【論点】
偽計による競売入札妨害罪の成否(刑法96条の3)【判旨】
「原判決の認定によれば、被告人は、大和利太郎、坂本勝美及び藤川竹男らと共謀の上、徳島地方裁判所が不動産競売の開始決定をした大和ら所有の土地建物について、その売却の公正な実施を阻止しようと企て、同裁判所に対し、賃貸借契約が存在しないのにあるように装い、右土地建物は既に他に賃貸されているので取調べを要求する旨の上申書とともに、大和らと坂本、藤川との間でそれぞれ競売開始決定より前に短期賃貸借契約が締結されていた旨の内容虚偽の各賃貸借契約書写しを提出したというのであるから、被告人に刑法九六条の三第一項所定の偽計による競売入札妨害罪が成立することは明らかであり、これと同旨の原判決の判断は、正当である。」
【判例のポイント】
裁判所が不動産競売開始決定をした不動産について、その売却の公正な実施を阻止しようと企て、裁判所に対し賃貸借契約が存在しないのにあるように装い、不動産は既に他に賃貸されているので取調べを要求する旨の上申書とともに、競売開始決定より前に短期賃貸借契約が締結されていた旨の内容虚偽の賃貸借契約書写しを提出したときは、刑法96条の3第1項の「偽計による競売入札妨害罪」が成立する。
【ワンポイントレッスン】
刑法96条の3は、公の入札が公正に行われることを保護するものなので、実体のない賃貸借契約の存在を裁判所に主張しただけでは、必ずしも競売手続が妨害されたとは言えないように見える(前田・各論・3版・P450)。
しかし、本コーナーの愛読者は御存知の通り、
「短期賃貸借」絡みの物件=パンチヘッドのお兄さん絡みの物件
である(意味がわからない人は、民法担保物権第1位を参照)。
従って、善良な一般市民は、そんなアブナイ物件の入札に参加しようとは思わない。
すると、「短期賃貸借」がハッタリだと知っている者が、安い値段で落札して得をするようなことになりかねない。
つまり、「虚偽の短期賃貸借を主張する当事者が存在する」こと自体が、入札の「公正」を害する危険性を持つ。
以上のような事情を踏まえて、本件では「偽計による競売入札妨害罪」(抽象的危険犯)の成立が認められたわけである。
【試験対策上の注意点】
国 I 受験生は、事案の概要と判例の結論を押さえておこう。