2003年夏 火星大接近
2003年夏、火星が地球に大接近を迎えている。8月27日、地球と火星は約5576万qの距離に接近した。これは、ほぼ6万年ぶりの大接近である。これから9月にかけて、マイナス2等級を超える素晴らしい明るさを保ち、南天に輝く。
8月下旬の夜8時頃、東の空低く、見慣れない明るく輝く赤い星が現れる。1等星が1つしかない寂しい秋の星空の中で、すぐに見つけられる。大接近前後には、その明るさは、マイナス2.9等星にもなる。太陽・月を除き、最も明るい星は金星であるが、大接近時の火星はこれに次ぐ明るさである。さらに、金星と異なり地球の外側を回る外惑星であるため、一晩中観望可能で、木星を凌ぎ、外惑星一の輝きを見せる。
火星は、普段これほどの輝きを見せることはなく、地味な星である。火星は太陽の周りを約687日で一周する。地球は365日であり、地球のほうが速く、2年2ヶ月ごとに追い越す(この周期を会合周期という)。このときが、火星の接近である。接近時には、地球と火星が衝の状態となり、観望に最適である。また、接近時には、火星はいわゆる逆行の動きを見せる(衝と逆行については教養のテキスト参照)。なお、2年2ヶ月という会合周期は、惑星の中で火星が最長である(2位は金星。会合周期につき、理論問題が国家 I 種過去問にある。)。
今回の接近が大接近といわれる背景には、火星の軌道がつぶれた楕円形をしており、同じ接近でも地球と火星の距離が大きく異なることがある。地球の軌道と火星の軌道が接近しているところで追い越す場合と、逆の場合では距離に約2倍の開きが生じる。みずがめ座の方向に火星があるとき(8〜9月)の接近は、大接近となる。その中でも、今回の大接近は、一説には6万年ぶりという。今回以上の接近は、2287年までない。
火星は、地球の1つ外側を回る惑星である。自転周期が約24.6時間であること、自転軸が軌道面に対して約25度(地球は約23.5度)傾いているため、季節の変化もあること、二酸化炭素が約95%であるが、薄い大気がある点などは、地球によく似ている。大気があるため、時に「黄雲」という砂嵐が発生し、火星の地表が観測しにくくなる。今回もこれが懸念されている。火星の大きさは地球の約半分である。衛星はフォボスとダイモスの2つで、いずれもジャガイモのような形の小さなものである。気温は、−80℃〜+20℃ほどである。なお、火星には、太陽系で最も高いオリンポス山(標高約27000m)と、深いマリネリス峡谷(深さ約7000m)がある。また、火星の空は赤い色だが、日没時には青い夕焼けが見られるという。
最近、火星が注目されている大きな理由の1つが、水の存在である。1976年に火星に着陸したアメリカの探査機バイキング号からの映像は、赤い砂漠のようなものであった。しかし、近年、マーズ・パスファインダー、マーズ・グローバル・サーベイヤー、マーズ・オデッセイ(米航空宇宙局NASA)が火星に到達し、氷の存在の可能性を認める成果をあげた。現在、マーズ・エクスプロレーション・ローバー・スピリット、同オポチュニティー(NASA)、マーズ・エクスプレス(欧州宇宙機関ESA)、のぞみ(宇宙科学研究所ISAS)などが探査に向かっている。接近時は、火星までの距離が近いため、探査機を打ち上げるチャンスでもある。
これまでの探査により、火星には氷を多く含んだ層がある可能性があることが分かった。かつて火星は温暖な気候で、水、すなわち海が存在した可能性があり、生命の痕跡が残っている可能性があるという。さらに、生命が誕生する過程が記録されている可能性があり、宇宙における生命の起源と進化の謎を解く鍵となるかもしれないという。
地球に似た性質を利用して、火星の氷を溶かして海を作り、人間が移住可能な環境を作り出そうという、火星地球化計画(テラフォーミング)も考えられている。まだ問題は多いが、全くの絵空事というわけではなく、技術的には可能ともいわれる。
夢の多い火星だが、地球と同時期に誕生し、似た性質を持つ隣同士の惑星であるにもかかわらず、現在は砂漠のような星になっている。生命にとって重要な水が液体で存在する地球は、貴重な星であることを実感させてくれる星でもある。
各地の天文台やプラネタリウム等で観望会や投影が行われている。機会があれば、この6万年ぶりの天文現象を楽しんでみたい。
(03/08/26 大島毅彦)
|