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今年狙われる重要判例
憲法1 (2/2)
(最判平11.9.28=平11重判・憲法1)

 日蓮正宗の法主Aから住職罷免の懲戒処分を受けたXが、Aは処分権限を持たず懲戒処分は無効であるとして、宗教法人の代表役員等の地位確認を求めた事例である。

[参考]
裁判所法3条1項
   裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。
【論点】
 宗教法人の代表役員等の地位確認請求は「法律上の争訟」にあたるか

【判旨】
「上告人(X)の請求は、上告人が被上告人(宗教法人)の代表役員及び責任役員の地位にあることの確認を求めるものであるが、原審は、要するに、阿部日顕が被上告人の包括宗教法人である日蓮正宗の法主として上告人に対してした住職罷免処分の効力の有無が本件請求の当否を決する前提問題となっており、阿部日顕が日蓮正宗の教義にいう血脈相承を受け右処分の権限を有する法主の地位に就いたかどうかが、本件紛争の本質的な争点となっているとともに、右処分の効力を判断するために不可欠であるところ、右の点を判断するためには、日蓮正宗の教義及び信仰の内容に立ち入って血脈相承の意義を明らかにすることが必要であるから、本件訴訟は、結局、法令の適用によって最終的解決を図ることのできない訴訟であり、裁判所法三条にいう「法律上の争訟」に当たらないとして、これを却下している。
 所論は、原審の右判断の違法、違憲をいうが、本件記録によって認められる本件紛争の経緯及び当事者双方の主張に照らせば、本件は、宗教団体とその外部の者との間における一般民事上の紛争などとは異なり、宗教団体内部における教義及び信仰の内容を本質的な争点とするものであり、訴訟の争点につき判断するために宗教上の教義及び信仰の内容について一定の評価をすることを避けることができないものであるから、本件訴訟は法令の適用によって最終的解決を図ることのできないものであって、上告人の訴えを却下すべきものとした原審の判断は、是認することができる。
 また、所論は、本件請求が法律上の地位の確認を求めるものであり、請求原因事実に争いがないのであるから、宗教上の教義及び信仰の内容に係る(宗教法人の主張する)抗弁事実を不適法として排斥し本件請求を認容すべきであるというが(注を参照)、法律上の地位の確認を求める請求であっても、請求の当否を判断するために抗弁事実について判断することが不可欠であり、かつ、当該抗弁事実が宗教上の教義及び信仰の内容に係り裁判所がこれを審理判断することが許されない場合においては、抗弁事実のみを不適法として排斥することは許されず、当該訴えは不適法として却下されるべきものである。
 原判決に所論の違法はなく、右違法のあることを前提とする所論違憲の主張も失当である。論旨は採用することができない。」

(注)筆者の推測だが、Xが、自分が過去に代表役員等に選ばれたことを「請求原因事実」として主張し、これに対して、宗教法人が、それは認めつつ(自白が成立し、裁判所はそのまま判決資料としなければならない、弁論主義第2テーゼ、民事訴訟法179条)、その後に罷免の懲戒処分があったことを「抗弁事実」として主張した、と思われる。

【判例のポイント】
1.本件において上告人が、宗教法人の代表役員・責任役員の地位にあることを確認するには、その教義・信仰の内容に立ち入ることが必要であり、結局、法令の適用によって最終的解決を図ることのできない訴訟であり、裁判所法三条にいう「法律上の争訟」に当たらない。
2.法律上の地位確認を求める請求であっても、請求の当否を判断するために抗弁事実について判断することが不可欠であり、かつ、抗弁事実が宗教上の教義・信仰の内容に係り裁判所がこれを審理判断することが許されない場合においては、(宗教法人の主張する)抗弁事実のみを不適法として排斥することは許されず、(Xによる)当該訴えは不適法として「却下」される。

【ワンポイントレッスン】
1.法律上の争訟
 (1)具体的な権利・義務又は法律関係に関する紛争で、(2)法の適用による終局的解決の可能なもの、と解されている。
 本件は、「宗教法人法」という法律上の地位に関するもので、(1)の要件は満たすが、教義・信仰に立ち入る問題なので、(2)でアウトとなる。

2.信教の自由(20条) VS 裁判を受ける権利(32条)
 論文試験では、この利益考量で悩みを見せる必要がある。
 本件では、宗教団体の自律性が尊重された代わりに、Xの裁判を受ける権利が侵害された、と見ることもできる。Xの訴えは、不適法「却下」=門前払いだからである。
 この点、「訴訟判決」(却下)では役員等の地位が不安定となり、かえって宗教団体の自治が害される恐れもあるので、教義の解釈等が前提問題となる場合であっても、「法律上の争訟」性を肯定して、裁判所は「本案判決」(棄却or認容)をすべきだ、とするのが多数説である(重判・解説)。
 なお、佐藤幸治教授は「いかに宗教的性質のものであれ、宗教団体の正式の決定があると目すべき場合であれば、裁判所はその決定に依拠して法的判断をすべき」と述べている(佐藤・憲法・p498)。

3.民事訴訟法を少し学ぼう
 民訴の知識がない人は、おそらく、判決文を読んでもいまいちピンと来なかったであろう。一般的な公務員試験の科目ではないが、民訴の知識があると、憲法の裁判所、行政法の行政事件訴訟、民法全般がわかりやすくなる。
 辞書として民訴の基本書を一冊くらいは持っておいたほうがよい。以下、主要なものを紹介する。
 (1)有斐閣大学双書「新民事訴訟法講義」
 →通説・判例を中心に、客観的に書かれている。横書き。判例索引なし。
 (2)伊藤眞「民事訴訟法」(有斐閣)
  →横書きで、比較的読みやすい。判例索引が便利。
   著者は、現役の東大教授。某「カリスマ先生」とは別人です。
 (3)新堂幸司「新民事訴訟法」(弘文堂)
  →縦書きで、重厚な文章。判例索引あり。憲法の佐藤幸治オタクにお勧め。
   佐藤教授の司法権の部分は、新堂教授の強い影響がうかがわれる。

【試験対策上の注意点】
 宗教団体の紛争と「法律上の争訟」は、択一・論文のいずれにおいても重要論点である。
 判例六法・憲法76条の判例は、まとめてつぶしておこう。

(沖田)

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