【判旨】
「労働協約は、利害が複雑に絡み合い対立する労使関係の中で、関連性を持つ様々な交渉事項につき団体交渉が展開され、最終的に妥結した事項につき締結されるものであり、それに包含される労働条件その他の労働者の待遇に関する基準は労使関係に一定期間安定をもたらす機能を果たすものである。
労働組合法は、労働協約にこのような機能があることにかんがみ、16条において労働協約に定める上記の基準が労働契約の内容を規律する効力を有することを規定しているほか、17条において一般的拘束力を規定しているのであり、また、労働基準法92条は、就業規則が当該事業場について適用される労働協約に反してはならないこと等を規定しているのである。
労働組合法14条が、労働協約は、書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印することによってその効力を生ずることとしているゆえんは、労働協約に上記のような法的効力を付与することとしている以上、その存在及び内容は明確なものでなければならないからである。
換言すれば、労働協約は複雑な交渉過程を経て団体交渉が最終的に妥結した事項につき締結されるものであることから、口頭による合意又は必要な様式を備えない書面による合意のままでは後日合意の有無及びその内容につき紛争が生じやすいので、その履行をめぐる不必要な紛争を防止するために、団体交渉が最終的に妥結し労働協約として結実したものであることをその存在形式自体において明示する必要がある。
そこで、同条は、書面に作成することを要することとするほか、その様式をも定め、これらを備えることによって労働協約が成立し、かつ、その効力が生ずることとしたのである。
したがって、書面に作成され、かつ、両当事者がこれに署名し又は記名押印しない限り、仮に、労働組合と使用者との間に労働条件その他に関する合意が成立したとしても、これに労働協約としての規範的効力を付与することはできないと解すべきである。
【判例のポイント】
(組合法14条に従い)書面に作成され、かつ、両当事者がこれに署名し又は記名押印しない限り、仮に、労働組合と使用者との間に労働条件その他に関する合意が成立したとしても、これに労働協約としての規範的効力(組合法16条)を付与することはできない。
【ワンポイントレッスン】
1.労働協約とは
労働組合と使用者又はその団体との間に結ばれる労働条件その他に関する協定をいう。
書面に作成し、両当事者が署名又は記名押印することによって効力を生じる(労働組合法14条)。
労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とされ、協約で定めたところによる(同16条)。
原則として両当事者とその構成員のみを拘束するが、一定の場合にはその他の労働者、使用者をも拘束する(同17条・18条)。
2.労働協約の規範的効力とは
労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は無効であり(=強行的効力)、その無効となった部分や、労働契約に定めがない部分は、労働協約の定めた基準による(=直律的効力)。これを労働協約の「規範的効力」(同16条)という。
3.本判決
労働組合法14条は「労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する労働協約は、書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印することによつてその効力を生ずる」と、労働協約の効力発生要件を定める。
では、14条所定の要件を欠く、労使間の合意の効力はどうなるか?
本判決は、そのような単なる労使間の合意に、規範的効力(16条)を与えないことを明確にした点で、注目される。
【試験対策上の注意点】
「労働協約」の問題で出題される可能性が高い。ぜひ押さえておこう。