。

 詳細は、映画と本(岡山徹・訳『スターリングラード』DHC刊)に譲る。しかし、歴史的背景を知らないと、単なる三角関係がらみの戦争映画という見方しかできないだろう。本で歴史的背景を押さえた上で、映画を見よう。

 本に記載されたシナリオと異なり、映画はハッピーエンドで終わっている。しかし、かえって、それがよかったと思う。そうでなければ、映画に表現された現実の重みに押しつぶされそうになるから。ハッピーエンドで終わることによって、苦しさの中にも将来に対する展望が見られ、見る人の心が救われる。ここで、私が幼稚園の運動会の仮装行列で前座を務めたI君のママのことを思い出した(「私の教育論」親父の運動会(3)参照)。妻から彼女はボルゴグラードの生まれと聞いている。ボルゴグラードは広島と姉妹都市である。彼女の関係者は何らかの形でスターリングラードの攻防に関わったことと容易に想像できる。しかし、今、彼女は日本人のI君のパパと結婚し、陽気にロシアの踊りを披露していた。荒廃したスターリングラードにも未来はあったのである。

 一見平和な日本でも、不条理に満ちた現実の重みに押しつぶされそうになっている人は私も含めて少なくないだろう。でも、生か死かの現実に直面しながら、未来を信じ、愛する者のために戦う姿を見ていると、何か勇気づけられるような気がする。また、戦争は普通の人の生活すら破壊してしまう。「戦争は何としても避けなければならない。」そんな当たり前のことを改めて確認した。作品は違うが、『グリーン・マイル』で無実の罪で死刑になるジョン・コーフィの最期の言葉「愛を利用して人を殺す。同じことが世界中で起こっている」が思い出される。為政者は、自己の野心のため、政策の誤りのため、普通の人の普通の生活を奪うようなこと(特に戦争)を起こしてはならない。

 現実の重みに押しつぶされそうになっている人、外務省や防衛庁を志望する受験生には必見の作品である。
(01/6/23 渡辺一郎)
©2001 The Future