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キャリア・エリートへの道


文学部から苦手の官庁訪問を克服し文部科学省へ

はじめに

 私は行政職で受験し文部科学省に内定しました。公務員試験の体験は人それぞれで、こうすれば良いというものはないと思うのですが、私の体験が少しでも受験生の方に参考になればと思い、2001年1月2日の「21世紀のキャリアエリートへの道」でお話ししたことをまとめ、ここで合格体験記という形で書かせていただくことにしました。私がそもそも公務員を目指したのは、大学3年のときに民間の就職活動を経験して、その企業の利益を第一に考えて働く民間企業よりも、やはり公務員として働きたいと強く感じたからです。ちょうど日本の景気が最悪の時期で失業率も高まっており、そういった状況の中で人々の暮らしを良くしていくためには、一つの民間企業だけでは解決できない問題があることを実感しました。そしてそのような社会の問題の解決に直接取り組んでいくことができる公務員の仕事に魅力を感じたのです。

勉強について

 私は10月生としてWセミナーに入校しました。勉強については、私は最初から最後までセミナーの授業がすべてでした。10月生でとにかく時間がないことと、文学部出身で公務員試験の勉強の素養が全くないことが理由で、自分であれこれ考えるよりも、ノウハウの蓄積されたセミナーに任せた方が効率よいと判断し、セミナーに任せることにしました。そのかわり、授業で言われたことはすべて吸収するようにしました。わからないところがあったら、すぐに質問に行き解決するように心がけました。セミナーの先生方は丁寧に質問に答えて下さる方が多く、とてもためになりました。

 自分自身の勉強の仕方としては、専門科目については、早めに過去問を把握しておきたかったので、授業があるとすぐにその範囲のセレクションを解き、復習しながら本試験のレベルを確認するというやり方ですすめました。セレクションは、まず最初はとにかく一通り目を通すことを目標に進めると良いと思います。難しくて解けない問題は、解答を見ながらでも良いので、とにかく一度やってみることが重要です。私自身も、早めにセレクションを通してやっておいたことで、心に余裕ができました。

 一通り基礎が終わったあとに、アウトプットの授業がありました。アウトプットの授業には、あまり出席しない人が多い(注1)のですが、もしセレクションが一通り済んでいたら、出席した方が良いと思います。自分では解けたつもりでいても、違う解き方や関連する事項があったりと、役に立つ情報を得ることができるからです。このアウトプットの授業を有効に利用するためにも、セレクションに一度は目を通しておくことが重要なのです。

 渡辺先生は、授業でセレクションを最低3回やれ、とか1日10時間勉強しろとか1000問解けとかおっしゃられる(注2)ので、みなさんげんなりされていると思いますが、そんなにやるのはムリだとか不可能だとか思っているのは自分だけではありません。まわりのみんなもそう思っていて、しかも意外に実行できていないのが事実です。セレクションを1回も通せていない人も多いのです。ですから逆に言えば、それだけ他人ができないことを少しでも理想に向かって自分が現実に実行できれば必ず合格できます。私もつらいなーと思いながらもなんとか実行できるような方法を考えました。そして、自宅とセミナーの往復時間が長いことから、電車の中でできるだけセレクションを進めるようにしていました。

 ただ、行政職の試験は過去問をやれば大丈夫というわけではありません(注3)。過去問は大前提であって、ここからの勉強が重要です。やはり基本書を読まなくてはなりません。しかも目を通しておくべき基本書の数は結構あります。私は最初から最後まで通して読む時間がなかったので、過去問や模試の問題の該当部分だけを読んでなんとか目を通すようにしました。

 アウトプットの授業の後は、模試と択一答練で応用問題に取り組みました。模試は時間配分に慣れるということが重要です。勉強が追いついていない分野もありましたので、結果はあまり気にせず、復習に力を入れました。専門科目については、問題に出た部分の基本書に目を通し知識を増やすようにしました。また、直前の択一答練は綿密に分析された予想問題が出題され、直前に詰め込むべき情報を得ることができるので、大変役に立ちました。特に行政系の専門科目は出題されそうな分野を予想して勉強することが必要なので、択一答練はとても有効だと思います。

 教養科目についてですが、国 I の教養試験は時事的な要素が大きいので、何らかの形で毎日ニュースには触れておきたい所です。しかし、なかなか時間もなくそれも難しいため、私は模試を活用し、出そうなトピックの確認をしました。問題を解くことによって、その項目、関連のニュースが目に入りやすくなりますし、問題に出た部分をイミダス等で1つ1つ知識を増やしていくことも良いと思います。知能系の判断数的推理や、資料解釈等の問題はかなり難しいです。得意な人は良いですが、苦手な人は知識分野かあるいは英語で点をかせぐことを考えた方が良いと思います。英語は文章が長く捨ててしまう人も多いので、得意な人は英語で確実に得点するようにすれば差がつけられます。知識系の科目については、直前期ではあせってしまい頭にはいらなくなるので、なるべく早いうちに少しずつやっておいた方が良いと思います。歴史などは、行政職の試験では、専門試験にも役に立つので、以上、専門・教養について述べてきましたが、国 I の試験は専門試験が中心になりますので、専門の勉強に多く時間を割きました。

併願について

 併願についてですが、私は行政職でしたので、もともと併願するつもりで勉強していました。国 I 志望者で都庁併願を考えている人も多いと思いますが、都庁はご存じのように採用人数も少なく本気で都庁を目指して1年も2年も勉強している受験生がたくさんいます。いくら国 I の勉強をしているからといって簡単には合格できません。国 I 受験者が都庁も最終合格するためにはかなりの準備が必要だと思います。まず教養にかなりの力を入れることと、民法と経済を捨てないで勉強することが必要です。私は教養試験の勉強が間に合わず、都庁は確実に合格できる自信がなかったので、都庁は受けませんでした。もし時間がなくて勉強が不十分だと感じたら採用人数の多い、都庁以外の自治体を受験することも1つの方法であると思います。

官庁訪問について

 まず、官庁訪問の始まる以前に、大学などで行われる説明会に参加し、積極的に質問すると人事担当者に顔を覚えてもらえます。何回か説明会に参加するだけでも熱意があることをアピールできるので、勉強に追われていても、志望省庁の説明会には顔を出しておいた方が良いと思います。

 官庁訪問は文部省・厚生労働省・人事院などをまわりました。試験日の次の日から回っていましたが、なかなか良い返事がもらえずとても苦労しました。官庁訪問では、なぜ国家公務員になりたいのか、なぜ民間ではないのか、なぜ地方ではないのか、なぜその省庁なのか、という質問をいやというほど聞かれるので、つかえることなく言えるようにしておいた方が良いと思います。また女性は、特に体力的な面や、転勤、結婚・出産についてどう考えているかしつこく聞かれ、国家 I 種のキャリアとして働く覚悟があるかどうか探られます。省庁の方も、女性を採用してすぐに辞められると困るため、女性の採用にあたってはかなり慎重です。女性の受験生は、自分が国 I で働きたいという強い意志をもっていることをアピールした方が良いと思います。私は、最初から長く働いていきたいと考えていましたし、女性であることを活かして女性の働きやすい社会をつくるような仕事がしたいと思っていたので、その点をアピールしていました。

 また、大学時代をどのように過ごしたのかは、必ず聞かれることなので、いくつか印象に残っていることをまとめて、話の中で自分がどのような人間なのかをアピールする必要があります。私は文学部出身で、ゼミもなく、サークル活動もあまりしていなかったという状況で、とにかく話す内容を豊富にすることに苦労しました。留学したことが自分の中では一番大きな経験であったのですが、「留学」と聞くと毛嫌いする職員の方もいらっしゃるので、あまり同じ話を出しすぎるのも良くないと感じました。留学の話を出した瞬間に、「日本では何をしていたの?」と聞かれて、困ることもありました。しかし、作り話をするのにも限界があるので、半ば強引に留学の話をし続けました。そのうちに、同じ留学の話をしても、いやがる職員の方もいれば、評価してくださる方もいることがわかったので、少しは自信をもって話すことができるようになりました。

 もちろん各省庁の政策についても細かく聞かれます。私が官庁訪問に苦労した原因は、面接に慣れていなかったことともありましたが、省庁についての勉強不足だったと思います。新聞・ニュース・白書・インターネットで情報を集め、各省庁が何をやっているのか、自分がその省のどういうところに興味があるのか、疑問点は何かなどをはっきりさせて官庁訪問に臨むことが必要だと思います。最初のうちはとにかく「質問は何か」と聞かれ、どのくらいその省庁に対する関心があるのかをみられます。質問はなるべくたくさん用意しておく方が良いです。質問の内容は、はじめにその省庁の政策などや、自分の興味をもった分野でわからないことなど堅めの質問をし、最後の方に個人的なことや職員の方の生活についてなど、くだけた質問をすると良いと思います。質問の答えの中でさらに疑問を持った場合はそこからまた質問をすると話が膨らみます。言葉のキャッチボールがうまくつづくと、良い評価がもらえることが多いので、質問はたくさん用意し、職員の話を良く聞いて話をうまく続けるようにしましょう。

 ただ、準備といってもなかなか時間がとれないものですので、準備が十分でなかった人は、実践を利用して、少しずつ面接の腕を磨いていって下さい。例えば、ある省庁で聞かれたことがうまく答えられなかったときは、その質問を覚えておいて、後からうまい答えをノートに書き留めるなどしておくと、次に他の省庁で聞かれたときに答えられます。難しい質問をされたときなどは、面接が終わったあとに、友人たちに意見を求めてみると、話の中で良い考えがまとまったりします。事後の対策でも次の面接には必ず役に立ちます。面接をしながらその都度腕を上げていけば、だんだんと良い結果が出るようになると思うので、内定が出るまで続けることが重要だと思います。

 官庁訪問では、省庁側と受験生とのかけひきが多くあります。いろいろな情報が受験生の間で飛び交い、情報に惑わされることがあると思います。情報は重要ですが、あまり振り回されすないように、自分の中での第一志望に忠実に行動して下さい。私も、ある省庁で「切られ部屋」という噂のある部屋に入ってしまい、次の日から回るのをやめてしまいました。しかし、後から聞いた話では、あきらめずに次の日も訪問した受験生のうちで内定をもらったという人がいたそうです。省庁の方で、第一志望かどうかを確かめている場合もあるので、噂に流されて後悔しないようにして下さい。

 私は文部科学省が第1志望で、最初に訪問しましたが、割と早い段階で切られてしましました。他の省庁もあまり良い返事がもらえず、結局最終合格発表のときも内定がない状態でした。それでも最終発表後にもう一度官庁訪問をしました。ちょうど文部省では2次落ちの補充をしていて、そのとき私が第一希望で最初に訪問していたことを評価していただけました。それまでの2ヶ月くらいの間に何省庁も回っていて、面接慣れもしていましたし、うまく自分の考えもまとまるようになっていたので、あきらめずに続けていたことが少しは役に立ったのだと感じました。

人事院面接について

 人事院面接についても少し触れておくきます。人事院面接は2次試験の一部です。人事院面接は最近ウェートが高くなってきていると聞きますし、手を抜けません。官庁訪問は1対1でのやりとりが多いのですが、人事院の面接は面接官3対1での一問一答の形式ですので、また違った緊張感があります。人事院面接では、無難にこなすことを第一に考え、よけいなことは言わず聞かれたことだけに答えることを心がたほうが良いと感じました。面接のグループによって厳しい面接官のグループとそうでもないグループがあります。私はそれほど厳しくない面接官だったので、無難に答えることができました。全体的に、想定される一般的な質問に対して答えをつくっていけばこなせる程度であると思います。自分についての質問以外には、「官僚の不祥事についてどう思うか」という質問もありました。

文部科学省について

 私が文部科学省を第一志望にした理由は、大学在学中にアメリカに留学し、教育環境が個人に与える影響の大きさを実感したため、日本の教育環境を充実させて質の高い人材を育成していきたいと思ったからです。アメリカで過ごした一年間は、日本でできないような体験をしたり、厳しい授業の中で多くの知識を得ることができ、大変貴重な経験となりました。この経験で、私は教育環境が個人に与える影響の大きさを実感したのです。また、アメリカの大学では、一度社会に出た人など、様々な年代の人が学んでいる姿を目の当たりにし、何歳になっても自分の能力を伸ばそうとしている姿勢や、それを受け入れる体制が整っていることに感心しました。一度社会に出てからビジネススクールやロースクールでキャリアを積むことも一般的で、個人の選択肢の広さと、それを実現する環境が整っている点がすばらしいと思いました。まだまだ日本では、自己啓発をしたい人は多くても、それを実現する環境が整っていないのが現状です。日本の高等教育機関が今よりも発達して、誰もが学びたいときに学べ、それが活かせる社会が理想的であると思い、そのような環境整備に携わっていきたいと思いました。

 入省してからは、生涯学習の環境整備や、社会人教育、高齢者や女性の教育機会を提供することに取り組んでいきたいと考えています。また、高等教育だけではなく、初等・中等教育も含め、今後の日本を支える人材を育成するために、質の高い教育を提供していくことが目標です。教育環境を整え、個人の力が最大限に発揮される社会をつくって日本の発展に貢献していきたいというのが今の考えです。

最後に

 最後に、私は、一昨年(1999年)の10月から勉強を始めて、2000年に1次、2次試験、官庁訪問を経験し、ここまでたどりつきました。振り返ってみて、私がここまで来れたのは、一言で言えばやめなかったからだと思います。勉強の面でも官庁訪問の面でもそうですが、最初はすごく競争率が高くても、途中でやめてしまう人が多く、最後まで続ければかなり倍率が下がり、努力が報われ易くなると思います。確かに勉強も官庁訪問もつらいです。私もやる気をなくしてただだらだらと訪問を続けていた時期もありました。しかしそれでも続けていれば、いつかチャンスがまわってくるものだと思いました。受験生の方もこれから大変だと思いますが、不利な状況であっても何が起こるかわかりません。最後のチャンスが完全になくなるまでは自分からあきらめることなく頑張って欲しいと思います。

以上

渡辺注
注1 2001年受験生の出席率は2000年受験生よりも高い。
注2 「セレクションを最低3回やれ」とは言ったが、「1日10時間勉強しろとか1000問解け」とか言ったことはない(直前期の「1日9時間のモデルプラン」を示したことはある)。
注3 指摘のとおり、行政職における過去問(最低10年分)の比重は小さい(本試験の5割以下しかカバーできない)。しかし、経済職は一番比重が大きく(8割以上をカバーする)、法律職も比較的高い(6割以上カバー)。
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