『パリは燃えているか NHKスペシャル「映像の世紀」オリジナル・サウンドトラック完全版』
加古隆 ソニーレコード(SRCR-2573) 2940円(税込み)
『Scene 映像音楽作品集1992-2001』
加古隆 ソニーレコード(SRCR-2701) 2940円(税込み)
公式サイト:http://www.takashikako.com/
1995年から96年にかけてNHKで放送された「映像の世紀」を見た人は多いだろう。ヒトラーの演説やヒンデンブルク号の大惨事など20世紀の世界各地の貴重なフィルムの数々をナレーションを交えて淡々と紹介する番組だったが、鮮烈に記憶に残るシーンが多かった。なかでも番組のサントラとされている加古隆氏の音楽が、歴史の無常を感じさせて、ひたひたと心にしみいった。とりわけ番組のオープニングとエンディングに流れるメインテーマ曲「パリは燃えているか」について、NHKに問い合わせが殺到したという。
「パリは燃えているか」とは、第二次大戦下のナチス・ドイツがパリを破壊しようとした作戦から生まれた言葉に由来する。たしかに、軍靴の行進をイメージする悲しいリズムが楽曲全体を通奏している。ところが、この曲は第二次大戦の特定のシーンのイメージを超えて20世紀を俯瞰する番組全体を貫くテーマ曲となることに成功している。その旋律が、「歴史のうねり感の底に「哀しみ」を秘めており、歴史に翻弄される「人間の業」のようにも思える」(河本NHKプロデューサー)からかもしれない。
加古隆氏は、1947年生まれ。東京芸術大学・大学院修了後、パリ国立音楽院でオリヴィエ・メシアンに師事、76年作曲賞を得て卒業。一方、在学中にフリージャズピアニストとしてもヨーロッパ各地を公演して歩いている。80年帰国後、映像、舞台音楽を中心に作曲を手がけてきた。98年にはモントリオール国際映画祭グランプリ作品の作曲で最優秀芸術貢献賞を受賞している。
彼の音楽は、クラッシック、現代音楽、ジャズの三要素が核になっている。そこには、豊かな深みのある管弦楽法、メシアン流の研ぎ澄まされた美しい音色、小気味よい都会のセンスがバランスよく融合されている。ほかにテレビを通じて我々に馴染みのある曲としては、映画「大河の一滴」のテーマやNHK「にんげんドキュメント」のテーマ曲「黄昏のワルツ」等がある。先日、本人のコンサートに足を運び、生の演奏を聴く機会に恵まれた。「黄昏のワルツ」については、人々の人生に勇気を与えられるような応援歌を、エールを送れるような曲を作りたいと思って作りました、と加古氏自身が言及されていた。氏の歴史を観る眼の深さ、人間を視つめる眼の温かさに感嘆した。コンサート終了後、割れるように長く続く拍手に、何度も深々と丁寧にお辞儀される姿が印象的だった。
(02/09/30 杉原龍太) |