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私の教育論
最近の公務員受験生
 

 大学生相手に公務員試験受験指導を行うようになって10年になる。ちょうど平成の歩みとほぼ重なる。

 最初の頃は、受講生の数はそれほど多くなかった。受講生は、予備校に来る前に自分である程度勉強しており、自分に足りないものを講義に求めていた。また、なぜ公務員になるのか、問題意識もはっきりしていたように思う。

 しかし、最近は、受講生の数も増え、公務員試験の勉強をすべて予備校に委ねる人が多くなった。また、親に勧められて公務員になるという人が増えてきた。なかには、親が受験に熱心で、子どものほうが熱心でないケースもある。もちろん、自分である程度勉強しており、講義の予習・復習をちゃんとやり、なぜ公務員になるのか、問題意識もはっきりしている人もいる。こういう人の合格率は非常に高い。

 問題は、何となく勉強して、何となく合格してしまうケースである。さすがに、国 l では、このようなケースは少なかったが、最近は受験勉強の開始時が3年次から2年次に早期化するに従って、このような人も増えている。

今年受験する4年生との対話(ノンフィクションです)
 生徒A「甲省と乙銀行と迷っています。どっちに将来性があるでしょうか。」
 教師「君は、どちらの仕事に魅力を感じてるのかな。」
 生徒A「甲省です。」
 教師「だったら甲省を目指したらいいじゃないか。でも、なぜ乙銀行にこだわるの?」
 生徒A「だって、乙銀行は40歳で2000万もらえるというじゃないですか。」
 教師「えっ!そんなにもらってるの?でも、若いうちは、仕事の内容にこだわったら。」
 生徒A「だって、お金は大事じゃないですか。老後が心配だし。40歳で2000万は魅力ですよ。」
 教師「君ィーい、爺臭いこと言ってるな。だけど、君が40歳になっても、それだけもらえるという保証はないよ。もう一度、よく考えてみたら。」

来年受験する3年生女子学生2人との対話(ノンフィクションです)
 女子生徒B「国 I の初任給は、いくらでしょうか。説明会で聞こうと思っていて、聞けなかったのですが…」
 教師「それは聞かなくてよかった。初任給は、人事院のホームページを見れば判るだろ。」
 女子生徒C「国 I で寿退職はできるでしょうか。」
 教師「えっ! 今何と言った。」
 女子生徒C「寿退職です。」
 教師「…。寿退職するのは勝手だけど、そんな人採用する訳ないだろう。」
 女子生徒C「やっぱり、そうですか。父もそう言ってますけど…」
 教師「では、何で国 I を目指すの?」
 女子生徒C「結婚相手を探すためです。」
 教師「えっ…」

 将来性、収入、結婚相手、いずれも人生にとって、大事なものではある。しかし、若いうちは仕事のやり甲斐で仕事を選択するのも大事ではないか。J・F・ケネディではないが、「自分に(会社・社会・国が)何をしてくれるかではなく、自分が(会社・社会・国に)何ができるか」という視点が重要ではないか。そのような話を上の3人にした。

 その後、生徒Aは、数週間悩んでいたが、「先生、乙銀行は切りました。甲省に行って、産業の育成をやりたいと思います。」と晴れ晴れとした顔で報告してくれた。ビル・ゲイツのように自分で産業を興すというのではなく、残念ではあったが、公務員受験希望者にそこまで望むのは無理なので、一応ほっとした。彼は、優秀なので、今年、合格・内定に至るだろう。

 Bさんは、2週間後に「初任給がわかった」と報告してくれた。残業手当まで入れると倍ぐらいになるので不満がないとも言う。ただ、よく話してみると、家族思いのいい子であった。私も、東大在学中、父が交通事故の後遺症で苦しんでいたので、勉強と両立できるなるべく効率のいいアルバイトということで受験業界に入り、今日に至っている。家族のため、公務員の初任給にこだわるのも無理のないことと理解できた。

 Cさんは、その後も「寿退職」路線は放棄していなかったが、よくよく聞いてみると「公に尽くしたい」という意思も副次的にあるようであった。優秀な男性と結婚したいという女性の本能(?)を否定するつもりはないが、それが受験動機の8割を占めているのはどうかと思った。ただ、この子は1度講演会を聞いて知っているだけの芦部先生の訃報を聞いて、思わず涙したという。意外と官僚をよく理解したいいお嫁さんになるかもしれないとも思った。

 というわけで、今年は、「新々人類」ともいうべき一風変わった生徒に囲まれて授業している。
 彼ら(彼女ら)の発想は、本音かもしれないが、40代後半から50代の親、特に母親の影響を受けているのかもしれない。
 そのなかで、私は、国民が望む公務員のあるべき姿を提示するのも自分の社会的使命(?)ではないか、と思うに至っている。

 最後に、私の同級生のある官僚の一言。
 「私も、民間企業が不振の時代に、損得勘定で公務員になる人間が多くなることをおそれる一人です。『これだけ勉強して難しい試験もパスして公務員になったのだから、民間企業であまり働かずに、自分より良い給料をもらっている人間がいるのはおかしい』ということを平気で口にするような公務員は(実際そういう声を耳にしたことがありますが)、そもそも公務員になる資格はないと思うし、そういう人間 が、『おごり、たかり』の 構造を作ってしまったのではないかと考えています。」

 機会があれば、「私の官僚論」を展開したいと思う。

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