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私の教育論
2000年の教育を考える(2) (2000/12/31)
  N(ゼミ生)
M(若手キャリア)
W(渡辺)


N 先生「私の教育論」、いつも楽しみにしているのですが、最近更新されていませんよね?
W うん。なかなか時間がなくて……。本当は、書きたいことがたくさんあるんだけれども・・・。

M 確か、先生の上のお嬢さん、夏休みは塾に行かれましたよね? その後どうなりました?
W 夏休みだけのつもりだったんだけど、「9月以降も行く」と言い出して……。
M 勉強がお好きなんですね!?
W いや、勉強は好きじゃないけど、私の洗脳(2002年学習指導要領を実施した場合、公立中学・高校から東大など一流大学へはますます入れなくなる)のせいか、将来のためには今勉強しなくてはならない、とは思っているようだけど……。
N 先生の奥さんは学校の先生だったし、先生も合わせると、鬼に金棒ですね。
W いや、娘は親の説明を全く聞こうとしないので、困っているのです。素直でないというか……。
N わかるような気がします。私もそうでした。
W 娘は学校では上のほうだと思いますが、塾では全くマイペースで、予習も復習(宿題)もしないので、下位を低迷しているのです。小学校5年生にもなると学力の格差は相当なものだと実感しました。
M お嬢さんは、まるでセミナーに来ているけど、予習も復習もしないタイプの学生のようですね。
W まさしくそうです! 彼(彼女)等とその親の気持ちもわかりました。彼(彼女)等は、「将来のためには今勉強しなくてはならないが、できるなら努力したくない(楽をしたい)」と思っているし、親は「大学の学費以外に高い金を払っているのに、なぜ真剣に勉強しないのだ!」と怒っているのです。今までは「そういう学生は合格しないほうが、かえって国益に適う」と思っていましたが、最近は「そういう学生にも何とか、やる気を出させて、合格させてあげるのも大事ではないか」と思うようになりました。
N 先生、最近、丸くなったとみんなが言っていますよ!
M 先生の持ち味の毒舌がなくなったと言うことですか!?
W 本質は、同じです。何とか合格してもらいたいのに、やるべきことをやらない、それが歯がゆいのです。どうしたら、実行してくれるのか、私も悩んでいるのです。

M ところで、娘さんのクラス、2学期から30人になって変化はありませんでしたか?
W 娘も新しい友達もできて、すぐに新しいクラスになじんだようです。新しく来た20代の若い先生も前からの先生が嫉妬するくらい児童に人気があるようです。
N よかったですね。
W いや、来年になったら、また120人になり、40人の学級3クラスに戻る可能性もあります。驚いたことに、「30人学級を国や県に働きかけてくれ!」という市民の請願を市議会が不採択にしているのです。財政状況を考えてのことなのでしょうが、何もわかっていない!
M どういうことでしょうか?
W おそらく市議会のお年寄りの連中は、クラスの人数が多かった昔のことを思い出して、そんな要求は贅沢だと思っているのでしょう。しかし、今は昔と違います! 子どもの学力の差は昔に比べて比較になりません。5年生でも大学入試レベルの問題を解く児童がいる一方で、未だ2〜3年生のレベルの子もいます。また、親の価値観、学歴、職業も様々で、昔みたいに先生の権威はありません。先生は、40人の児童だけでなく、最大80人の海千山千の我が儘な親を相手にしなければならないのです。仮に、30人に児童を減らしても、さらに60人近くの親の目が光っているのです。
N 確かにそうですね。
W さらに問題なのは、30人学級の実現に向けて日本でも毎年2000万人以上の署名が集まっているのに、国会が全く動こうとしないことです。アメリカの大統領選挙でも公教育のありかたは一大争点となっているのに、日本の場合は、そうではありません。

M 教育基本法の改正が問題となっていますが?
W 教育基本法を改正して、教育問題が解決するなどというのは、机上の空論です。せいぜい教員採用試験の試験問題の内容が変わる程度です。ほとんどの国民は条文を知りません。今の条文は、戦後の一流の有識者が練りに練って考案したものです。もちろん、日本の歴史とか伝統を重視したり、義務とか公を重視する姿勢も確かに重要で私も賛成ですが、現行法に追加すればすむことです。
N 改憲論者からすると、教育基本法が外堀で、日本国憲法が本丸では?
W そうかも知れませんね。でも、法律であれ、憲法であれ、改正は中身が重要だと思います。ともかく、なぜ今、政治の場では教育基本法の改正が重要なテーマになっていて、2000万人以上の国民が望んでいる30人学級が実現されないのか、それが全くもって不思議です。次の参議院議員選挙では、それを争点とした政党はかなり有利だと思うですが……。

M 2002年の学習指導要領についてはどうでしょうか?
W あれも悩みの種です。教育に関心のある親は「2002年ショック」と恐れています。「ゆとりの教育」を喜んでいるのは、教える意欲の乏しい教師と教育に関心のない親とか児童でしょう。
N 大学では学力低下が問題となり、受験科目を増やすようですが?
W そうです。数学のできない経済学部生とか、生物を知らない医学部生とかは、かなり問題ですね。
M 通産省は産業の空洞化を心配しているようですが?
W そうです。他の省庁のほうが心配しています。確か、郵政省なんかは、小学校6年生のうち4人中3人は1日に1時間以上ゲームをやっているとか、テレビゲームを長時間やっている児童はそうでない児童よりキレ易い、とか興味深いデータを発表していたと思います。
N それ、私も聞いたこともあります。郵政省のホームページにも教育問題の論文が出ていたと思います。
W そうですか。そのうち教育問題に関心のある学生は、文部科学省ではなく、経済産業省とか、総務省に行くようになるかもしれませんね。

M 文部省内にも「ゆとりの教育」に反対論もあるようですが?
W そうです。一枚岩ではないようです。
M でも、聞くとことによると、文部省は経済官庁に比べて、若手のキャリアが中堅のキャリアに自由にものを言える雰囲気ではないと聞きます。
N そう言えば、経済官庁の内定をもらった先輩が、文部の若手はかなり暗かった・・・と言っていました。
W もちろん、みんながそうではないけど、役所の体質みたいなのは、多少あるかも知れませんね。でも、科学技術庁と一緒になるので、少しは変わるかも知れません。それより、問題なのは学習指導要領という誰がつくったのか国民には全くわからない文部省の告示に教師や国民が拘束される点です。
M 確か、最高裁は伝習館高校事件で教師に対する法的拘束力を認めていましたよね?
W そうです。
N 国民に対する拘束力は認めていないのでは?
W それは、形式論であって、教師の教えることに従うのが普通の児童・生徒のはずです。

M 確か、最高裁は、必要かつ相当と認められる範囲で国に教育内容決定権があるとしていますが?
W 問題は、国とは何かです。
N 憲法26条の教育権は抽象的権利で、法律によって具体的権利になるというのが通説でしたよね?
W そうです。本来は、教育内容も国会が法律で大枠は決めるべきなのです。ただし、専門的・学術的知識が要求されるので、法律の授権により、詳細は学習指導要領で決めることしてもかまわないと思います。問題は、現状の学習指導要領に小学校から大学までの現場の先生や児童・生徒・親の意見がほとんど反映されていない点です。

M 文部省は教育のプロとして自分たちが一番正しいと思っているのでは?
W しかし、官僚神話はここでも崩壊しています。
N どういうことですか?
W 今までは公立中学・高校でいいと思っていた親も、「2002年ショック」に備えて、泣く泣く塾に子どもを行かせているのです。しかし、不況下で行かせたくても、行かせられない親は、不安を抱えながらあきらめているのです。いずれにしても、親は困っています。
M 先生のお子さんは、3人ですよね。
W そうです。3人もいるので、大学は国公立大学じゃないと卒業は無理と思っていましたが、首都圏の国公立大学に入るためには、公立中学・高校では無理です。

N そう言えば、最近の文部省の内定者でも公立中学・高校出身者は少数派のようですね。
M 文部省のキャリアは、あの寺脇課長も含めて私立中学・高校の出身者が多いとも聞きます。
W 彼の世代では公立中学・高校出身者もかなりいるでしょうが、その後の世代では私立中学・高校の出身者が圧倒的に多いでしょうね。逆に、公立中学・高校出身者は希少価値が高いので、採用の時に有利かも知れません。
N 私立中学・高校の出身者が公教育のガイドラインをつくるのは矛盾していませんか?
M それに、文部省のキャリアは結婚していない人とか、子どもを親とか第三者に預けっぱなしの人も多いと聞きますが……。
W 別に、それは仕事の内容がよければ、問題はないと思います。ただ、文部省に限らず、もはや国民の多くは、官僚のやることはすべて正しいとは思ってはいません。逆に、すべて間違っているとも思ってもいません。結局、キャリアは、国民各層からのあらゆる意見を吸い上げ、集約したり、プロとして幾つかのプランを提示し、調整することによって、国民の信頼を得ることができるのではないかと思います。特に、これから入るであろう若い力に期待します。
N これから、勉強がんばります。
M 大変参考になりました。
W 来年は、現状分析だけでなく、もっと具体的な対策まで踏み込んで、教育論を論じたいと思います。では、よいお年を!
N 来年も、よろしくお願いします。
M 来年も、よろしくお願いします。
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