『アヴェ・マリア 〜サラ・ブライトマン・クラシックス〜』サラ・ブライトマン
(原題"CLASSICS" Sarah Brightman)
東芝EMI(TOCP-65933) 2458円(税込み)
公式サイト:http://www.toshiba-emi.co.jp/sarah-brightman/
講義の一段落した6月は、気の向くまま一人旅に出かけ、自然の中に身を置くのが常だった。しかし、昨年の7月末から体調がよくないこともあり、今年の6月は1日講義をして、2日休むという形で静養していた。そんな時、近くの音楽店で何気なく見つけたのが、このアルバムである。
サラ・ブライトマンに関しては、それまで私はほとんど知らなかった。アルバムで解説を書いている大友良則氏は、サラを「ロンドン・ミュージカルのヒロインとして頂点を極めた」「世界屈指の美しいソプラノ・シンガー」というより、「美声を軸にした前例のないクリエイティヴなヴォーカリスト&アーティスト」と評している。専門的な解説は大友氏に譲るとして、素人から見た彼女の魅力を語る。
天才ともいうべき彼女の歌唱力は、とてもこの世のものとは思えない。サラの美しい声とオーケストラの古典的な楽器の自然で壮大な音色がミックスし、疲れた体と魂を癒してくれる。彼女には、人生の切なさや辛さの中で永遠なるものを求める、そんな魂の叫びがある。
このアルバムではその名のとおりクラシックに題材が求められている。「アヴェ・マリア」や「ピエ・イエス」のように本来的に宗教的な曲もあるが、「エニィタイム・エニィウェア」や「アルハンブラの想い出」のように有名な古典に彼女が独自に詞をつけた恋の歌もある。「夜の踊り」(ショパン)や「フィリオ・ペルドゥート」(ベートーヴェン)といった大家の作品も彼女は自家薬籠中の物としている。歌劇からも「さよなら、ふるさとの家よ」「私のお父さん」など新バージョンで選ばれているが、ここでも彼女の張りと伸びのあるしっかりとした歌唱力が際立っている。「あたりは沈黙に閉ざされ」はライヴでの雰囲気がよく伝わってくる(ライヴ・ヴァージョンで日本盤のみのボーナス・トラックである。アルバム自体の構成としては、ないほうがいいかもしれない)。前作のアルバム『ラ・ルーナ』から「セレナーデ/ここは素晴らしい場所」や「ラ・ルーナ」、『エデン』から「ネッスン・ドルマ」などが選ばれ、その多くはオーケストラやコーラスをバックに新たに録音し直されている。ここからも彼女の曲に対する真摯な姿勢やこだわりが伺える。「私を泣かせてください」や「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」のような一般の人にも聴き慣れた名曲もある。また、ポップスからもリンダ・ロンシュタットの「ウインターライト」が選ばれているが、サラの天賦の才能により古典に引けをとらないレベルにまで高められて、清楚な輝きを放っている。一方で「バイレロ」のように明るいフランスの民謡もある。このように彼女はあらゆる音楽のジャンルを超越している。
金に彩られた彼女のセクシーな写真も神秘的な雰囲気を醸し出し、曲とマッチしている。
エンヤ(Enya)の曲がダビングを重ねて作り出された人工的で透明な美であるとすると、サラの曲は人間本来の自然な純化された究極の美であると対比されよう。
仕事や人間関係に疲れた人でも彼女の曲を聴けば、きっと、新たな生きる希望を見出し、静かな意欲や闘志を湧き立たせることができるのではないか。そんなベスト・アルバムである。
(02/08/06 渡辺一郎)
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