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今年狙われる重要判例
憲法2 (2/8)
(最大判平12.9.6=平11重判・憲法8に関連)

 平成10年7月12日選挙当時における参議院・選挙区選出議員の定数配分規定(最大較差4.98倍)の合憲性が争われた。

【論点】
 参議院選挙における一票の較差(選挙権の平等、憲法14条)

【判旨】
「一.
 憲法は、選挙権の内容の平等、換言すれば、議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等、すなわち投票価値の平等を要求していると解するのが相当である。
 しかしながら、憲法は、どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるのかの決定を国会の広い裁量にゆだねているのであるから、投票価値の平等を選挙制度の仕組みの決定における唯一、絶対の基準としているものではなく、投票価値の平等は、原則として、国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものと解さなければならない。
 それゆえ、国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り、それによって投票価値の平等が損なわれることになっても、やむを得ないと解すべきである。

 ところで、参議院議員選挙法(昭和二二年法律第一一号)は、参議院議員の選挙について、参議院議員二五〇人を全国選出議員一〇〇人と地方選出議員一五〇人とに区分した上で、全国選出議員については、全都道府県の区域を通じて選出されるものとする一方、地方選出議員については、都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとし、各選挙区ごとの議員定数につき、憲法が参議院議員は三年ごとにその半数を改選すべきものとしていることに応じて、各選挙区を通じその選出議員の半数が改選されることになるように配慮し、定数は偶数としその最小限を二人として、人口に比例する形で二人ないし八人の偶数の議員数を配分した。
 昭和二五年に制定された公職選挙法の参議院議員定数配分規定は参議院議員選挙法の議員定数配分規定をそのまま引き継ぎ、その後、沖縄返還に伴い沖縄県選挙区の議員定数二人が付加された外は、平成六年法律第四七号による議員定数配分規定の改正(以下「本件改正」という。)まで右定数配分規定に変更はなかった。
 なお、昭和五七年に参議院議員が比例代表選出議員一〇〇人と選挙区選出議員一五二人とに区分されることになったが、比例代表選出議員は全都道府県を通じて選出されるものであって、各選挙人の投票価値に差異がない点においては、従来の全国選出議員と同様であり、選挙区選出議員は従来の地方選出議員の名称が変更されたにすぎない。
 本件改正も右のような参議院議員の選挙制度の仕組み自体を変更するものではない。

 右のような参議院議員の選挙制度の仕組みは、憲法が二院制を採用した趣旨から、参議院議員の選出方法を衆議院議員のそれとは異ならせることによってその代表の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとする意図の下に、参議院議員を全国選出議員ないし比例代表選出議員と地方選出議員ないし選挙区選出議員とに分け、後者については、都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と実体を有し政治的に一つのまとまりを有する単位としてとらえ得ることに照らし、これを構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しようとしたものであると解することができる。
 したがって、公職選挙法が定めた参議院議員の選挙制度の仕組みは、国民各自、各層の利害や意見を公正かつ効果的に国会に代表させるための方法として合理性を欠くものとはいえず、国会にゆだねられた立法裁量権の合理的行使として是認し得るものである。
 そうである以上、その結果として各選挙区に配分された議員定数とそれぞれの選挙区の選挙人数又は人口との比率に較差が生じ、そのために選挙区間における選挙人の投票価値の平等がそれだけ損なわれることとなったとしても、これをもって直ちに右の議員定数の定めが憲法一四条一項等の規定に違反して選挙権の平等を侵害したものとすることはできない。
 すなわち、右のような選挙制度の仕組みの下では、投票価値の平等の要求は、人口比例主義を最も重要かつ基本的な基準とする選挙制度の場合と比較して、一定の譲歩を免れない
 また、社会的、経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口の異動につき、それをどのような形で選挙制度の仕組みに反映させるかなどの問題は、複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要求するものであって、その決定は、種々の社会情勢の変動に対応して適切な選挙制度の内容を決定する責務と権限を有する国会の裁量にゆだねられているところである。
 したがって、議員定数配分規定の制定又は改正の結果、右のような選挙制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態を生じさせたこと、あるいは、その後の人口異動が右のような不平等状態を生じさせ、かつ、それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する何らの措置も講じないことが、複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量的権限に係るものであることを考慮してもその許される限界を超えると判断される場合に、初めて議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。

 以上は、最高裁昭和五四年(行ツ)第六五号同五八年四月二七日大法廷判決・民集三七巻三号三四五頁(以下「昭和五八年大法廷判決」という。)、最高裁平成六年(行ツ)第五九号同八年九月一一日大法廷判決・民集五〇巻八号二二八三頁(以下「平成八年大法廷判決」という。)、最高裁平成九年(行ツ)第一〇四号同一〇年九月二日大法廷判決・民集五二巻六号一三七三頁(以下「平成一〇年大法廷判決」という。)の趣旨とするところでもあって、これを変更する要をみない。

二.
 右の見地に立って、以下、平成一〇年七月一二日施行の参議院議員選挙(以下「本件選挙」という。)当時の公職選挙法の一四条及び別表第三の参議院(選挙区選出)議員定数配分規定(以下「本件定数配分規定」という。)の合憲性について検討する。

 本件改正前の参議院議員定数配分規定の下で、昭和五八年大法廷判決は、昭和五二年七月一〇日施行の参議院議員選挙当時における選挙区間の議員一人当たりの選挙人数の最大較差一対五・二六(以下、較差に関する数値は、すべて概数である。)について、また、最高裁昭和六二年(行ツ)第一二七号同六三年一〇月二一日第二小法廷判決・裁判集民事一五五号六五頁は、昭和六一年七月六日施行の参議院議員選挙当時の右最大較差一対五・八五について、いまだ違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするには足りない旨それぞれ判示していたが、平成八年大法廷判決は、平成四年七月二六日施行の参議院議員選挙当時の右最大較差一対六・五九について、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていた旨判示するに至った。
 原審の適法に確定した事実関係等によれば、本件改正は、右のような選挙区間における較差を是正する目的で行われたものであり、直近の同二年一〇月実施の国勢調査結果に基づき、できる限り増減の対象となる選挙区を少なくし、かつ、いわゆる逆転現象を解消することとして、七選挙区で改選議員定数を四増四減したものであり、その結果、右国勢調査による人口に基づく選挙区間における議員一人当たりの人口の較差は、最大一対六・四八から最大一対四・八一に縮小し、いわゆる逆転現象は消滅することとなった。
 その後、本件定数配分規定の下において、人口を基準とする右較差は、同七年一〇月実施の国勢調査結果によれば最大一対四・七九に縮小し、選挙人数を基準とする右較差も、本件改正当時最大一対四・九九であったところ同年七月二三日施行の参議院議員選挙当時においては最大一対四・九七に縮小していた。
 平成一〇年大法廷判決は、本件改正の結果残ることとなった右の較差について、投票価値の不平等が到底看過することができないと認められる程度に達しているとはいえず、右選挙当時において本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示している。
 そして、本件選挙当時における選挙人数を基準とする右較差が最大一対四・九八であったことは、当裁判所に顕著である。

 前記のとおり、参議院議員の選挙制度の仕組みの下においては、投票価値の平等の要求は一定の譲歩を免れないところであり、また、較差をどのような形で是正するかについては種々の政策的又は技術的な考慮要素が存在する。
 さらに、参議院(選挙区選出)議員については、議員定数の配分をより長期にわたって固定し、国民の利害や意見を安定的に国会に反映させる機能をそれに持たせることとすることも、立法政策として合理性を有するものと解される。
 これらにかんがみると、本件改正の結果なお右のような較差が残ることとなったとしても、右の較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は、当該選挙制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度に達しているとはいえず、本件改正をもって立法裁量権の限界を超えるものとはいえない
 そして、前記のような本件改正後の本件定数配分規定の下における議員一人当たりの人口の較差及び選挙人数の較差の推移にかんがみると、本件選挙当時において本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない

三.
 以上のとおりであるから、本件定数配分規定が本件選挙当時憲法に違反するに至っていたということはできないとした原審の判断は、結論において是認することができる。
 論旨は、原判決の結論に影響のない説示部分を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 よって、裁判官河合伸一、同遠藤光男、同福田博、同元原利文、同梶谷玄の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。」

【判例のポイント】
1. 憲法14条は、「投票価値の平等」をも要求する。
2. 選挙制度の決定は「国会の広い裁量」に委ねられる。
3. 国会の裁量権の範囲内で、投票価値の平等も制限される。
4. 参議院は「都道府県代表」的な性格を持ち、人口比例主義は後退する。
5. 最初から不平等な議員定数配分規定を制定した、又は、事後的な不平等状態を相当期間放置したことが、国会の立法裁量の限界を超えたとき、初めて違憲となる。
6. 以上の点につき、従来の判例を踏襲。
7. 最大較差「1対4.98」は、憲法14条に違反しない。

【ワンポイントレッスン】
1.一票の較差
 憲法は「2院制」を採用しており(42条)、両議院は「全国民の代表」(43条)であるが、全く同じ性格を与えてしまっては、せっかく二つもある意味がない。そこで、判例は
 衆議院=全国民代表
 参議院=全国民代表+地域代表
という、意味付けをしている。
 学説では、衆議院については、一票の較差「1対2」が合憲ライン、とするのが多数説であるが、参議院については、「1対2」〜「1対5」まで争いがある(芦部・憲法P137)。
 確かに、二院制の趣旨より、参議院については立法裁量が広く解されるが、事実上「田舎は一人5票、都会は一人1票」という異常な状況は、果たして、やむを得ない合理性が認められるだろうか?
 やはり、参議院についても、「1対2」以内になるべく近づくよう、選挙制度を改革していくべきだろう。

2.選挙権の平等違反の違憲審査基準
 論文試験のある受験生は、以下の芦部説を押さえておこう(芦部・憲法P125)。
 [厳格審査基準]
  立法目的=やむにやまれぬ公共的利益(必要不可欠な公益)
  立法目的達成手段=是非とも必要な最小限度

 なお、佐藤説は、厳格な合理性の基準(LRAの基準)だが、芦部説と大差はない。
 [厳格な合理性の基準](LRAの基準)
  立法目的=重要
  立法目的達成手段=必要最小限度

【試験対策上の注意点】
1. 「一票の較差」は、公務員試験における頻出分野である。本判決前半の一般論の部分はしっかり押さえよう。
2. 都庁・特別区「法律事情」では、本判決の具体例について、出題される可能性がある。最大較差「4.98」倍は合憲、という結論ぐらいは押さえよう。

(沖田)

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