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私の教育論
40人学級か30人学級か? (2000/7/20)
 

 先日、5年生の保護者会があったので妻と2人で参加した。7月に1人が転入してきて、現在の40人3クラスの体制から、2学期からは30人3クラスと31人1クラスの4クラスに改組することも可能となったので、現在の3クラスを解体し4クラスとすべきか否か、が議題となったのである。私は2000年4月からの地方分権で、学級編成に地方公共団体の大幅な裁量が認められたものと思っていた。しかし、そうはなっていなかったようだ。従来通り、始業式の段階で120人であれば40人3クラス、121人であれば30人3クラスと31人1クラスの4クラスにできるという杓子定規な取扱いが維持されていたのだ(そうでないと国から金が出ない)。しかし、1学期の途中で1人の転入があったので、30人3クラスと31人1クラスの4クラスに変更できることになったらしい。
 校長先生は、PTA役員会に諮り、30人学級の有用性を力説した(教育委員会に3年間出向中、中学校になって不登校となった生徒を調べたところ、その多くは小学校では人数の多いクラスの出身者であったこと。出向前であれば、3クラスのままで行っていたと思うが、今は4クラスが望ましいと考えていること)。その結果、一応、役員会の了承を得たかに見えた。そして、胸を撫で下ろし、上機嫌で5年生と林間学校に出かけていった。しかし、数日後、彼には悲劇が待っていた。校長先生の話に納得したかに見えた役員のうち、発言力のある役員が学級解体を不安に思い、不安を書き出して校長先生に提出するよう、各役員に通達したのである。なんとその意見を林間学校から帰ったばかりの校長先生に手渡すと言うのだ。しかし、不安を書き出すだけでは、役員はすべて30人学級に反対だということになってしまう。
 そこで、我が家としては、賛成の立場から以下のような意見書を提出した。

☆学級編成についての不安な理由(これは、近所の方の不安な点です。)
  1. なぜ今頃になってクラスを増やすのか?(先生やクラスのお友達とも慣れたのに、クラスをかえる必要はないのではないか?)。
  2. 新しい学級担任に対する不安(もう1人の先生は、どんな先生か?新しい先生への協力体制は整っているのか?)
  3. 友人関係の不安(仲の良い子と別れたらどうしようか?うちの子は友達づくりがあまり上手ではない。先生のほうにどんな手だてがあるのでしょうか?)
☆ 学級編成に賛成の意見(これは、我が家の意見です)。
  1. せっかくの30人学級に戻るチャンスをみすみす潰すのはもったいないと思います。40人学級は、たくさんの友達ができるというメリットもあります。しかし、5年生は学力に差がつき始める時期です。また、肉体面・精神面でも不安定となり、人間関係も単純ではなくなります。人数を少なくして、先生の学習面と生活面における、よりきめ細かい指導を期待したいと思います。アメリカでは現在の20数人の学級を18人学級にしようとしています。
  2. 新しい先生に対する不安は、30人学級とは本来別の問題です。校長先生は責任をもって、いい先生をスカウトしてきてくださると思います(例えば、産休で来た先生の評判のほうがいいこともありますし、もちろん、逆のケースもありますので、校長先生の判断に期待します)。また、新しい先生に対しては、今までの担任の先生方の協力も期待したいと思います。
  3. 友人関係の不安も、30人学級とは本来別の問題です。確かに、せっかく仲の良かった友達と別れるのは辛いという人も少なくないかもしれません。しかし、クラスが異なるだけで、完全に別れるわけではありません。逆に、嫌なクラスメートと別れられていいという人もありえます。ただ、学級間の交流をもっと増やし、同じ5年生としての一体感を深めたほうがいいと思います。
  4. 2の点は、校長先生をはじめ先生方にお願いするとして、3の点は可能であれば生徒や親の要望を少しでも反映できる形が望ましいと思います。
渡辺

 そして、役員会に引き続き、保護者会が開かれた。保護者会には丁度半数の60人の父母が参加した(父親は私1人であった)。校長先生の意見が述べられた。その後、質疑・応答がなされた。反対派からは質疑・応答というより反対の意見が次々と出された。賛成派の私は、あくまで技術的な質問にとどめた。
 各クラス担任の先生から、個人的意見も述べられた。1組の先生は、「個人的には手放すのは辛いが、将来のことを思うと4クラスが望ましいと思う。121人を4人で見るという意識でがんばる」と左の目から一筋の涙を流しながら話されていた。1列目でそれを見ていた私は、本心は反対なのだろうけど、校長先生に「将来のこと(管理職への道?)を考えて、よく考えるように……」と説得されたのか?と冷静にも見たが、校長先生も「オタマジャクシがカエルになったことを、ある児童が報告に来た」ことを喜んで父母参観の日にわざわざビデオで流すような人なので、「校長先生も1組の担任の先生も純粋に子どものこと思って、発言されているのだな。いい先生達だな……」と思わず感激してしまった。長女がお世話になっている2組の先生も、1組の先生と、ほぼ同意見であったが、最後は涙ぐんでおられて、妻も私の隣でもらい泣きしていた。私も、「いい先生で良かった……」と胸に迫るものがあった。しかし、3組の先生は、違っていた。まず、自分の経験を述べられ、「基本的には1年間やり通したい!」とのことであった。気になったのは、「私から離れられて喜んでいる生徒もいるかもしれないが」との台詞であった。
 その後、学級ごとの話し合いがもたれた。1組と2組の先生は、「先生達がいたのでは、本音が出ないだろう」との校長先生の言葉に従い、話し合いの輪には加わらなかった。しかし、3組の先生は、すぐに話し合いの輪に加わり、「4クラスになると不安でしょう」とか、発言していたらしい。
 1組は、賛否両論あり、反対意見がやや多かったとのこと。ただ、役員の1人が反対意見を積極的に述べていた。2組(16〜17人と参加者は少なかった)は、私が「40人学級は大学生相手のゼミでも大変であること(例えば、3時間で30人なら全員当てられるが、40人だと無理)、妻も人数の多いクラスでは苦労したこと(時効だと思うが、実は、私も見かねて、夜の2〜3時までテストの計算だけでなく、人相見よろしく生徒の写真を見ながら、通知票の所見を口述し、手伝ったことがある。だいたい当たっていたらしい。もちろん、ここまでは話していない)」を力説した。また、娘の友達のNちゃんのママも、上の2人の兄姉の経験を語り、30人学級の有用性を力説した(さすが、弁護士の奥さんだけあって、口は達者だった)。しかし、反対意見も尊重し、今学校におられる専科の評判のいい先生から担任を任命すること(新しい先生で失敗した例があるから)、子どもには学校のほうからも30人学級にする理由を充分に説明するという条件付きで賛成という意見にほぼ固まったように見えた。 ところが、3組は違っていた。賛成意見もあったものの、先生が介入したせいか、ほとんどが反対意見だった。その結果、反対34、賛成14、どちらとも決めかねる12という結果となった。3組(20名強)が、ほとんど反対だったのは、校長先生にも賛成派にも痛かった。
 この問題は、校長先生の裁量権の問題(支出が増えるので無理に4クラスにしなくてもいいらしい?)で、別に多数決で決めるべき問題ではなく、最終的には、校長先生の教育的判断に任されているはずである(親に意見を聞かなくても、4クラスにできたはずである)。そこで、私は、「最終的には、校長先生に一任して、何か問題があったら責任をもって対処してもらえばいい」と発言したが、「責任とはどういう責任ですか?」とか、揚げ足を取る人もいた。また、「今日、来られなかった人はどうするのか?」という意見も出た。確かに、平日で来られない人も多い。「今日の議論に意見は集約されている」という意見もあったが、結局、アンケートを実施することになった。どうなるかはわからないが、反対の意見が強く、おそらく校長先生は多数意見を尊重して、40人学級3クラスを維持することになりそうである。校長先生の権威も落ちたものである……(信頼できそうな先生なのに……)。
 最後に3組の先生が発言された。「9月から生徒の行き場がなくなるような事態は避けたい」と。また、例によって、また「私から離れられて喜んでいる生徒もいるかもしれないが」との台詞つきで。私は、「もう5年生である。いままでクラス替えは3回もやっている。知らない者同士が一緒になるわけではない……」とか、反論できないこともなかったが、あえてしなかった。「4クラス用の名簿も4月の時点で用意してあり、その名簿を早く公表することで、生徒の動揺を避け自覚を促す」という点も質疑・応答で確認されていたが、彼はその点も全く無視していた。彼は、反対意見に耳を傾けようとする意図はないように見えた。
 また、彼は、「5年生をみる」という意識より、「5年3組をみる」という意識が強すぎた。また、校長先生の体験・意見よりも自分の体験・気持ちを優先している。1組と2組の先生が、涙を流しながら揺れ動く気持ち(手放したくはないが、将来のことを思うと……)を、ほとんど理解していない。「私から離れられて喜んでいる生徒もいるかもしれないが」との台詞は、自分のクラスに対しては、30人学級賛成派を押さえ込む力をもつ。また、他のクラスの30人学級賛成派に対しては「30人学級に賛成なのは、クラス担任から離れたいからだ」と言っているようにも聞こえ、先生と賛成派の親を分断する効果もある。もちろん、彼はそこまで計算して発言したものではないと思うが……「そうではない。今の担任の先生に不満はない。むしろ、よく理解してもらっていて感謝しているくらいだ。しかし、先生の負担も大きいし、大局的な見地から、あえてクラスを分割するのだ」(誤解を避ける為、私達夫婦は担任の先生と終了後この点を確認しあった)と言っても彼の耳には聞こえそうにもない。「難関中学を受験する予定の5年生は、もう3学期の内容をやっている。昔より学力に差がありすぎる。できない子はどうするのだ! 1人も落ちこぼれを出さないと言う自信はあるのか!」と叫んでみたり、また、「3組だけで固まって先生と性格の合わない子の逃げ場はどうするのか?」と聞いてもみたかった。しかし、2学期であれ、来年4月の段階であれ、4クラスになり、担任になる可能性もあるので、言うのは止めた(いわゆる「子どもを人質に取られている」状態)。
 親も親である。改組に反対している親は、そもそも小学校に期待するものが違う。一言で言うならば、「学力よりも人間関係」である。これは、2つに分かれる。1つは、「勉強は塾に任せてあるから、学校は人間関係さえうまくいけばいい」と考える。しかし、全体のレベルが上がらなければ、「勝ち組」といえども税負担は重くなる。他人の子どもはどうでもいいという訳にはいかないはずだ。もう1つは、「勉強よりも人間関係が重要である。勉強ができないのは自分のせいだ」と考える。前者の子どもは、公立中学に行かない。小学校高学年の問題が、中学に持ち越されると、結局、後者の子どもが被害を受けることになるのだ。それが判っていない。これに対して、改組に賛成の親は、「もう5年生だし、適応力はある。これからは、勉強も人間関係も複雑になるから、先生の目の行き届くほうがいい。いまちゃんとしておかないと今後大変なことになる……税金で維持される公教育がまず基本である」と考える。
 話を戻す。今では、「仮に、校長先生が、反対派を押し切り、2学期から4クラスになり、彼のクラスに娘が行くよりは、今のまま理解のある先生のクラスにいるほうがいいかもしれない」とも思っている。もちろん、3組の先生は生徒にも親にも人気がある。だからこそ、親の意見をクラス替え反対にまとめることができた。しかし、私は、優柔不断と言えば優柔不断ではあるが、40人学級がいいか、30人学級がいいか、真剣に悩み、自分の力の限界を知り、相手の立場も考え、妥協案まで出して、悩んでいる校長先生とか1組と2組の先生に親しみを感じる(大坂城の落城まで豊臣家に忠誠を尽くしたという遠い先祖の血がそう思わせるのかもしれないが……)。
 ともかく、4月の時点で30人学級4クラスに反対の人はいなかった。わずか1年に1兆円の支出(やり様によっては、半分以下ですむ)を惜しむから、こういう事態を招くのである。過去10年間で公共事業や景気対策につかったお金は数100兆円にも達するだろう。
 教育なくして、日本の未来はあり得ないはずである。

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